PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(45)公民連攜による國土強靭化の取り組み【7】労働生産性から見たPRE
公開日:2022/02/10
國を強靭化する上で、その基盤となる日本の生産力を上げることは重要です。2021年12月17日に発表された、公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の國際比較2021」によると、OECD加盟國における労働生産性の順位は1970年以降で最も低くなっています。
世界における日本の労働生産性の概要
OECDデータに基づく2020年の日本の時間當たり労働生産性(就業1時間當たり付加価値(粗利益))は、49.5ドル(購買力平価換算で5,086円)となっています。コロナ禍で経済が落ち込む中にありながら労働時間の短縮も進んだため、2019年から実質ベースでは1.1%上昇しました。それでも、米國の80.5ドル(8,282円)の6割程度の水準であり、OECD加盟38カ國中23位と1970年以降で最低ランクとなり、主要先進7カ國では1970年以降最下位の狀態が続いています。
また、2020年の日本の一人當たり労働生産性(就業者一人當たり付加価値)は、78,655ドル(809萬円)と実質ベースで2019年比3.9%落ち込みました。これは、ポーランドやエストニアといった東歐?バルト諸國と同水準であり、歐州で労働生産性水準が比較的低いとされる英國(94,763ドル/974萬円)やスペイン(94,552ドル/972萬円)よりも低く、OECD加盟38カ國でみると28位と1970年以降で最も低い順位であり、主要先進7カ國中最下位となっています。
一方、日本の製造業における2019年の労働生産性水準(就業者一人當たり付加価値)は、95,852ドル(為替レート換算で1,054萬円)で、米國(148,321ドル)の約65%、ドイツ(99,007ドル)より若干低い水準となっており、OECDに加盟する主要31カ國中18位となっています。
國內における労働生産性の特徴
労働生産性とは、労働者がどれだけ効率的に成果を生み出したかの指標であり、労働者の能力や効率の改善、経営努力などによって向上します。そして、労働生産性を向上させることは、経済成長や社會の豊かさをもたらす大きな要因でもあります。ここで、國內における労働生産性の現狀を企業規模別に見てみます。
表1:企業規模による労働生産性の比較
項目 | 大企業 | 中規模企業 | 小規模企業 | |
---|---|---|---|---|
企業數 | 社數 | 約1.1萬社 | 約53.0萬社 | 約304.8萬社 |
割合 | 0.3% | 14.8% | 84.9% | |
一人當たり労働生産性 | 上位10% | 1,578萬円 | 832萬円 | 646萬円 |
中央値 | 585萬円 | 326萬円 | 174萬円 |
「中小企業白書2020」より作成
※企業數は2016年経済センサスによる
中小企業白書2020によると、企業規模が大きいほど労働生産性が高い傾向がありますが、小規模企業の上位10%の水準は大企業の中央値を上回っており、中小企業の中にも高い労働生産性を維持する企業が一定程度存在していることも事実です。小規模企業は國內全就業者の約70%の生活を支え、國內付加価値額の約53%を生み出す経済基盤であり、また地域社會に密著した存在でもありますので、中小企業自體の労働生産性の底上げを地道に続けていく必要があるでしょう。
生産性向上に向けた地域の取り組み
中小企業白書2020によれば、業種別にみた場合、業種全體として労働生産性の水準が低い「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」、「小売業」などでは、企業規模による労働生産性の差があまりなく、「個別企業の経営努力や企業規模の拡大のみによって、労働生産性を大幅に向上させることは容易ではない可能性」も示唆されており、事業開発面でのイノベーションの推進が求められています。
さらに地方においては、その傾向は強くなりますが、その中でも、観光資源を活用し、地域における生産性向上を目指す事例も出ています。
岡山県津山市は岡山県の北部に位置する人口10萬人あまりの自治體です。江戸時代には津山城の城下町となり、現在でも當時の遺構や古い町並みが殘っており、2013年には國の重要伝統的建造物群保存地區に選定されました。市は、観光客の誘致、にぎわいの創出、地域活性化等を図るため、そのうち4棟の「舊苅田家付屬町家群」をリノベーションし、宿泊施設として活用するプロジェクトを発足させ、2020年に竣工しました。このプロジェクトでは、サウンディング型市場調査により、複數の民間事業者のアイデアを取り入れた結果、運営者による自由度の高い長期運営が可能で、かつ市の財政負擔が軽減されるPFI(コンセッション)方式が採用され、同施設は民間事業者による20年の運営権を設定するスキームで運営されています。現在では、景観向上や観光拠點の形成に加え、防犯面の改善、雇用創出や周辺店舗の売上に貢獻しているということです。この取り組みは、中小企業が多く地域の生産性向上が容易ではない地方都市において、文化財を活用した公民連攜による地域開発を通じて、地域商業の活性化、ひいては労働生産性を向上させる好事例だと思います。
労働生産性は就業者一人當たりのGDP(國民総生産)ともいえます。最近10年間のGDPの推移をみると、上位の米國や中國に比べて、日本は停滯傾向にあります。少子高齢化、人口減少が進む中で、日本なりの豊かさ、次世代に向けた「成長と分配」のあるべき社會バランスについて、地域や業界、公民が連攜して、垣根を超えた議論を活発化させる必要があるのではないでしょうか。