稅理士リレーインタビュー 第三回 「相続という「將來起こりうるリスク」に備え、最適なソリューションを提案するのが會計事務所の役割」 望月光男會計事務所 稅理士 望月光男様
公開日:2017/02/28
インタビュアー(以下I):資産稅や相続稅に関して、最近の傾向としてどのような相談內容が増えていますか。
望月(以下M):「相続稅がいくらか」というのが一番で、二番目は「揉めないようにするにはどうしたらいいか」、つまり「相続分をどうするのか」というご相談が多いですね。
ただし、そこには「権利と義務」の問題があります。私個人は「義務を果たした分だけ権利が生まれる」と考えています。
例えば、本家に殘った人というのは、外に出ていった人たちとは違って、親御さんの面倒、近所づきあい、お寺の行事など、家を守るために日頃から一生懸命やっているわけです。なのに、家から出て義務を果たさずにきた人たちが「生まれながらにして権利がある」と、財産だけは同等に要求するのはおかしいのではないかと思っています。
財産がどれだけあって、それをちゃんと守ってくれるのはいったい誰なのか、ということがわかるのは、結局その所有者ですから、財産をお持ちの方は遺言という形できちんと意思表示をしておくことが必要です。何もしないでお亡くなりになると、やはり大変です。昔と比べて変わってきたことといえば、そこで揉めるということでしょうね。
I:先祖代々引き継いできた土地については、皆様思い入れが強くて、なかなか運用や活用をしていこうという考え方にはならないのかもしれませんね。
M:そうなんです。特に農地の場合、今までそこで作物をつくって生活してきたという歴史なり実感なりがありますから、その土地が財産として「評価対象」になるという考え方はしにくいようです。息子さんたちの世代は「この土地が將來は稅金の対象になって、どれだけ払わないといけないのか」という意識もあり、売卻も視野に入れていますが、親御さんの世代は土地を売ることをなかなか考えられません。
土地を守って貧乏な暮らしをするくらいなら、一部分でも売って、もう少し豊かな生活をしたほうがいいという考えもありますが、考え方はやはり十人十色です。
稅金が安くなるに越したことはないですが、私どもとしても、ご家族の生き方や考え方に反した方法をお勧めするわけにはいきません。何回もお會いして、年齢、健康狀態、家庭環境などもすべて踏まえたうえで、そのご家族が何を求めているのかということに沿って、できる限りお役に立ちたいと思っています。
I:そうなると、普段からのコミュニケーションがとても重要になってきますね。
M:まさしく、「どれだけコミュニケーションをとれるか」に盡きると思います。當事務所では、資産対策のお客様には巡回訪問という形をとって、定期的にお話をさせていただいています。現在の所有者と相続人の方とでは考え方も全然違いますので、とにかく接觸回數を増やして、申告期限までの間に「何が望みなのか」を深く知ることが大事になってきます。
実際にお會いしてみると、そのつど驚くことも多くあります(笑)。
やはり感情の問題は大きいですね。あまりにも稅金主導で「これだけ得ですよ」などとお勧めすると不信感を持たれてしまいますし、家族関係の問題もあります。
また、今は「均分相続」が一般的になっていますが、お年寄りの方は基本的に「將來、家を守っていってくれる子どもに遺したい」というのが一番しっくりくるようで、そこのところで爭いが生じがちです。
私どものスタンスとしては、そういう問題があるのなら、なるべく爭いが起こらないような形に持っていきたいわけです。ですので、むやみに土地活用をお勧めすることはありませんが、結果的には多くの土地活用をご紹介させていただいています。
土地というのは確かに財産ですが、固定資産稅や將來の相続稅などもあり、活用しなければマイナスの財産になってしまうわけです。「活用して初めてプラスの財産になっていく」ということがポイントです。
I:巡回訪問時において、特に意識して配慮されている點はありますか。
M:実は資産対策の擔當者は全員女性です。女性には未來を想定する視點が男性より長けている気がしますので、巡回訪問に適していると思います。
巡回訪問の際には、まず「65萬円控除」をお勧めします。不動産所得の65萬円控除には何もリスクがなくて、お客様の得になることしかありませんから、皆さんに喜んでいただけます。そうやって少しずつコミュニケーションを深めていく中で、保険のご相談や「今度、うちのシミュレーションをやってよ」などという話になっていくわけです。
すると、稅金を払うのは親御さんではなくお子さんですから、「今の所得収入で相続稅が払えるのかどうか」が問題になり、たいていの場合は難しいことがわかります。私どもが本當にお役に立てるのは、たぶんそこからじゃないでしょうか。
それまでは、ごく當たり前の情報をきちんと提供することで、少なくともお客様が損をしないで済む狀態にしてあげるくらいのことしかできないのですが、こんなふうに段階を踏んで少しずつ信頼関係を築いていくことで本來の役割を果たせるようになります。
I:それくらい、稅金のことにあまり興味をお持ちではない方もいらっしゃるということでしょうか。
M:「稅金」の話など誰も聞きたくないでしょうから(笑)。
それでも最近は、自分が死んだときのことを考える方が増えてきた印象はあります。やはり、「相続稅、相続稅」と周りも言いますし、財産を所有している人と相続人になる方が、將來のことを一緒に話し合うのはとても有意義なことです。
そうやっていけば爭いは少なくなるように思うのですが、実際はそうでもありません。親御さんの前では「俺はいらないから」と言っていたのに、亡くなると豹変される方は少なくありません。ご本人の前では本音が言えないんですよね。だからこそ、絶対に遺言が必要になるわけです。
最近は、相続問題に限らず、至る所で権利意識が先行しすぎているような気がします。そういった意味では、會計事務所も、弁護士や司法書士と連攜を深めていく必要があると思います。
私どもは稅金の専門家であって、係爭の専門家ではありませんから、遺言書を殘す場合も、弁護士、司法書士とタッグを組んでやっておくと、會計事務所としても安心ですし、お客様ご自身も安心できると思います。今後は日本も訴訟社會になっていくでしょうから、やはりそういう手當てが必要になってくるのではないでしょうか。
I:やはり、所有者が亡くなる前に家族會議のような機會が必要ですね。
M:絶対にやるべきですし、できるだけ早めにやったほうがいいと思います。損得の観點から言うと、生前贈與であれば基礎控除が110萬円もありますから、財産をある程度売ってしまって、贈與稅があまりかからない範囲內で分けてしまうというのが、現実的には一番お得な方法です。
I:ご自身の財産を把握していない所有者の方も多いのでしょうか。
M:現金ならともかく、土地の値段というのはよくわからないもので、調べてみたら想定外の評価額だった、ということは少なくありません。やはり、まずは自分の家の財産の棚卸しをして、今の狀態と將來かかるコストを早めに知っておくべきです。また、そうしたことを全部把握したうえでないと、どうするべきか決めようがありません。
I:これまでの土地活用事例で、特に印象的だったものはありますか。
M:立地のいい場所に、ご兄弟4人で共有地を持っていたケースがありました。それを駐車場にしていたのですが、大した収入にはならず、固定資産稅も払えていない狀況でしたので、事態の改善を図るべく大和ハウス工業さんと組ませていただきました。立地條件がよかったのでマンションを建て、區分所有にしてもらいました。固定資産稅の負擔も駐車場に比べれば少なくなりますし、入居も十分に見込めましたから、いい方法でした。
他にも大和ハウス工業さんとのお仕事では、駐車場で苦労されている土地オーナー様にコンビニエンスストアを紹介いただいたり、商業施設にテナントを紹介いただいたり、普通の建築會社ではできないようなアイデアや実行力にずいぶん助けていただきました。「大和ハウス工業さんと組めば何とかなる、さすが大和ハウス工業さん」と思う事例はたくさんあります。
I:大和ハウス工業に対するお客様からの評価はいかがですか。
M:とても評価していただいています。私どもが大和ハウス工業さんとなぜおつきあいしたいかというと、歴史ある會社だからです。これは絶対です。何十年というスパンの中で存続する會社って意外と少ないですから。
また、土地オーナー様の了解を得て情報をお渡ししておくと、大和ハウス工業さんは長い目できちんとフォローしてくださいます。私どもが持っていない知識もお持ちですし、目先の利益に走って押し売りするようなこともされません。ご相談すればすぐに対応していただけます。このような何十年先までも信頼が置けるおつきあいがお客様の利益にもつながるわけです。
I:相続稅対策と不動産活用は直結していると言われますが、現狀はいかがでしょうか。
M:土地の評価額や入居率など、不動産活用にもさまざまなリスクがあります。それでも、「土地を放っておけば、預金などとは違い費用が掛かる」のは確かなことであり、相続者の所得が少ないと稅金を払っていけなくなります。
もし、いい形で土地を活用できていれば、その活用で得た潤沢な収入の分で土地を保有できますが、所得があまりない場合、土地があればあるほど草取りだけでも大変で、管理の負擔もあり、かなりの相続稅もかかります。だとしたら、ちょっと考え方を変えて、ある程度は現金化しておき、生活を楽にするほうが合理的な場合もあります。すべての土地を手放す必要はなく、例えば活用しにくい土地は早めに住宅地として売卻してしまい、そこで手にした現金を使って殘した土地の活用を進めるという方法もあります。
土地活用は短期間で考えるものではなく、長期間、検討を重ねに重ねて、皆様にとっていい方法を考えていくべきものです。土地に対する意識は本當に人それぞれであり、だからこそ気軽にご相談に來ていただきたいのです。しかしやはりハードルが高いとか、いくらかかるかわからないとか、不安に思われる方が多いのも事実です。
稅理士の仕事の基本は、お客様の幸せをどうやって考えるかというところですから、土地オーナー様は安心して、お近くの會計事務所や稅理士事務所にご相談ください。
I:最後に、土地をお持ちの方にアドバイスはありますか。
M:相続に関しては、揉めることが前提だと思ったほうがいいですね。ご自身の財産がどうなるかをしっかり把握し、生きているうちに絶対に遺言書をつくっておくこと。そして、稅務対策として最も合理的な方法は生前贈與だということです。
ただ、ご高齢になるほど、自分のお金がなくなることに不安を感じる方も多いので、納得できないのであれば生前贈與を無理にお勧めはしません。
I:やはり、被相続者と相続者、皆様に満足していただきたいですね。
M:そのとおりです。相続対策はやればやっただけの成果があり、100萬円単位、1000萬円単位で払う稅額が変わります。逆に、何もしなければ稅金は満額を払うことになります。相続は將來、起こりうるリスクですから、稅額や対策についてはできるだけ早い段階できちんと考える機會を設けるべきだと思います。