コラム vol.074
家族信託®を活用した新しい財産管理と相続?認知癥対策 vol.2
ライフステージごとの悩みを一気に解決する「家族信託」の活用について
公開日:2015/07/31
ライフステージごとの悩み
人が生まれてから亡くなるまで、そして亡くなった後も含めた「ライフステージ」を考える時、こと「財産」に関しては、なかなか思うに任せない結果になってしまいがちなものです。次の図に示すように、ライフステージをI~Vに分けて考えた場合、それぞれのステージで財産に関する悩みがあります。
これまでの法的対策として、遺言と後見という方法がありましたが、遺言は効力発生が死亡以後ですから、例えば認知癥等の能力喪失狀態への対応は不可能でしたし、それに対応するために作られた成年後見の制度も、今では極めて運用が硬直化しており、少なくとも當人の願い通りに財産管理ができるような狀況にはなりませんでした。
ところが、家族信託は、たった1枚の契約書でもって、少なくとも財産に関しては、遺言の役割も後見の役割も兼ねることができ、かつ遺言や後見よりもずっと、元の所有者の願いや想いを実現できる可能性が高い財産管理を実現することができるのです。
それは、「権利と名義の分離」によって、財産の権利を持っている人(委託者兼當初受益者)が認知癥になって、その後に死亡しても、財産の名義を託されている人(受託者)が當初の契約通り適切かつ的確に財産管理を継続し、願いや想いの通りに次世代に財産の権利を承継させてくれるという機能を発揮することができるからです。
ステージIの悩み:円滑な財産管理を家族信託で実現
ステージIの悩みの代表的なものとして、いわゆる「共有物」問題があります。
例えば、親の相続が原因で、3人の子たちが、相続財産である不動産を各3分の1ずつ共有している狀態であるとしましょう。
この不動産を売卻したり、賃貸借したり、擔保に入れて借金したりするためには、基本的には3人全員が合意して印鑑を押さなければなりません。
仮に今は3人が仲良くしているので問題がないという狀況であったとしても、この3人に相続が発生すれば、共有者は増えて行き、何十年もすれば數十人の共有物という狀態になりかねないのです。
そこで、家族信託が持つ4大機能の一つである「名義集約機能」を活用してみましょう。これは複數の委託者が所有する財産の名義を一人の受託者に集約する機能です。
名義集約機能の活用
共有者3人が委託者となって共有不動産の持分全部を家族信託します。
信託契約をした後は、その不動産は「信託財産」となり、3人の権利は「所有権」という権利(物権)ではなくなって「受益権」という別の権利(債権)に変わるということになります。
信託で不動産の名義を受託者に変更したとしても、3人の持分比率を変えない限りは、法的にも稅務的にも「所有権移転ではない」と解釈されており、譲渡所得稅や不動産取得稅が課せられることはなく、登記に必要な登録免許稅も通常移転の5分の1で済みますので、契約自體にかかる実費は極めて少なく済みます。信託した後は、その契約內容に従って、不動産の管理は受託者が行うこととなり、以後は受益者3人の合意や手続書類への捺印は不要となります。
そうすれば、3人のうちの1人が認知癥になって印鑑を押せなくなっても問題ありませんし、さらに誰かが死亡して受益権が次の世代に移ったとしても、不動産の名義は受託者のままですから、従前通りに財産管理を継続することが可能となるのです。
また、例えば共有ではなく別々の不動産を一人の受託者に信託した場合には、その名義が一つになることによって、土地や建物を「合筆」「合棟」という方法で一つの不動産とする手続きも可能です。
この場合の受託者は、もちろん3人の中の1人でも良いのですが、次の世代まで信託を継続するという前提であれば、受託者として3人で設立した一般社団法人を使うのがお薦めの方法です。
一般社団法人は、最近の法改正で登場した制度で、昔の社団法人とは違って、誰でも簡単に設立することができ、また株式會社とは違って、社員権に財産的価値を持たせないという方法を使うことができますので、とても使い易い仕組みです。
例えば、當初の受益者である3人が共同で一般社団法人を設立し、その社員権を順次次世代に承継させて行く仕組みを作っておけば、大切な財産を半永久的に的確な管理の下に置くことが可能となります。
このように、比較的容易な手続きだけで、極めて大きな効果を得られるのが家族信託なのです。
注:「家族信託®」は、一般社団法人家族信託普及協會の登録商標で、著者は権利者からの特別の許諾を得て本文中にて使用しております。