コラム vol.092
ケースで學ぶ「土地活用と法律」(2)
老朽化した賃貸住宅を建て替えたい!
公開日:2015/11/27
事例(3): 老朽化した賃貸住宅を建て替えたい!
この事例は、賃貸住宅を所有する方が建物の老朽化を理由に建て替えを計畫し、居住者に立ち退いてもらおうとしたところ、退去に応じてくれなかったというケースです。
賃貸借契約において、貸主は借主である居住者の賃料不払いや建物用法遵守義務違反など債務不履行に信頼関係の破壊があれば契約を解除して建物明け渡しを求めることができます。また、債務不履行による解除ではなく期間満了によって契約更新を拒絶することもできます。
しかし、一般的な賃貸借契約のように期間の定めのある建物賃貸借契約について、借地借家法では、貸主が賃貸借契約を更新しない場合には、居住者に対して契約期間満了の1年前から6カ月前までの間に更新拒絶の通知をして、その更新拒絶には「正當事由」が必要であるとされています(借地借家法28條)。他方で、老朽化した建物を修繕せずに賃貸借していたところ、地震等により倒壊して居住者が亡くなったような場合には、建物所有者は所有者責任を負わなければならないこともあります(民法717條)。
このように賃貸住宅など建物が老朽化した場合、不動産所有者としては居住者の立ち退きに向けてどのように対処すべきでしょうか。
上記のとおり、貸主は契約更新の拒絶をするには「正當事由」が必要です。
では、「正當事由」とは何でしょうか。
借地借家法28條では、以下のように規定されています。
- 【ア】貸主借主雙方の建物使用の必要性
- 【イ】借家に関する従前の経過
- 【ウ】建物の利用狀況
- 【エ】建物の現況
- 【オ】財産上の給付をする旨の申し出
【ア】については、老朽化による建て替えの必要性と、居住者が高齢や病気などで引っ越しが困難など継続使用の必要性を比較することになります。この點については、貸主側で、居住者の負擔が少なく引っ越しができる代替建物を紹介することでスムーズな立ち退きを進めることが考えられます。
【イ】借家に関する従前の経過は、當初の契約締結からこれまでの期間の長短、居住者の債務不履行の有無などです。
【ウ】建物の利用狀況は、事業用か非事業用か、構造が木造か、建築基準法に適合しているか、などです。
【エ】建物の現況は、老朽化の程度、修繕の必要性とその費用などです。耐震基準を満たしているかどうかも重要なポイントです。
【オ】財産上の給付をする旨の申し出は、あくまで最終的に「正當事由」を補う要素にすぎません。いわゆる“立ち退き料”を払えば、居住者に立ち退きを要求できるわけではありません。
近年の裁判例でも、立ち退き料の支払いと引き換えに賃貸借契約解除、建物明渡請求が認められた事例があります(東京地方裁判所平成25年12月11日、事業用建物につき東京地方裁判所平成25年6月14日)。
建物の安全性が問題になるケースが多い昨今、老朽化を理由にした居住者の立ち退きには、代替建物の準備、場合によっては立ち退き料の申し出、それでも話し合いで決著できないときには調停や裁判など時間を要することが多いので、早めに対処することが大切です。
事例(4): 賃貸住宅の居室內で居住者が自殺
非常に殘念な事例ではありますが、このようなケースのご相談があるのは事実です。
居住者のご遺族が大切なご家族を亡くして心を痛めているところに、賃貸人として、居住者が居室內で自殺したことによる損害の賠償を求めていくことは心情的にも非常に心苦しいことです。しかし、このようなケースでも、賃貸人から亡くなった居住者の相続人や、借主の保証人への損害賠償請求が認められることがあります。
では、どのような損害について賠償請求ができるでしょうか。
まず、居住者が自殺したことで、床、壁紙などを汚損した場合には、これらについて原狀回復の必要があります。したがって、賃貸人として、原狀回復に要した費用の賠償を求めることが考えられます。また、自殺があった物件は、いわゆる事故物件として次の居住者に説明する義務があり、その結果、次の借り手がなかなか見つからない、あるいは賃料を下げることが多々あります。このようなときに、賃料の減額について補償を求めることが考えられます。
裁判例においても、自殺があった居室內の部分について原狀回復費用を認めたり(浴室內で亡くなったケースでは、リビングのフローリングや壁紙の張り替えまでは原狀回復費用として認められないのが一般的です)、一定期間について賃料の減額を賃貸人の損害として認めた判例があります。