CREコラム
急拡大するESG投資(4)7つの手法【2】國際規範型と統合型
公開日:2020/12/25
今回ご紹介するESG投資の手法は、業界橫斷型の基準を基に投資対象を選択する國際規範型と、財務情報と非財務情報のバランスを考えた統合型のスクリーニングです。
國連基準が普及している國際規範型
國際規範に基づくスクリーニングは、環境破壊や人権侵害などにおける國際的な規範?基準を基に、最低限の基準に達していない企業の株式や社債を投資対象から除く手法です。武器やポルノなど特定の業界を除外するネガティブ?スクリーニングに対して、業界に関係なく、外部の団體などが定めた基準を參考に投資対象を除外します。基準として採用されるのは、國際労働機
関(ILO)や経済協力開発機構(OECD)が定める規範などですが、代表例は國際連合の「國連
グローバル?コンパクトの10原則」です。
「國連グローバル?コンパクト(UNGC)」は1999年に開催された世界経済フォーラム(ダボス會議)で國連のアナン事務総長が提唱したもので、2000年7月に正式に発足しました。世界160カ國で1萬3000を超える団體(うち企業は約8300)が署名しています(2015年7月時點)。10の原則は人権(原則1、2)、労働(原則3~6)、環境(原則7~9)、腐敗防止(原則10)で構成されています。
國際労働機関(ILO)による基準は、條約と勧告の2種類があります。條約は労働條件などに
ついての基準で、批準國はその実施義務が発生します。勧告は努力目標としての基準で、批
準は伴わず法的拘束力はありません。「條約」には労働時間からハラスメントまで190に上る條
約があります。「勧告」も206の基準があり、條約と重複しています。いずれも設立された1919
年からほぼ毎年、新たな條約や勧告が追加されています。
OECD基準は農業から租稅、化學物質の安全性など幅広い分野の國際基準を設定しています。
國際規範型のスクリーニングは、特定の産業に焦點を當てるのではなく世界標準を評価軸にしているので、投資家のESGに対するメッセージ性は穏便なものになると思われます。投資殘高は、ESG投資の國際団體GSIA(世界持続可能投資連合)の2018年レビューによれば、7つの手法のうち5番目。わが國でもJSIF(日本サステナブル投資フォーラム)の2019年の「サステナブル投資」の殘高調査で同じく5番目の規模になっています。
全體的な銘柄評価の統合型
統統合型は、財務情報とESG情報の2つを加味して実行する投資手法です。ESG投資の中では近年最も注目されている手法といわれています。その理由は、投資の意思決定において既存の運用方針を生かしながらESG投資の観點を導入できるからです。
投資は最小限のリスクで最大限のリターンを追求するのが基本です。しかし、企業の社會的責任が世界的に強く求められる現代において、環境?社會?ガバナンスの視點を欠いたまま投資すれば、投資家自身が非難の対象にもなりかねません。特に年金関連の機関投資家がビッグプ
レーヤーとして投資市場をけん引しているので、その運用ポリシーは極めて重要です。
かといって、社會的観點に傾斜して思うようなリターンが獲得できなければ、これもまた市場の
評価を下げる懸念を招きます。
統合型のスクリーニングは、財務情報を軸とした従來の投資手法とESGなどの非財務情報をミックスして投資対象を決めるものです。ただ、社會的観點から投資対象を決めることが財務的な評価を下すことと必ずしも無縁ではない時代になってきています。例えば、コーヒー豆が代表例でしょう。過酷な労働環境の下で生産されたコーヒー豆は、安価な労働力を背景に世界の市場で驚くほど安く売買されています。
消費者はその恩恵に浴していますが、そうした悲慘な生産現場が報道やドキュメンタリー映畫、またSNSなどを通じて世界中に広まり、世界的なコーヒー販売メーカーや仲買人(卸業者)に対する不買の動きが高まりました。劣悪な労働環境が販売する企業の業績を低下させたことになります。こうした企業に対してESGの観點から評価すれば、労働環境の改善につながる可能性が生まれるうえに売り上げを回復させ、ひいては財務體質が改善されるという循環が生まれます。
ESG評価は時としてそれ自體獨立しているわけではなく、場合によっては従來型の財務情報にも通じることがあります。ESG情報と財務情報は相反するものではなく、同列におけるものであるとの考え方が浸透してきたことでESG統合型の採用が増加していると考えられます。投資殘高は、GSIAの2018年レビューによれば、7つの手法のうちネガティブ?スクリーニングに次いで2番目。わが國でもJSIFの2019年の「サステナブル投資」の殘高調査で3番目の規模になっており、今後の伸長が予想されています。