コラム vol.075
家族信託®を活用した新しい財産管理と相続?認知癥対策 vol.3
不動産オーナーや中小企業経営者が安心して「隠居」できる仕組みとは?
公開日:2015/07/31
ステージIIの悩み:「隠居」を家族信託で実現
ステージIIの悩みというか、誰もが望んでいても実現できないこととして「隠居」があります。
「隠居」とは、要するに人がまだ元気な間に、その財産とか身分とかを次世代に譲り、その後は悠々自適に暮らすことです。我が國でも第二次世界大戦前の法律では隠居が正式な法律行為として認められていましたが、現代では実は極めてかなえ難い夢なのです。
おそらく、多くの中小企業経営者や不動産オーナー等の資産家は、一定の年齢に達したり、體調を崩したりした際に、「もし隠居できたら」と考えたことがあるのではないでしょうか。
しかし実際には、法律上や稅務上のさまざまな障害や、そもそも「現代社會では隠居などできない」という諦めがあってか、実際に隠居をしている人を見ることはまれです。
多くの場合には現役のまま、財産を持ったままで心身の狀況が悪化して、悠々自適の生活を経験することなく相続になってしまっているのではないでしょうか。しかし、ご自身で作り上げられた財産は、ご自身が人生を楽しむために使うべきであり、そのためにはお元気な間に隠居されることを考えるのは當然だと思います。
そこで、家族信託が持つ「條件付贈與機能」を活用してみましょう。
実は、信託とは「條件付贈與」なのです。
人が本當に財産を生前贈與してしまうと、贈與稅が課稅されることはともかく、完全に権利を失ってしまいますが、信託はこの贈與を條件付で行うことによって、柔軟な対応を可能としています。
経営者隠居信託の活用
例えば、中小企業X社を大きく発展させてきた創業経営者であるAさんが、そろそろ後継者として一人前になってきた長男のBさんに社長の座を譲って、自分は隠居しようと考えていたとします。
しかし、AさんがBさんにX社の株式を贈與すれば高率の贈與稅が課せられますし、かといって株式をBさんに譲渡しようとすれば、Bさんが多額の資金を準備しなければならず、かつAさんに相當な譲渡所得稅が課せられることになります。
また、いわゆる暦年贈與で毎年110萬円相當の株式の贈與を継続するとか、少しずつ株式を譲渡するといった方法では、仮に代表取締役の座をBさんに譲ったとしても、実質的な會社の支配権はAさんに殘ったままとなって、本當の意味での事業承継が実現したとは言えない狀態になってしまうでしょう。
さらに、贈與や譲渡では、株式の所有権が完全にBさんに移転してしまうため、萬に一つBさんが承継しないといった結果になった場合、再び株式を戻す必要が生じ、また稅金がかかるという結果となってしまいます。
そこで、Aさんは自分の所有する株式をBさんに対して家族信託契約で信託します。
株式が信託された場合、その株式の議決権を行使する権利(むしろ義務)のみが受託者となるBさんに移り、財産権としての株式の権利は委託者兼當初受益者であるAさんにそのまま殘されることとなります。
そうしますと、受託者となったBさんが、Aさんに代わって代表取締役の座に就いた時には、Bさんは株式の「名義人」として議決権を行使して、自由に経営の采配を振るうことができ、かつ家族信託は権利の移転ではありませんから、その時點では一切の課稅はありません。
すなわち、全く稅金を課せられることなく、AさんはBさんに実質的な経営権を委譲して、自らは「隠居」できるということになるのです。
また、信託の特徴として、途中で事情が変わった場合には、契約を解除して舊に復することも可能です。
そしてAさんが死亡した際には、その受益権がスムーズにBさんに移動し、名実ともにBさんがX社のオーナー経営者となります。
さらに、もしAさんが、Bさんの更にその次の會社後継者として、例えばBさんの子のCさんを指名しておきたいのであれば、最初の契約の段階から「次の次」を決めておくことも、家族信託では行使することができます。
これは中小企業経営者に限らず、例えば不動産オーナーの場合でも、子や孫を受託者とすることによって、不動産の管理権限を受託者に譲って隠居することができます。
このように、家族信託は実に自由かつ柔軟な使い方ができる、本當に財産管理に効く「夢の新薬」のような仕組みなのです。
注:「家族信託®」は、一般社団法人家族信託普及協會の登録商標で、著者は権利者からの特別の許諾を得て本文中にて使用しております。