土地活用ラボ for Biz

コラム No.27-44

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 物流倉庫の自動化でSCM改革を起こす株式會社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征

公開日:2019/12/26

ロジスティクスの業界を変える

滝野:ひと口に自動化といってもいろいろな技術があり、様々な問題を解決することができるのですが、現狀は、なんといっても人件費が抜き差しならないくらい高騰しているということがあります。

秋葉:物流現場で働く人の賃金は毎年約3%上がっていると言われています。3年だと10%です。物流會社の営業利益率を考えると、経営的に難しいと言わざるを得ません。物流會社の営業利益率は大手でも2%臺です。だからこそ、給料が高くて、利益がきちんと出せる物流會社を作らなければなりません。
物流センターでは人件費のコストが大きな割合を占めますが、優秀なパートさんを使えるからそこに頼り切っていた、というのも現実だと思います。

滝野:そうですね。そうなってくると次に起こるのは合併です。弱いところは合併するしかなくなります。同じようなことを各社でやっているなら、それだったらみんなまとめてやったほうが効率的だという判斷になります。派遣會社も、何も方法を変えなくても、10人で借り受けするより100人でするほうが、コストを抑えることができるわけです。私はこれから合併が増えてくると思います。その中で、秋葉さんが言うように、次に自動化まで考えてやっている會社とやらない會社では、大きな差がつくと思っています。

秋葉:その差は、あっという間につくでしょうね。その差は大きいし、スピードも速いと思います。
そもそも日本人はギリギリまでコスト削減をやっていますよね。そういう意味では、MUJINが提供するソリューションによって別の世界が広がります。私は、ロジスティクスの業界を変えられると思っています。
しかし、本當にしんどくなって、立ちゆかなくなる會社が出るくらいにならないと、本當の意味では変わっていかないかもしれません。業界を変えるということは、ロボット化するという話ではありませんが、人に頼らない形を作ることができることは、とてつもなくインパクトが大きいことです。業界を変えるための手段として非常に効果があります。
滝野さんがおっしゃるように、サプライチェーンマネジメントであって物流部門だけの話ではないのです。経営に対してものすごくインパクトがある話を、優秀な人間が直接、またはその周りに集まることによって大きく変わります。そうなれば、更に優秀な人間が集まり、高い給料を払うようになるはずです。優秀な人間の多くが営業にいくか、商品企畫にいくか、マーケティングにいくかで、物流部門になかなか配屬されない時代もありました。しかし、最近は少し変わってきています。

物流倉庫の自動化でSCM改革を

滝野:ロボットを入れるにしても、自動倉庫は大変なので、もう少し流動的に、天井の低いものでやるしかないとなると、高い天井の倉庫を作る必要はありません。同じ土地で、低い天井を何層か作ったほうが、物流センターとしては利益が出ます。そうなったら建物の作り方も変わりますよね。

秋葉:自動化する前提だとしたらどんな建物にするのか。まったく違うものになるでしょう。建物のつくりもそうですし、中の照明、空調、床の在り方、耐荷重も全部変えられるはずです。

滝野:一番厄介なのは防火設備ですね。自動倉庫を建てたいとなっても、真ん中に防火設備のシャッターがあったらさすがにできません。だから、本當は最初から建物も考えなければならないのです。
そこでミスしてしまうと、後で莫大なお金がかかってしまいます。例えば、シャッターをなくして違う方法でやるとなると違うセンサーが必要になったり、メザニンをはったらスプリンクラーの設置が必要になったりします。私は建てているのでわかるのですが、スプリンクラーの費用はかなり高額です。ぎりぎりのバジェットでなんとか自動化したいとなったとき、スプリンクラーに大きなコストかかってしまうと、最悪の場合、バジェットオーバーでだめになるかもしれません。そうならないよう、みんなが自動化を前提に建物を作り、マテハンを考え、物流フロアを考え、配送を考え、その先の工場の作り方やどのタイミングで作るのかを考えていく。これがSCM改革です。この改革をどこかが始めないといけません。いろいろなアプローチがありますが、MUJINは物流倉庫の自動化から始めました。「始めたらこんな問題がありますよ!」「ここが変わらないから自動化できないのですよ!」と、大聲で叫び出したわけです。

秋葉:逆に言うと、そこに力を注ぐ會社は自動化できていくわけですよね。

滝野:優秀な人が入って、そういうことを理解したうえでやれば、自動化はできるのです。

秋葉:SCM改革を実現し、ロボットを導入した事例を紹介していただけますか。

滝野:事例はたくさんありますが、わかりやすい例ではJD.com(京東商城)様です。このときは、建物も最初から自動化のために建てました。ものがきたら自動でピッキングをして、格納して、きれいに並べて、立體駐車場のような自動倉庫に入れる。お客様からオーダーが入ったら、ロボットが前に出してきて、バーコードを読みながらピッキングをして、最後はパッキングをして出す。仕分けも全部自動で行って、その先も自動で積みつけて、自動でロボットがトラックまで持っていって出荷する。もともと280人くらいいた従業員が、今では10人くらいになっています。人のフローとは全然違いますから。

秋葉:費用対効果としては、人件費がもちろん大きいとは思いますが、経営指標的にはほかにどんな変化が出ているのですか。

滝野:経営指標的にも良いことがたくさんあります。わかりやすいところでは、當然、人件費が下がります。また、3PL企業をはじめとして、物流事業をやっている會社は、物流センターをどこに建てたらいいのか土地を探し回っていました。どこで探すかというと、都市圏內、できれば60キロ圏內、せいぜい80キロ圏內くらいです。なぜなら、それ以上いくと人が集まりません。センターは土地さえあれば建てられますが、人が集まるのかどうかが問題です。人が集まらないところにはテナントが集まらず、リーシングができません。
しかし、自動化できるとなると人は要りません。遠方にいけば當然家賃が急激に下がるので、そこでも建てられるとなればコストは激減します。1個あたり10円値上げするよりもずっと利益が出ます。「そこでも人が集まる」ではなく、「人が要らない」のです。 良いところは他にもあります。私たちのお客様は伸びているお客様が多いのですが、ビジネスが伸びていると、海外のこの地域に店を出せば絶対に売れるということがあります。ところが、服はトレンドが激しいので、今出せば絶対に売れるものでも1年後はわかりません。よし出そうとなったときにセンターが100キロ圏內にない場合、センターを作ることになるわけですが、これまでの業務プロセスのまま、すぐにセンターをつくろうと思っても作ることは非常に困難です。例えばあるアジアの國に出店しようとした際、文化的な問題や働く人たちのスキルの問題などによって様々な問題を解決しなければなりません。そこで人に依存しているとすぐには建てられません。スピードが大きく落ちてしまいます。しかも、地域によってクオリティにバラツキがあって、サプライチェーンをマネジメントしているのか、パートさんをマネジメントしているのかわからなくなってしまいます。しかし、自動化していたらどこでもいけるので、建てたいところにスピーディに建てられます。マシンなので、入れれば絶対に同じクオリティが出ます。ここに入れて、ここにも入れて、ここは撤退といったことがすぐにできます。この點がすごく大きいと思います。人件費を10%減らすよりも、タイムリーなときにタイムリーにすぐに出せる、同じクオリティでサプライチェーンを構築できるほうがよほど効果あります。それで2倍、10倍の利益が出たら、10%のコスト削減はあまり関係なくなります。売上を上げるのが一番得するのですから。

秋葉:先日行われたロジスティクスソリューションフェアの大和ハウス工業の講演でも、ロボット化をすることでスペースが減るかもしれないという話がありました。そうなると當然売上は減るかもしれないが、お客様のためを考えればそれでいいのだという內容です。それは事実なのですが、その先もあります。1アカウントの払いは減っても、効果が出るのだから結局たくさんのアカウントが集まってきて、トータルで貸している量は変わらないことになります。建屋側の価値も上げられるので、お客様にもメリットがあります。サプライチェーンの無駄をなくすということは、結局そういうことなのです。
物流センターの立地も変わります。これまでは、人を採用するために、利便性のある場所を選んでいたわけです。物流業務を自動化することで、人手が必要なくなれば、家賃の安いところでもよくなります。
また、平準化を考える際、計畫によって決まった時間に決まった量をさばくことはすごく大きな効果をもたらします。それが可能になれば、配送からすべてスケジュールを組んで動かしていくことができます。そのときに、「今日は人間の集まりが悪くて何時以降にしか出せません」という會社になってしまったら、これはもうアウトです。

自動化のこれからに必要なもの

滝野:秋葉さんはこれまでシェアリングに取り組まれてきました。儲かっている會社も儲かっていない會社もある中で、無人化できたらいいと考える経営者はたくさんいると思います。しかし、費用的な部分がネックになったり、將來役に立つことはわかっていても今は投資できないというとき、今後、エンドユーザーに対してどのような提供モデルがありますか。

秋葉:滝野さんがやっているような本格的な自動倉庫をやるとなると、専用のセンターを建てないといけないし、メンテナンス費用も大変です。建物とセットなので移すこともできない。償卻が終わるまで動かし続けないとならない。そういった話もあると思います。
しかし、そうではなくて、もう少しライトに導入できるような仕組みも提供する必要があると思います。最初から建物側に設備が入っていて、ロボットが動いてくれるおかげで自動倉庫のような動きができるような倉庫です。そこまで付帯しているというサービスは、これからあり得るのではないでしょうか。少しのコストアップであっても、人が要らないのであればそれで十分ペイできる、という考え方もあります。また、先ほどの滝野さんのお話のように、売上が上がったり、効率が上がったりするのであればその価値は出せる、という発想もあります。それでも費用を出せないところには、キャペックスのモデルで使った分だけお金をいただく。さらに、ピークの期間だけレンタルでロボットの臺數を増やす。
人とロボットの違いというのは、ピークに対してマックスで設備投資をしなければならないところです。ピークでないときにはコストが合いませんので、そこのところをどうやって埋めるかが重要です。少し下のところにラインを引いて、下の部分をキャペックスでやってもらう。ラインから上がったところには、リースやレンタルを入れる。そういった提供モデルも考えられるのではないかと思います。

滝野:私たちはそこが上手なわけではないので、秋葉さんたちにやっていただいて、私たちはロボットや技術方面にフォーカスします。

秋葉:MUJINのプラットフォームが広がると、滝野さんはアプリケーションという言い方をしていましたが、その上でいろいろなロボットを動かすことができるわけです。そうすると、それぞれのセンターを立ち上げるときのスピードやパフォーマンスの精度が上がります。さらに、繁忙期と閑散期という中で、建屋やお客様をまたいで、ロボットを回すこともできるわけです。そういうことをやりたいですね。
滝野さんもおっしゃるように、ロボットにできることとできないことはたしかにありますが、できることが増えていくのも事実です。そのときに考えてもらわないといけないことや、優秀な人に入ってもらわないといけないといったこともあるのですが、変わっていくものをどうやって見せるかがすごく重要です。それによって、ロジスティクスの業界を変えていく、そこにまた優秀な人たちが集まる、というサイクルになるのではないかと思います。
先ほど、現場ではイレギュラーなことばかりが起きるとおっしゃっていましたが、逆に思いがけない効果などはありますか。

滝野:効果は最初からだいたいわかっているので、やはりイレギュラーなことのほうが多いですね。効果がわかっているからこそ投資するわけです。思いがけず生まれた効果は、先ほどお話しした、お客様のビジネスが拡大できるということです。どうしても自動化はコスト削減のためのツールだと思われているのですが、もっと儲かるツールなのだということを理解いただいたことが大きいと思います。
導入前は、様々な起こりそうな問題を持ち出して、なかなかスタートが切れないのですが、不思議なことに、自動化して動いているものを初めて見ると変わるのです。これは日本がハードウェア文化だからなのかもしれません。當たり前ですがロボットに反対する人もいて、稟議に上がると、そもそもそこにロボットはいるのかとか、そもそも自動化はいるのかといった話になることもあります。しかし、実際に動いているのを見ると、「ちゃんと動いているじゃないか」とか、「いやいや、私はできると思っていましたよ」と変わるのです。「これができるのだったら、あそこもいけるし、あそこにもいけるのではないか」と。シミュレーションで半年前に同じものを見ていたとしても、ハードウェアの実物を見るということは全然違います。これは不思議ですね。

秋葉:想像ができない人たちがまだまだいるわけですよね。しかし、多くのお客様に見に來てもらって、お客様の中でロボットが導入される、そういう動きをし始めた會社が出てきたのは事実です。

滝野:海外のロボットにも良いものがあって、土地が少ないという日本固有の問題に対しては、やはり私たちが解決していかなければならないと思っています。
日本では土地の値段が高いので、狹いところにたくさん押し込めようとします。それに対応できなかったら自動化ができません。今回、それに対応するものを出そうと思っています。それが出たら少し変わるのではないかなと、私は勝手に思っています。

秋葉:それは楽しみです。

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秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式會社フレームワークス會長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に攜わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス?リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式會社フレームワークスに入社、SCM?ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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