コラム vol.048
相続稅シリーズ(2)
「不動産は借入をして購入した方が相続稅対策になる?」
執筆:稅理士 萱谷有香
公開日:2014/09/01
2回目は、「不動産を購入する際は、銀行から借り入れをした方が相続稅の対策になるのか?」というテーマについてお話して參ります。
まず、相続稅の基礎知識として知っておいて頂きたいことは、相続が発生したときに亡くなった人から相続人が引き継ぐ財産はプラスの財産(現金?有価証券?不動産等)だけではありません。相続が発生した時の、亡くなった人のマイナスの財産(借入金?固定資産稅の未払分等)も引き継ぐことになるのです。
ただ、相続稅の計算をする上では、このプラスの財産からマイナスの財産を控除することができるので、借入金などの債務がプラスの財産よりも多い場合は相続稅がかからないということになります。
このような基礎知識をもとに、「相続開始時には借金があった方が、相続稅がかからないので不動産のような大きい買い物をするときは借り入れをして買った方がよい!!」と考える方が多いのですが、果たしてこれは正しいのでしょうか?
ここで1つ例を挙げて考えてみたいと思います。
Aさんが現金1億円を持っていたとします。
Aさんはこの現金1億円を使って下記のような土地を購入します。
- ?時価1億円
- ?路線価 20萬円
- ?土地面積 400m2
現金1億円は相続財産の評価額においても1億円ですが、土地は路線価×土地面積=相続財産の評価額ですので、20萬円×400m2=8,000萬円が評価額となり評価が下がることは前回お伝えした通りです。
結果、2,000萬円が節稅の対象額となります。
それでは、同じAさんが手元にある現金1億円を使わずに、1億円の借り入れをして先ほどと同じ時価1億円の土地を購入してみたらどうなるでしょうか。
まず購入前の狀況は先ほどと変わりません。
ただ、今回は借り入れをしますので、借り入れによってプラスの財産(現金)が1億円増えるとともにマイナスの財産(借入金)も1億円増え、トータルとしてはプラスの財産2億円-マイナスの財産1億円で殘りは1億円のプラスになっています。
ここまでの狀況をみると、借り入れをしても購入前と何も変わっていないことが分かります。
では、この借り入れた1億円を使って土地を購入すると
プラスの財産:1億円(現金)+8,000萬(土地)=1億8,000萬円
マイナスの財産:1億円(借入金)
となり、トータルとしては8,000萬円になります。
結果、2,000萬円が節稅の対象額となります。
こう見てみると、自己資金を出して土地を購入した時と、借り入れをして土地を購入した時の最終的な評価額も節稅の対象額も全く変わりません。
つまり、「借り入れはしてもしなくても結果は同じ」ということです。
以上のことから、借金があるから相続稅対策になったのではなく、借り入れてきた現金1億円が土地に変わったために相続稅対策になったと理解することが正しいです。
借金をしなくても相続稅評価額を減額させることは出來ますので、「借り入れをして購入した方が相続稅対策になる」という迷信には今後もご注意ください。