コラム vol.078
家族信託®を活用した新しい財産管理と相続?認知癥対策 vol.6
「家督承継信託」の活用とは?
公開日:2015/08/31
ステージVの悩み:「家督相続」を家族信託で実現
我が國は、ほんの70年くらい前までは、「家督相続」が原則でした。
家督相続制度では、何人の子が居ようが、最初から相続人は特定の一人に決まっており、かつ隠居制度もありましたので、ほとんどの人が適當な年齢に達したら隠居して、財産も身分も全て次世代に生前承継していたのです。
すなわち、現代のように財産を持って認知癥になる人も、爭続になってしまうことも、ほぼ無かったようです。
しかし、先にも指摘しましたように、現代の民法では隠居制度は無くなり、法定相続と遺留分の制度があるため、実に面倒な問題がさまざまに発生してしまうのです。
特に家督相続は、現代の制度では絶対に不可能と考えられてきました。
例えば、親から子に、子から孫にといった直系血族に財産を承継させたいと希望する人がいたとします。
確かに遺言をすれば、遺留分問題は別として、少なくとも次の世代の相続人を決めることは可能ですが、さらにその次の代の相続人を今から決めておくことは不可能です。
実際、子の世代が婚姻していれば、その子の配偶者は民法上では必ず財産を相続する権利を持っていますし、例えばもし孫が居ない狀況であれば、配偶者が取得した財産は配偶者側の兄弟姉妹等の傍系親族に流れてしまうことが避けられなくなります。
現実問題として、自分の財産を直系血族以外に相続させたくないというニーズは非常に多く耳にすることなのですが、従來は家族ごとの良心に任せるしかなく、完全な解決法はありませんでした。
そこで、家族信託を使った「家督承継信託」の出番がやってきます。
家督承継信託の活用
例えば、親のAさんには、二人の子があり、Aさんは先祖代々承継してきた不動産であるとか、あるいは自ら創業した會社の株式とかの「家督財産」については、後継者である長男のBさんに確実に相続させ、かつ將來は孫のCさん、さらに將來生まれてくるであろうひ孫にと家督相続させ、次男のDさんには遺留分を上回る程度の「その他の財産」を相続させたいと考えたとします。
もちろんAさんが遺言をすれば、一代限りにおいてはAさんの希望が葉いますが、孫以降の代については現時點で確定することはできません。
また、ひ孫の代までと考えた場合、長期間にわたって確実に家督財産を管理する仕組みを作っておく必要もあると思われます。
そこで、Aさんは自ら出資をして一般社団法人を設立し、その法人を受託者、Aさんに続く二次受益者を長男のBさん、三次受益者を孫のCさん、さらに將來生まれてくることを條件として四次受益者をひ孫とする受益者連続型信託契約を締結し、家督財産以外の財産については、その一部を次男のDさんに取得させることにしました。
この契約があれば、Aさんの死亡によって家督財産の受益権はBさんに移動し、さらにBさんが死亡すればCさんに移動しますが、その契約內容を「受益者が死亡した際にその受益権は消滅し、次順位の受益者が新たな受益権を取得する」という內容にしておけば、Bさんの死亡以後の受益権の移動については遺留分が発生せず、間違いなく受益権の全てが契約通りに移動して行くことになります。
家族信託は無限の可能性を持った仕組み
また、先の事例でBさんにまだ子が居ない場合、條件付の契約として「Bさんに子が居ればその子、居なければ次男Dさんの子を三次受益者とする」との條項を入れておけば、本當に昔の家督相続のように直系血族に順次移転するという形態を取ることが可能となります。
こさらにこの応用として、「ハッピー?マリッジ信託」という仕組みがあります。
これは、例えば一定以上の財産を持っていて、かつ互いに子が居る高齢の男女が再婚をしたいと考えた際に、二次受益者を配偶者、三次受益者を本來の相続人である子たちとしておけば、子たちに受益権が戻ってくるというもので、かつ配偶者側の相続人に遺留分が発生しないため、確実に子たちが受益権を取得することになり、これでめでたく入籍が可能になるというものです。
これは再婚ばかりでなく、例えば同性愛の人などの法律上では入籍が不可能なカップルにも応用可能です。
このように、家族信託は、本當に無限の可能性を持った仕組みで、想像力次第で何でもできてしまうのです。
それだけに、この素晴らしい制度を健全に活用し、悪用されるようなことをなくするため、さらなる研究が必要と考えています。
注:「家族信託®」は、一般社団法人家族信託普及協會の登録商標で、著者は権利者からの特別の許諾を得て本文中にて使用しております。