戦略的な地域活性化の取り組み(49)公民連攜による國土強靭化の取り組み【11】地域資源を再活用したスペース(空間)シェアビジネスで地域を活性化
公開日:2022/05/31
スペースシェアビジネスとは
近年、遊休あるいは未利用な土地や建物といった資源を再活用し、新たなビジネスモデルを展開するスペースシェアビジネスが活発になっています。
地方部においては、人口減少や少子高齢化により、空き家や耕作放棄地などの遊休地が増加しています。遊休?未利用地は、放置すれば収益を生まない資源ですので、地域経済にとってはマイナスとなります。これまでも自治體が中心となり、公民が連攜して空き家の撤去?再生の取り組みなど、課題の解決にあたってきました。一方で、都市部においても、高齢化と擔い手不足による事業承継の問題、最近ではリモートワークなど働き方の変化により未利用の空き家などが増加する傾向にあります。
そのような時代の流れを受けて、近年増加傾向にあるのが、物件を「所有」することから「共有(シェアリング)」するスペースシェアビジネスです。具體例としては、遊休?未利用物件を物置として提供するトランクルーム事業、宿泊施設として提供する民泊事業、セミナー會場、會議室、撮影スタジオ、料理教室などに活用するレンタルスペース事業、事業所用途として提供するレンタルオフィスやコワーキングスペース事業、理美容等の同業者が店舗を共有するシェアサロン、期間限定で店舗を提供するポップアップストアなど、多種多様なスペースシェアビジネスが生まれています。スペースシェアビジネスは、空き家?空き店舗の解消の手法としても期待されており、今後も、より魅力的なビジネスモデルが誕生するものと思われます。
付加価値の高いニッチなスペースシェアビジネス
ユニークなスペースシェアビジネスの事例として、特定非営利活動法人LEGIKA(レジカ)が運営する「トキワ荘プロジェクト」があります。「トキワ荘」とは、ご存じの通り、マンガ家を多く輩出した集合住宅で、現在でもプロのマンガ家を目指す若者の聖地的な存在です。その集積?集約による人材育成効果に著目してプロジェクト化したのが、2006年8月から活動をスタートした「トキワ荘プロジェクト」です。同じ目的を持つ人材が集積し能力を高め合う事業はスクーリング形式が一般的ですが、「トキワ荘プロジェクト」では、「住む、學ぶ、仕事を得る」支援を総合的に提供しており、2021年12月時點で、東京郊外を中心に7棟(約80室)展開しています。プロデビューに至るマンガクリエイターはほんのわずかだといわれる業界の中で、この取り組みにより、トキワ荘プロジェクト參加者のおよそ5人に1人がプロのマンガ家に成長するという大きな成果を上げています。ただ単に安い賃貸住宅を紹介することにとどまらず、同じ志を持つ仲間が高いレベルで切磋琢磨する環境の中で、プロジェクトに協力している編集者やベテランマンガ家、出版関係者と交流し、自他の作品や創作の仕方等について意見を交わすなどの人材育成支援プログラムを整備した點が、このプロジェクトの特徴です。企業や組織に屬さず、フリーランスとして技能に磨きをかけるクリエイターを支援する手法として、付加価値の高いシェアハウスを提供するこの取り組みは、スペースシェアビジネスの好事例として、注目されるビジネスモデルです。
スペースシェアビジネスの可能性
東京一極集中、地方の過疎化問題を解消するためには、人流を地方に向ける施策が必要です。最近では、IT技術の高度化により、テレワークやリモートワークという働き方のスタイルが定著しつつあり、また企業においても本社機能を地方へ移転するなど、地方再生のきっかけとなりそうな流れが出始めています。地方での受け皿として、空き家や空き店舗などの遊休施設を再生し、家主の家賃収益、借主の事業収益を相互に確保することで、地方経済の循環に資することができますし、空き家や空き店舗を活用したスペースシェアビジネスの付加価値化が進めば、都市と地方との関係人口や、地方への移住者の増加につなげることができるはずです。特に前述したような人材育成分野でのスペースシェアビジネスは、その対象者が若年層中心であり、地域特性にあまり影響を受けない點で、地域活性化に貢獻できる可能性が高いのではないでしょうか。大學や企業の地方誘致には、大きな資本と時間が必要ですが、スペースシェアビジネスであれば、比較的にコンパクトな事業展開が可能です。(株)情報通信総合研究所、および一般社団法人シェアリングエコノミー協會により2020年12月に発表された「シェアリングエコノミー市場調査」によれば、2021年度のスペースシェアビジネス市場規模は3564億円、2030年度には少なくとも2兆4053億円に拡大すると予測されています。地方において、スペースシェアビジネスを展開することで、地方の過疎化や高齢化問題の解消、遊休資源の再活用による生産性の向上、新たな地方文化の形成に貢獻できるとしたら、一考の価値がありそうです。
少し視野を広げると、リアルな公民の土地や建物に限らず、宇宙、海洋、さらにメタバース(仮想空間)といった未知?未利用なスペース(空間)を開拓し活用するチャレンジが全世界で進んでいます。日本が推進している「デジタル田園都市國家構想」とは、そのような事業の環境整備と捉えることもできます。