古くなった賃貸住宅問題と空き家問題の解決へのヒント
第4回 本當にあった立退きの話(後編)
公開日:2016/06/29
ケース3
前回に続き、建物賃貸借契約の解約が認められるための法律上の要件は揃っていないものの、交渉で立退きが実現(xiàn)できたケースです。
ケース3【前提事実】
- ?対象となる建物(貸室)は、大阪市中央?yún)^(qū)の鉄筋コンクリート造4階建のうち、1階の一室(約20m²)。昭和45年建築。市営地下鉄の駅まで徒歩2分の好立地。
- ?賃貸人は當該建物で不動産賃貸業(yè)を営む65歳の男性。別の場所にある自宅にて妻、長男一家と同居。長女は結(jié)婚して東京に在住。
ケース3【建替えを決意するに至った経緯】
- ?東日本大震災(zāi)の発生から當該建物の耐震性が心配になり、専門家に耐震診斷を依頼した結(jié)果、問題があることが判明。
- ?耐震補強工事に1,000萬円程度、大規(guī)模な保全改修工事を行うには5,000萬円以上かかるとの見積りを取得。
- ?金融機関から借入れをして建替えを行うことが相続対策に有効という周囲の勧めもあり、古くなった當該建物の建替えを決意。建築図面と収益計畫を策定。
- ?賃借人との賃貸借契約書を確認すると、一番新しく契約した賃借人は賃貸期間が平成18年10月から10年となっており、その時點では期間満了までまだ4年ほど時間がある。なお、當該賃借人は當該貸室で喫茶店を営業(yè)。
- ?他の賃借人についてはいずれも法定更新によって期間の定めのない賃貸借契約となっている。いずれも居住目的の賃貸借契約。
- ?賃貸人は、一番新しい賃借人との契約期間が満了するまで建替計畫を待つのでは遅いと考えて、平成24年8月、賃借人全員との立退き交渉を一斉に開始。
ケース3【交渉の経過と結(jié)果】
- ?賃貸人側(cè)は、賃借人側(cè)の引越し先についての希望を聴取した上で、それぞれに対して複數(shù)の移転先の物件情報を提供。
- ?居住目的の賃借人についてはいずれも、引越代の実費のみを補償することで退去合意が成立し、交渉開始から3か月前後で退去完了。
- ?喫茶店を営業(yè)する賃借人は弁護士を代理人にして、立退料の提案を要求したことから、賃貸人側(cè)が立退料として500萬円を提案したところ、當該賃借人側(cè)はこれを拒否し、対案として2,000萬円を要求。
- ?賃貸人側(cè)から、過去の裁判例をもとに、耐震診斷書、耐震補強工事等の見積書を提示して交渉した結(jié)果、賃借人の希望にある程度合う引越し先が見つかったこともあり、4か月間の交渉の末に、立退料900萬円、立退き期限を2か月以內(nèi)とすることで退去合意が成立し、當該期限までに退去完了。
以上のケースで、賃貸人は契約書で定められた期間満了を待つことなく、また裁判手続によることなく、比較的短期間で立退きを?qū)g現(xiàn)することができ、建替計畫に著手することができました。
このように、建物賃貸借契約の解約が認められるための法律上の要件が揃っていないにもかかわらず、交渉で立退きを?qū)g現(xiàn)できるケースは他にも數(shù)多くあります。
それは、借地法や借家法が制定されたころとは異なって、現(xiàn)在では不動産賃貸市場が成熟し、引越先?移転先が見つかりやすいため、適當な引越先?移転先が見つかり、また、適正な補償さえなされれば、賃借人側(cè)が立退きそのものを拒否する理由がそれほど多くないという事情が一つの理由として考えられます。
ただし、賃借人側(cè)から立退料として法外と言わざるを得ない金額を請求されるケースもありますので、賃貸人側(cè)としては事業(yè)として採算がとれるかどうかという見地から、立退料や必要に応じて弁護士費用の予算を含めた見通し?スケジュールを立てた上で、ポイントを押さえた交渉を行い、経営判斷としての意思決定をする必要があります。
ケース4
ここまでは、耐震性に問題があるという事情が、建替えのために立退きを求めていく上で重要なポイントになるというケースをご紹介してきました。
最後に、耐震性に問題がある建物をそのまま放置しておき、これが地震で倒壊してご入居者などに損害が発生した場合に、賃貸人の損害賠償責任はどうなるのかという問題について參考になるケースとして、平成11年9月に神戸地裁で言渡しのあった判決をご紹介します。
このケースは、阪神?淡路大震災(zāi)により、賃貸マンションの1階部分が倒壊し、1階部分の賃借人らが死傷したことから、その遺族らが賃貸人等に対して、総額約3億円余の損害賠償を請求したというものです。
判決では、當該マンションは、建築當時の基準でみても、建物が通常備えているべき安全性を備えておらず、仮に建築當時の基準で通常備えているべき安全性を備えていたとすれば、1階部分が完全に押しつぶされる形での倒壊には至らなかった可能性があり、賃借人らの死傷は阪神?淡路大震災(zāi)という不可抗力によるものとはいえず、當該マンション自體の欠陥と想定外の揺れの地震とが競合してその原因になったと認定され、結(jié)論として、賃貸人には損害額の5割について責任があるとし、合計1億2,900萬円の損害賠償責任が認められました。
この裁判では、建築當時の建築基準法上の基準に沿って実際に建築されているかどうかが検証され、建築當時の基準に沿って建築されていない場合には、現(xiàn)行の基準の想定を超える大地震が起こった場合でも、損害賠償責任を免れないことが示されました。
建築當時の建築基準法上の基準に従って建築されるべきことは當然ですが、実際には基準に沿って建築されていないことが後になって判明するケースは後を絶ちません。
耐震診斷等の結(jié)果、問題が判明した場合には、そのまま放置しておかず、耐震補強や建替えといった改善策を行うことがやはり大切です。
そのような場合で、建替えを行うために既存のご入居者に立退きを求めるときには、裁判所が立退きを認める上で耐震性等に問題があるという事情を重要なポイントとして取り扱ってくれることは前述のとおりです。