脫炭素社會と不動産(2)気候変動への対応
公開日:2023/01/31
脫炭素社會を実現するための最重要課題のひとつで喫緊のテーマが気候変動問題。再生エネルギーへの傾斜、省エネ設備の推進など不動産業界で地球溫暖化を抑制するための対策が多方面で始まっています。
溫暖化は気候変動の最も重要な課題
気溫や気象パターンが長期的に見て変化することを気候変動といいます。気象パターンとは、冬の天気図で典型的な「西高東低」(西に高気圧、東に低気圧)など、特定の地域?時季に特有な気象現象を指します。地球は地表や海面が太陽の光を受けて溫められ放熱し、大気中の二酸化炭素など溫室効果ガスと混じりあい気溫が上昇(溫暖化)します。
気候変動の要因は自然現象によるものや人為的なものがありますが、溫暖化が進むと海水溫度が上がって氷河が溶けて減少するため海面が上昇します。海面上昇は陸地の埋沒に繋がり地球全體の危機となります。地球溫暖化は異常気象を生み自然災害が頻発するようになります。わが國でも真夏日(30℃以上)や猛暑日(35度以上)、熱帯夜(最低気溫25℃以上)の日が近年増えています。また溫暖化は水資源の不足に繋がり農地の干ばつを招いて農作物の収穫に悪影響を與え人々の暮らしを脅かします。
産業革命以來の「化石燃料」信仰
人為的な「溫暖化」の最たるものは社會経済活動による二酸化炭素(CO2)の排出です。そしてCO2を生む出す大元は「化石燃料」。化石燃料とは、火力発電の際に大量消費される石油や石炭、天然ガスなど地下に埋もれている燃料資源のことで、數千萬年以上前に生息していた生物の死骸が海底に沈み、微生物によって分解されたのち地熱で溫められているうちに燃えやすい成分に変化したといわれています。こうした過程が「化石」の生成過程と似ていることから「化石燃料」と呼ばれています。
化石燃料が本格的に使われ出したのは18世紀半ばの産業革命から。鉄道や蒸気船などの動力源として石炭や天然ガスが大量に使われ、19世紀後半には新たな採掘方式が生まれたアメリカを中心に石油産業が発展、20世紀中盤には中東などで大油田が発見されるなど、石油がエネルギーの主役に躍り出ました。石油は石炭に比べて熱量が高く液體のため使い勝手が良く、また少量で高いエネルギーを生むのでコストが低く消費量は爆発的に拡大していきました。
化石燃料は炭素(C)を含み、燃焼されることで酸素(O2)と結合して二酸化炭素(CO2)となります。CO2は地球溫暖化の主因である溫室効果ガスの9割近くを占めており(國立環境研究所溫室効果ガスインベントリオフィス「日本國溫室効果ガスインベントリ報告書」(2021年4月)による)、脫炭素社會実現のためには化石燃料の消費削減、CO2削減が喫緊の課題。産業革命以來の化石燃料信仰はピリオドを打つべきとの見方が高まっています。
化石燃料の枯渇も指摘されています。大昔に存在していた植物やプランクトンなどが長い年月を経て堆積し変化した地下資源ですから使い続ければ枯れるのは當然で、すぐに作れる代物ではありません。経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2022」によれば、石油の埋蔵量はこのまま採掘すると約50年後には底を突くとの予測があります。わが國はエネルギー資源を外國からの輸入に依存しているので、脫化石燃料(脫炭素)化は資源國に比べても深刻な問題として捉える必要があるでしょう。
主軸となるのは省エネ?再エネ
不動産業界における気候変動問題へのアプローチは、再エネ?省エネに集約されるのではないでしょうか。オフィスビルや商業施設、工場など経済活動の拠點つくりを擔う不動産業界にとって、地球環境保護に貢獻する不動産開発は自社の評価を上げるだけでなく、サステナビリティ経営を目指す顧客ニーズにも合致します。企業だけでなく商業施設さらに家庭まで広く業務を展開している不動産業界はエネルギー消費が多い業種で一説には國內のCO2排出量の3割を占めているとの指摘もあり、業界全體で取り組むべき課題でもあるのです。
エネルギーの省力化と再生エネルギーの利活用は表裏一體の関係にあります。省エネでは石油や石炭、水力や地熱、太陽熱など「一次エネルギー」の削減が挙げられます。一次エネルギーとは加工されない狀態で供給されるものを指しますが、注目されているのはZEB(Net Zero Energy Building)。建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指したビルのこと。住宅の場合はZEH(Net Zero Energy House)といいます。高斷熱化や日射遮蔽、自然エネルギーおよび高効率な設備の利用などで省エネを実現し、太陽光発電などの再生エネルギーを創り出して年間に消費するエネルギー量を大幅に削減しているビルや住宅を建設する動きが今後広がりを見せると思われます。
省エネではエネルギー消費の最適化も重要なポイントで、この監視?制御システムを Energy Management System(EMS=エネルギー?マネジメント?システム)といい、ビルの場合はBEMS、住宅の場合はHEMS、工場(Factory)の場合はFEMSの略稱が使われています。法人個人に限らず、省エネ?再エネ設備を導入しても運用を誤れば意味がありません。エネルギーの見える化を実現し消費量をチェックすることが求められます。