CREコラム
注目集めるWELL認証(6)不動産投資とWELL認証
公開日:2022/02/28
環境?社會問題に対する関心が世界的に高まっており、不動産投資においてもCO2削減などの環境保護や少子高齢化への対応など課題改善(解決)型の手法が求められています。不動産投資とWELL認証の関係について考えます。
社會的視點求められる不動産投資
不動産ストック(資産)は國民生活や経済活動を支える不可欠の基盤です。不動産業は他の産業の影響を受けやすい「受け身の産業」との見方もありましたが、現在では質の高い不動産資産を形成して利活用を図り、生活の利便性と経済活動の生産性を高める攻めの産業へと役割が進化しています。
不動産におけるストックビジネスは、(1)不動産流通(住宅?オフィスの供給)、(2)住宅賃貸(賃貸住宅の賃貸業)、(3)不動産賃貸(賃貸オフィス業?貸店舗業?貸倉庫業)、(4)不動産管理(ビル管理業、賃貸住宅の管理業)の4分野があります。不動産投資の代表的な対象物件は住宅?不動産賃貸の物件。ストックビジネスとは需要が長続きし、安定的に利益が見込める事業を指します。不動産賃貸業は空室がない限りは継続して賃貸収入を得ることができます。ただし長期間継続してサービスを提供する責任があり、息の長い事業です。
一方、日々の暮らしや経済活動の中で、環境問題や社會的課題に対して関心を持ち、解決や改善に向けての行動を求められる時代になってきました。21世紀の現代は個人?法人に関係なく、地球溫暖化を抑制し人権を尊重することは、社會経済活動の中では織り込み済みです。投資の世界においても、ESG(環境?社會?統治)に対して積極的に関與するという世界の潮流に適合していくことに議論の余地はありません。とりわけ不動産投資は投資の中でも中長期的な展開を求められるので、社會に対する責任ある継続的な投資行動が求められるのではないでしょうか。
評価高まる「環境不動産」
WELL認証は、働く人々の健康や快適な居住性を重視してオフィス空間の環境性能に著目した建築物の評価システムです。認証を取得しているオフィスビルなどの施設は、従業員の健康促進と疾病リスクの減少が期待できるので、生産性の向上が見込めます。また省エネを重視した機能を備えており維持費が低減できます。
またWELL認証はオフィス內における空気質や光、音などの評価項目をクリアしているので、働き方改革やいわゆる「健康経営」を推進しているとの評価を得ることにもなりますし、優秀な人材の獲得や定著率の向上が期待できます。つまり、WELL認証を取得している不動産物件は、不動産投資において「環境に配慮した不動産」(=環境不動産)という高い評価を得る可能性が高くなるのです。
到來するか WELL認証投資
國土交通省は2017年6月に「不動産投資市場の成長に向けたアクションプラン」を発表しました。その中でESG不動産投資の基盤整備に関し、「日本版WELL認証制度」の確立について言及しています。それによると、國は不動産ストックの普及促進に向けて環境不動産の認証基準を確立していくことを目指し、日本版WELL認証制度の評価要素を検討していくとしています。不動産における環境性や健康性、快適性の性能を鑑定評価の方法に反映させ、収益還元法における還元利回りや原価法における減価修正に繋げたい意向です。
そして、「ESG投資の普及促進に向けた勉強會」(2018年3月)の最終とりまとめで示された、日本版WELL認証の基準のあり方が不動産鑑定評価へどのように反映されるのかについて、評価項目ごとに検討する予定になっています。その後、不動産鑑定士による日本版WELL認証を考慮した鑑定評価を確立し、リート投資法人や不動産會社による日本版WELL認証への投資と不動産供給の促進に繋ぎたい考えです。
図1:働く人の健康性?快適性等に関するオフィスビルの認証制度
出典:國土交通省「ESG投資の普及促進に向けた勉強會」(2018年3月)
このように、國はESG投資の普及促進における検討會で、日本版WELL認証制度について突っ込んだ議論を行いました。建築物に対する評価項目はWELL認証のほかにも國際的に普及している制度はありますが、ESG投資の議論でありながら日本版WELL認証の確立が中心テーマになっているということは、今後導入する環境不動産の評価制度の中でWELL認証が有力候補のひとつであることを示すものと思われます。
その背景には、WELL認証制度が大規模物件だけでなく既存の建築物や中小のビルを対象に含めているほか、自社ビル?賃貸のオーナーの別なく幅広く対象としている認証制度であることなどが考えられます。ただ、WELL認証は米國基準になっているため、そのまま日本國內で導入するには改善の余地があるとの指摘があります。例えば、屋內を全面的に禁煙にすることや食堂の運営などの評価項目が障壁となる、との聲も聞かれます。また対象物件が幅広いゆえに、評価の有効期間や評価の透明性、申請に際しての負擔などにも課題があるようです。