戦略的な地域活性化の取り組み(52)公民連攜による國土強靭化の取り組み【14】人口減少時代に対応した地域の取り組みを考える
公開日:2022/08/31
國際連合の世界人口推計2019年版によれば、世界の人口は現在約80億人で、今世紀中には100億人を突破するものの、その後ピークアウトし減少に転じると予測されています。一方、日本の人口はすでに減少に転じており、世界に先駆けて少子高齢化に対応した社會構造の変革が求められています。人口の増減は、経済活動や社會保障等に影響を及ぼしますが、人口そのものを計畫的にコントロールすることは不可能なことです。この困難な課題にどのように向き合えばよいのでしょうか。
世界人口の動向
世界の人口は、20世紀前半に20億人を超えると、第二次世界大戦後に爆発的に増加し、21世紀初頭に60億人を突破、現在は約80億人と推定されており、2050年頃に100億人を超えることが予測されています。特に今世紀は、サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ地域)の増加が著しく、今世紀中盤までの世界増加數の半分を占めると推計されています。その大きな要因が出生率の高さで、合計特殊出生率(15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの:女性一人當たりの平均出生數を示す、以後「TFR」)をみると、世界平均2.5に対してサブサハラアフリカは4.7となっています。人口が増加する地域では、生産年齢人口の増加による経済成長(いわゆる「人口ボーナス」)が期待できる一方、食料問題や農地拡大による環境破壊、飢餓や貧困等を招くことが危懼されています。
地球溫暖化等環境や資源問題と絡んで、人口爆発がクローズアップされるかたわら、先進國を中心に世界人口のほぼ半分が、人口規模を維持できる最低ラインであるTFR2.1を下回る地域に住んでおり、長壽化も進んでいることから、人口減少、少子高齢化、生産年齢人口の減少といった社會問題を抱える地域も増えています。加えて、グローバル化が進むにつれて、國際人口移動も活発になっており、地域によっては、人口流出?流入超過が人口変動の大きな要因となっています。このように、世界人口の動向は地域によって大きな差がありますが、來世紀にかけて、すべての地域でTFRが2.1を下回ると予測され、世界人口は約110億人をピークに減少に転じると推計されています。2100年以降の世界は、人類が経験したことのない人口減少時代に突入する公算が高そうです。
世界の先行事例としての日本
総務省統計局の人口推計によれば、日本の人口は、1950年約8,320萬人から純増し、約1億2,808萬人でピークを迎えた後、2011年から減少に転じ、2019年には約1億2,656萬人となっています。厚生労働省「令和3年度 出生に関する統計」をみると、日本のTFRは、1950年の3.65から2019年には1.36まで低下しています。また、地域的な特性としては、地方より都市圏の方が低い傾向があり、特に総人口の10%以上が生活する東京都のTFRは1.15と最低値を示しています。長壽化により減少はゆるやかではあるものの、人口減少傾向は避けられない狀況が分かります。
厚生労働省の推計
によれば、TFRが1.44で推移した場合、2065年の総人口は約8,800萬人に減少し、高齢化率は28.6%から38.4%に上昇、生産年齢人口割合は59,5%から51.4%に低下すると推計されています。女性の社會進出にともなって、未婚化、晩婚化、少子化が進展することは、多くの先進國で見られる傾向です。そのことを前提として、社會や経済に大きな影響を及ぼす要因である人口動態の変化に、柔軟に対応できる社會構造の変革?再生が求められます。國は、2020年に「少子化社會対策大綱」を策定し、「若い世代が將來に展望を持てるような雇用環境の整備、結婚支援、男女共に仕事と子育てを両立できる環境の整備、地域?社會による子育て支援、多子世帯の負擔軽減」を目標に、「性別役割分業を前提とした働き方、暮らし方を見直すことにより、経済的基盤の安定を図り、ワークライフバランスを確保し、多様なライフスタイルを可能にしていく」としています。世界に先立って少子高齢化、人口減少を経験する日本だからこそ、ニューノーマル(新しい常態)を公民連攜で大膽に醸成し、先進事例となるようなモデル的社會を実現するチャンスなのかもしれません。
國內外人口の流動化が將來的な人口維持に寄與
特定地域の人口を、地域內で計畫的に増減させることは、なかなか困難です。他方、地域間で人口を流入あるいは流出させることにより、地域人口を調整することは可能です。「田舎暮らしの本」(寶島社)の「住みたい田舎ベストランキング」で、愛媛県西條市が2020年から3年連続で若者世代部門1位に選ばれています。西條市は、人口約11萬人の地方都市で、西日本最高峰石鎚山の麓に位置し、北部瀬戸內沿岸には化學や造船などの工業地帯を有する、都市機能と自然環境を兼ね備えたコンパクトシティです。この西條市は、行政が中心となってコンシェルジュ機能を擔い、旅費?宿泊費?食費無料の「移住體験ツアー」や、最大1か月間居住できるお試し移住用住宅「リブイン西條ハウス」を運営するなど、地方から大都市圏にアプローチする手法で移住促進に力を注ぎ、大きな成果を上げています。
この取り組みによる移住者の意見をみると、「都會と田舎の中間」的な住みやすい地域として、ワークライフバランス、子育て環境、多様な食住環境等が評価されているようで、若者世代は「暮らしやすさ」や「生きやすさ」を意識する傾向にあるように思えます。西條市のような地方都市は、全國に少なからず存在していると思います。リモートワークが普及している現在、大都市圏に比べて生活環境の整備が容易な地方都市の地域資源を活用して、子育て世帯の移住を促進することは、將來的な人口維持に寄與する可能性があるのではないでしょうか。
大都市一極集中を解消し地方創生を推進することは、大規模災害やパンデミックを回避する目的に加えて、日本全體の人口を維持する観點からも、國土強靭化の重要な取り組みであると思います。