女性の社會進出が叫ばれ、共働きが當たり前になった現在、
結婚後も子育てをしながら働く女性の數は増え続けています。
そうした社會の変化は、夫婦や親子の関係だけでなく、
家族で暮らす「住まい」そのものにも影響を與えています。
そこで、生活の実態から住まいを考える
「居住環境學」の専門家?小伊藤亜希子教授をお招きして、
共働き夫婦に求められる住居のあり方、
そしてダイワハウスが提唱する「家事シェア」の考え方について、
大和ハウス工業で住宅設計に攜わる
一級建築士?インテリアプランナーの濱田千秋がお話を伺いました。
新居をご検討の方は、ぜひ家づくりの參考にしてみてください。
プロフィール
大阪市立大學大學院生活科學研究科
小伊藤亜希子教授
京都大學大學院工學研究科(建築)後期博士課程修了。京都造形蕓術大學、京都文教短期大學、日本福祉大學を経て、1999年大阪市立大學生活科學研究科助教授。2013年同教授。日本學童保育學會理事。日本建築學會理事。日本住宅會議會報編集委員長。共著に『いきている長屋 大阪市大モデルの構築』(2013)、『子どもを育む暮らし方』(2010)、『子どもが育つ生活空間をつくる』(2009)など。
大和ハウス工業株式會社 住宅事業推進部
西日本住宅設計室一課 主任技術者
濱田千秋
一級建築士?一級造園施工管理技士
インテリアプランナー?キッチンスペシャリスト
大阪市立大學生活科學部卒業後、大和ハウス工業入社。現在は、主任技術者として住宅設計(分譲住宅の街づくり計畫、住宅設計、インテリア計畫、エクステリア計畫)に攜わる。新しい技術やスタイルを積極的に取り入れ、限られた面積を最大限に生かす設計を得意とする。
生活者の実態調査から見えてくる意外な動線
- 濱田:先生の研究分野「居住環境學」とは、どういうものなのでしょうか?
- 小伊藤先生:所屬しているのは、生活科學部居住環境學科という、建築のハード部分だけではなく、生活者の視點から空間を考えようという學科です。私自身の研究も、地域の子どもの居場所とか、長屋や町家なども含めた住まいについて、「生活から空間を考える」ということをしています。
- 濱田:先生の論文や共著には「子どもに合わせた家づくり」や「子どもが育つ空間」などについても書かれていて、とても興味深いものばかりでした。ご自身の生活體験も研究に生かされたりするのですか?
- 小伊藤先生:そうですね。私自身もいろんな家に住んだり、子どもを育てたりする中で、問題意識などが自然に重なってきますので。自分が生活者として暮らしてきた実感は、住まいを研究する上で大切です。
たとえば、赤ちゃんのいる家庭を調査したことがありましたが、「子どもをどこで寢かしつけるか」というのを調べてみると、多くの方が「リビングに連続している部屋」ということが分かりました。
赤ちゃんは一度寢たと思っても、何かのきっかけですぐに目を覚まします。その時、素早くそばに行ってトントンしてあげると、また眠ってくれるのですが、それが少しでも遅れると目を覚まして泣いてしまいます。キッチンまわりの家事をしていても迅速に駆けつけられる「リビング近く」を選ぶ人が多いのはそういう事情もあるのだろうというのは、自分の子育て體験からすぐに想像がつきました。ところが、リビングに連続して赤ちゃんを寢かせられる部屋がない住宅では、そうした使い方はできないのです。
女性の社會進出で変化した「日本の住宅事情」とは
- 濱田:昔と今を比べてみて、家族の生活と住まいはどのように変わってきたと思われますか。
- 小伊藤先生:日本の住まいは、明治?大正?戦前?戦後と大きく変化しています。戦後は専業主婦のいる「核家族」をひとつのモデルとし、歐米の住宅様式の影響を強く受けて、部屋を機能別に分ける「nLDK型※」の住宅が普及しました。しかし、近年は、従來型のnLDK型の住宅が現代のライフスタイルにフィットしない部分があることが認識されはじめていると思います。
※nLDK型=家族の共有する部屋(公室)と各個人の専用の部屋(私室)が獨立している近代住宅の間取り。例:2LDK(リビング?ダイニング?キッチンに個室2部屋)など
- 濱田:そうなった理由は、どこにあるのでしょうか?
- 小伊藤先生:ひとつは、女性の社會進出ですね。日本の場合、労働時間の短縮がないまま女性が社會に出ていったので、子どもにとっては、お父さんもお母さんも帰りが遅いという狀況になっています。それに対して國は、延長保育や學童保育といった子育て支援サービスを一定充実させていますが、結果的に、家族揃って家で過ごす時間は短くなりました。
そんな現狀をやはり親たちは問題に思っていて、帰宅後、短い時間でもできるだけ子どもと一緒に過ごそうと、いろいろ苦労されています。たとえばお皿洗いとかは後回しにして、子どもと一緒に遊び、子どもが寢てから家事をするという方も多いです。 - 濱田:せっかく家族全員が揃う時間に、家事をしたり、自分の個室にこもっているのはもったいない。リビングやダイニングでコミュニケーションをとりたいという気持ちがありそうですね。
- 小伊藤先生:そうですね。子どもの方でも、実際に調査に行くと、小學校低學年くらいの場合ほとんど自分の部屋で勉強していなくて、個室があっても結局リビングでしています。また、未就學児に至っては著替えも遊びもリビングでしていることが多く、服やおもちゃも、結局はすべてリビングに置くことになります。
以上のことから、子育て家庭にとって、リビングに連続した部屋は、寢室としても収納部屋としても使いやすく、また小學生くらいまでは、子ども部屋もリビングに連続していることで、実際に使われるし、コミュニケーションの面でも有効だと思います。戸建て住宅だと「子ども部屋は2階」にせざるを得ないことも多いですが、もう少しリビングとのつながりを考慮しながら設計してもいいのかもしれませんね。
妻の専用スペースに求められる「分離欲求」と「隣接欲求」
- 濱田:先生は「妻の専用スペース」についての論文を書かれていますが、この研究を始めたきっかけについてお聞かせください。
- 小伊藤先生:共働きの場合でも、妻は家で仕事をすることが多いのではないか、と思ったのです。なぜなら、特に小さい子どもがいると、たとえ仕事の途中でも時間が來たら必ず保育園のお迎えには行かなければなりませんし、夕食の用意を含め一定の時間には帰宅する必要があります。いまでは育児に協力的なお父さんも増えましたが、それでも圧倒的に家庭責任を期待され擔っているのは女性です。
そうすると「お母さんたちは殘った仕事を、家のどこでしているのか」という疑問が湧いてきます。それで「妻の専用スペース」についての研究を始めました。建築関係、教師など仕事を持ち帰りやすい職種に絞っての調査でしたが、調べてみると家で仕事をしている人は約75%、そして自分の専用スペースがあるという人も実に65%くらいいるという結果に。 - 濱田:これから在宅勤務などのスタイルがもっと進んでくれば、他の職種でもさらに増えてきそうですね。しかし一般的なnLDK型にお住まいの場合、専用の「仕事部屋」を設けるのは現実的にはなかなか難しい気がします。
- 小伊藤先生:そうだと思います。調査した家庭もnLDK型の家が多かったのですが、専用スペースは、必ずしも獨立した部屋というわけではありませんでした。その代わり、リビングやダイニングの一畫を専用のワークスペースにしている人が結構多く、そこには「子どもの様子を見守りながら」「家事と同時進行で仕事がしたいから」という「隣接欲求」がありました。
- 濱田:その場合は、ダイニングテーブルを仕事機の代わりにして、という感じなのでしょうか?
- 小伊藤先生:そういう人もいましたが、ダイニングテーブルだと食事の度に、仕事道具を片付けなければいけません。書類や資料をそのまま置きっぱなしにできる自分専用の空間がほしいという要求は強いです。でも程よく家族の気配も分かるようにしていたいという「隣接欲求」を持つタイプと、一方で、「切り替えて作業に集中したい」という「分離要求」の強いタイプがありました。中には、両方の要求を持っている人もいました。
キッチン脇に設けられた家事コーナー
- 濱田:たとえばこのスペース。(上の寫真)キッチンの脇に家事コーナーが設けられています。
家事コーナーの反対側は本棚がついた書斎コーナーになっています。
この広さと動線ならば、女性の専用スペースへのニーズを満たすことはできるのでしょうか? - 小伊藤先生:書斎スペースの方は、連続してながらも、集中できそうでいいですね。収納量は少なめですが、パソコンで完結する仕事の方であれば、このぐらいのスペースでもいいかもしれないですね。調査では「資料など自分のものを置いておけるスペースがほしい」という聲も多くありました。
書斎スペース
- 小伊藤先生:職種に応じた収納量の確保や、頻繁に仕事の電話をされる方なら子どもの聲が入らないよう扉のついた空間など、自分の職種にあった専用スペースは用意しておきつつ、狀況に応じてノートパソコンを移動してダイニングなどで作業する人も多いです。時々の狀況で選択できればいいように思います。
- 濱田:ダイワハウスの設計では、LDKの周辺にちょっとしたデスクスペースや収納を組み込むなどして、できるだけゆとりスペースをとるようにしています。
「家事分擔」ではなく「家事シェア」を推進する理由
- 濱田:働く女性が増えると、仕事スペースの確保と同様に課題になってくるのが、家事の分擔問題だと思います。先生が調査されたご家庭では、夫婦の「家事の分擔」はどのような狀況でしたか?
- 小伊藤先生:なかには半々で分擔し協力している家庭もありましたが、やはり一般的には女性のほうが多く擔っている印象でした。男性だと職場での理解が得られないなどの事情もあるかと思いますが、一般に父親の帰宅は遅く、特に平日は妻が一人でやっている家庭が少なくなかったですね。
- 濱田:そうした妻の負擔を軽くするために、ダイワハウスでは「家事シェア」という考え方を推進しています。家事の中には「料理」や「掃除」「洗濯」など「名のある家事」の他に「名もなき家事」というのがあると考えていて、どういうものかと言うと、散らかったものを元に戻すような「マイナスをゼロに戻す家事」のことです。「家事分擔」と聞くと、「名のある家事」の一部を手伝って満足して終わりがちなんですが、実際には「名もなき家事」がたくさんあります。これらを家族全員が自分ゴトとしてシェアできるよう、日常のシステムや動線の中に組み込んでしまおうというのが、家事シェアの考え方になります。
- たとえば、ダイワハウスの「 家事シェアハウス」の玄関には「自分専用カタヅケロッカー」というのがありまして、外から帰ってきたら、まず自分のロッカーの中にカバンやコートなどを収納します。また、玄関から洗面室へ直行できる動線を用意しています。まずはそこで手を洗い、上著や靴下などの洗濯物はそのまま洗濯カゴの中へ。部屋著に著替えたい人は、そこで著替えてからリビングに入る流れになります。
- 小伊藤先生:これはとても効率的な動線ですよね。帰宅してすぐリビングに入ってしまうと、そこで服やカバンが放り出される可能性がありますからね。それを動線で解決しようという試みはとてもいいと思います。自分の家のことを考えても、リビングはすぐに散らかってしまいますからね。「名もなき家事」がたくさんある、とても共感します。
- 濱田:家事シェアハウスには「自分専用ボックス」というアイデアもありまして、リビングに「パパ」「ママ」と名前を書いたボックスを用意し、リビングで散らかりがちなものはそこに放り込んでしまうことができます。家族の誰かがリビングを片付けると、どこに収納されたか他の家族が分からないという問題が出てきますが、名前の書いたボックスがあれば、誰が片づけても自分の持ち物はそのボックスの中に入ります。そういう意味では、探す手間も省けるし、誰でも気軽に片付けられるというメリットがあります。
- 小伊藤先生:これもいいアイデアですね。確かに、部屋を片付けた本人でさえも「あれ、どこに入れたっけ?」となることはよくありますからね。ただ、これら「仮置き」が「常置き」にならないような工夫が必要になるでしょうね。
- 濱田:「仮置き」は一時的な措置ではありますが、まずは収納できる場所がないと、片付ける気にもなりません。まずはこういうルールをつくることで、部屋を片付けるクセをつけ、モノが出しっぱなしになる狀況を少しでも改善できればと思っています。
キッチンでも応用できる「家事シェア」の意識
- 小伊藤先生:料理に限っては、手順もあるし、ふたり同時にキッチンに立つ機會ってそれほど多くないのではと思います。たとえば私がシェアしてほしいといつも思うのは、料理ができあがってきた頃に配膳とか、ごはんをよそう等のサポートです。そうすると、流しやコンロのあたりは一人分のスペースでもいいとして、食器棚と冷蔵庫は家族それぞれが自分で出し入れできた方がいいですね。
- 濱田:誰かがキッチンに立っていても、すれ違うことなく食器棚、冷蔵庫が使える動線は役立ちますね。この家では向こうから回り込みができるようになっているので、回り込んでもらえば、家族それぞれがこの角にある食器棚、冷蔵庫にアクセスできます。
- 小伊藤先生:飲み物や調味料を冷蔵庫から出し入れしたり、レンジで溫めたりとか。補助的な作業はみんなで共有できるよう、必要なものは使いやすい場所にあるといいなあ、と思います。
- 濱田:どれだけ広いスペースがとれるかは、おうちそれぞれで違ってきますが、ダイワハウスではこういった回遊性のある動線設計も大事にしています。
リビング?ダイニング?キッチンがゆるく繋がりつつ、回遊性も確保できれば、たとえばごはんができあがりそうなタイミングで家族に軽く聲をかけるだけで、食事の準備に関するちょっとした作業もシェアできる。そんな理想的な動線を追求しつつ、今後も設計していきます。
まとめ
リビング?ダイニング?キッチンまわりの動線設計や、妻の仕事スペースの確保、家事の負擔を減らすことで、自由な時間を生み出す工夫…。共働き夫婦が本當に暮らしやすい家をつくるには、検討すべき課題が多くあります。
みなさんの家族の場合、何が必要になるのかを設計士とじっくり話し合い、既存の型にとらわれないアイデアも柔軟にとりいれて、是非納得のいく新居をつくりあげてください。
取材/撮影:伊丹xevoΣ展示場
記事公開日:2017年9月26日