不動産DX入門(2)DXの進め方
公開日:2022/05/31
DX(デジタルトランスフォーメーション)はシステムの再構築を軸にした経営変革で、単なる業務のIT化とは一線を畫します。DXを推進していくには経営トップの決斷力やデジタル化に向けた計畫の立案、目標設定などの枠組みづくりも重要になってきます。
現狀への危機感を持つ
不動産業界では2022年5月から宅地建物取引業法の改正法が施行されました。宅建業者は不動産売買や賃貸における契約書類での押印が不要になり、電子ファイルでの書類交付が可能になります。重要事項説明の電子化いわゆる「IT重説」も解禁になりました。また、早ければ2022年中にも物件情報のデータベース化と取引の透明性を目的に「不動産ID」の運用が始まるなど、業界全體でDXの環境整備が進んでいます。
不動産業界は小規模の事業者が多く、経営者の高齢化でITリテラシーが他の産業に比べて足りないといわれてきました。しかし小規模業者といえども不動産物件を管理?運営し、顧客を確保しなければいけません。少子高齢化で人手不足の現狀でも、業務効率化を進めていかなければ生き殘れない時代になっています。街中の小さな不動産屋さんでもスマートフォンを手にした顧客が來れば、接客せざるを得ません。コロナ禍でオンライン?非接觸への対応は急務です。
こうした狀況では、事業規模に関係なく現狀に危機感を持つことが求められます。これまで既存業務を補助する存在だった「デジタル」が今後は業務の主役になることを自覚して「デジタル化」を進めていくことが不可欠。好むと好まざるにかかわらず、経営者はコロナを奇貨として経営を根本から見直す好機としてDXをとらえることが必要ではないでしょうか。
行動?思考の変革意識を持つ
デジタルは日進月歩の世界です。あるデジタルツールが一夜にして陳腐化する可能性を秘めています。高度な情報化社會で生きる現代の消費者(利用者)は、デジタルに対する関心は熱しやすく冷めやすいものです。気が付けば最新のツールが無用の長物になりかねません。DXを推進していくうえでは常に変化に機敏に対応していくことが不可欠の要素です。
DXの関連書ではアジャイルマインドという言葉を多く見かけます。システム構築に攜わる人には聞き慣れているかもしれませんが、短期の反復期間を設定して工程を進める開発思考を指します。「計畫→設計→実裝→テスト→運用」というサイクルを素早く回す仕組みで、顧客(あるいは業務の現場)の聲を聴きながら市場の変化に迅速に対応してシステム構築します。アジャイル開発などとも呼ばれます。
アジャイル開発と対極にあるのが、「ウォ-ターフォール」型の開発です。要件定義(システムの機能や開発に必要な予算?人員の決定)から、外部設計(ユーザーインターフェースの設計)、內部設計(システム內部の動作や機能などの設計)などの段階を経てプログラム作成および機能テスト、運用テストなどを行い、ようやくシステムの提供に至ります。ウォ-ターフォール開発は、開発期間中での間違いや失敗は許されません。市場の変化に対応しづらく、時間もかかります。
ビジョンとロードマップ
一般社団法人不動産テック協會と不動産テック7社は、2021年から不動産業界のDX推進狀況を調査しています。2021年7月に公表した調査結果「不動産業界のDX意識調査」(アンケート先237社)を前年調査と比較すると、DXを推進していると答えた會社は218社と前年の1.5倍に増加しています。推進の目的は「業務効率化」が85%と圧倒的で、「集客力アップ」(40.1%)、「成約率アップ」(32.5%)、「新事業展開」(16.0%)となっています。
苦労している點は「DX人材が確保できない」(45.7%)、「費用が高い(予算がない)」(42.5%)、「何から取り組むべきか。また導入ツールが分からない」(29.2%)、「社內の體制整備を含めて導入プロセスが分からない」(24.7%)などとなっています。この調査結果は、DX推進における課題と問題點を浮き彫りにしています。DXを推進する狙いは明確であるにもかかわらず、人材が不足し予算を確保しにくいうえに、そもそもどこから手を付けていいのか分からない、と頭を抱える経営者の悩みが見て取れます。
DXの推進計畫について、ことさら大仰に構える必要はないと思われますが、経済産業省から提言された「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究會WG1全體報告書」(2020年12月28日)にもあるように、「DXの推進には企業経営と同様のリーダーシップが求められ、経営者が將來のビジネスを見據えた上で取り組みの方向性となるビジョンを示すことが重要」となります。そして、DXの進め方は、デジタルの力で事業を変革していくので、事業戦略とITの施策を並行して進めていくことが求められます。
さらに、デジタル化は企業によって出発點が異なります。不動産業界では、前述した契約書類の電子化や「VR內見」など物件の現場におけるデジタル化など広範に渡っていますが、デジタルツールの導入や実施狀況は企業によって違いがあります。中長期的な計畫を立て、綿密にコスト計算したうえで実行できればいいですが、業務をストップさせることはできません。どの業務をデジタル化の対象にするのか。優先順位を決めるロードマップを作成することが重要になってくるでしょう。