コラム vol.081
あなたはどっちの大家さん?! お金持ち or 貧乏 vol.3
賃貸住宅経営 収支計算のココに注意!
公開日:2015/09/11
お持ちの土地をどう活用するかのご相談をいただいている須藤さん、不動産投資?賃貸住宅経営についてのイメージが、少しずつ湧いてきているようです。
今回は、賃貸住宅経営を行うにあたり重要な點のひとつである、収支の考え方について理解を深めていただこうと思います。
実際に収支のシミュレーションをして、気をつけるポイントについてご説明します。
まずは、毎年の現金の流れであるキャッシュフローの基本的な計算の仕方を覚えましょう。
須藤さん:「キャッシュフローなどは、稅理士先生にお願いしても良いかと思いますが」
キャッシュフロー(以下CF)とは、稅金(所得稅?住民稅)等を加味し実際に手元に殘るお金ということですが、実際の申告など実務的なところは稅理士にお願いするオーナーさんも多いです。
しかし、大まかなお金の動きはご自身で把握しておくべきだと思います。
というのも不動産は、基本的に源泉徴収で済ませることも可能な金融商品とは違い、お金の流れが少々複雑で、「利益が出ていると思ったのに手元に殘るお金は少ない」ということもありうるからです。
以下の2つの式をご覧ください。
- (1)実際のお金の流れ…CF=収入-(各種経費+借入金返済+所得稅?住民稅)
- (2)稅額を求めるため…不動産所得=収入-(各種経費+借入金利息+減価償卻費)
毎年実際に手元に殘るCFは(1)で求められるのですが、そのためには所得稅?住民稅額を出す必要があります。
所得稅?住民稅額は「不動産所得」により決まるので、まず(2)の計算をすることになります。
須藤さん:「不動産所得というのは、會社であれば利益みたいなものでしょうか」
そうですね、その利益次第で稅額が決まるということで、実際の手元に殘るお金はあくまで(1)です。
(2)の青文字部分が賃貸住宅経営を行う上でのいわゆる「経費」となりますが、この部分で気をつけたいのは「(a)借入金利息」と「(b)減価償卻費」の2點です。
まず(a)については、年々、支払い利息が減少していくことに注意が必要です。
支払い利息減少→経費減少→不動産所得増加→稅金増加
ということになるからです。
例えば1億円の借入を金利2%、25年元利均等返済で組んだ場合、支払い利息は、1年目197萬円、5年目171萬円、10年目136萬円、20年目52萬円となり、この差額分、経費も減少していくことになります。
仮に所得稅?住民稅合わせて稅率が30%で他條件が変わらないとすれば、支払い利息が30萬円少なくなることで9萬円の稅金増です。
返済が進むということはローン殘高も減っていくわけなので、支払い利息が減少すること自體は悪いことではありません。ただ返済した元本分がきちんとした「資産」になっていればよいのですが、収益悪化等により返済以上に不動産の資産価値が目減りしていることになると、稅負擔だけが増すということになりかねません。
須藤さん:「なるほど。これはマイホームにはない考え方ですね」
賃貸住宅経営は事業なので、「経費」や「利益」、「稅金」のことをきちんと知ってお金の流れを把握しておく必要があります。
次に(b)についてです。減価償卻費は、ざっくり言うと支出を伴わない経費です。実際の支出がないのに経費にできるわけですから、當初、手元に殘るお金が多いと感じるかもしれません。(本來は、購入した建物をある期間に渡って費用配分するということなのですが、複雑になるのでここでは省略)
ちなみに、何年で償卻するかという「耐用年數」は、住宅用建物の一例で、木造:22年、軽量鉄骨:27年、RC:47年、給排水?ガス設備といった建物付帯設備は15年です。
須藤さん:「ということは、この年數で償卻し終わったら経費がなくなるということですか?」
その通りです。償卻が終わると手元に殘るお金が減りますので、これも中長期で考えるお金の流れとして注意するポイントのひとつです。
ちなみに減価償卻費の算出法は、建物に関しては現在、毎年一定額を経費化する「定額法」で決まっていますが、付帯設備などは「定額法」と、早めに経費化する「定率法」のどちらかを選択できます。
両者を比較すると、定率法(※)の方が當初の手元に殘す現金を多くできるので、選択されている人もいらっしゃいます。
ただ、後々減価償卻費が少なくなればそれだけ稅金がかかることになるので、償卻を早くすることで、將來収支が苦しくなる可能性は理解しておく必要があります。
※現行の法律では、建物を定率法で償卻することはできません。
須藤さん:「減価償卻ひとつをとっても、さまざまな方法があるのですね。自分たちのスタイルに合わせたやり方を検討する必要がありそうです。でも、収支計算を理解するだけでも精一杯で、そこから何が良いかを選ぶのは今の私には難しいです」りそうです。でも、収支計算を理解するだけでも精一杯で、そこから何が良いかを選ぶのは今の私には難しいです」
初めて聞いた人は、他に何か事業をしていない限り、1度で理解することは難しいことです。ましてや、最初から全てご自身だけで決めていくのは無理があると思います。
まずはざっくりとした考え方や計算の流れを理解した上で、専門家に相談しながら決めてみても良いかもしれませんね。
須藤さん:「私の場合、あと5年くらいすると子どもたちの教育費が一番かかる時期になります。その時に、手元現金を多めに確保できれば良いとも思うのですが」
現在お子様は中學1年生と小學4年生ですから、5年後から3~4年間ほどは頑張り時ですね。
家計が苦しくなるその頃に減価償卻費を多くとることでなるべく現金が手元に殘るようにすることもひとつの検討材料になります。
減価償卻費は、所得稅の稅率が同じであれば、手元に殘る金額としてはいつ経費計上しても同じになります。ですから、先程ご説明したように「いつ計上するのが最適なのか」は人それぞれのライフプランにもよります。
他での有効な運用や資金の効率化等を考えた時、早めに経費化(キャッシュ化)することにメリットを感じる人もいらっしゃれば、毎年均等に経費にする方が良いという人もいらっしゃるわけです。
須藤さんのように、一時的に支出が多くなる時期を考慮することもありでしょう。
ただしこれらはあくまで、所得稅率が変わらないことが前提です。例えば會社員の場合、會社退職等により稅率が大きく変わることがあります。
ここで、所得稅稅率の仕組みについて少しご説明しておきましょう。
個人で収益不動産を購入した場合、不動産所得は、給與所得等と合算されて総合課稅となります。所得稅は累進課稅ですから、住民稅も合わせて稅率が30%なのか43%なのかでも、最終的に殘るキャッシュフローに大きな違いが出てきます。
例えば給與所得等の他に不動産所得が年間300萬円ある時、不動産所得の部分にかかる稅金は、稅率30%の人は稅額90萬円、43%の人は129萬円になります。(青色申告特別控除額は考慮しない)
しかし退職によって給與所得分が無くなり、不動産所得のみになった場合は、稅率がぐっと下がる可能性が高くなります。
であれば、稅率が高い會社員の時に減価償卻を多めに取ることで経費を多くし、高い稅率が適用されるのを少しでも軽減するという考え方もあるでしょう。
ただし減価償卻の費用計上が進むと、売卻時に利益が出やすくなる≒稅金がかかることにもなりますので、併せて検討しておく必要があります。(売卻益は、「売卻価格-(取得価額-減価償卻累計額)」で計算されるため)
須藤さん:「所得稅は累進課稅で、稼げば稼ぐほど稅金の負擔が重くなるというのはこれまでもよく耳にしてきましたが、ここでも関係しているのですね。私も會社員なので、退職前後での稅率も含めて検討してみます」
そうなのです。稅率は個人の狀況によって違いますので、仮に不動産所得金額は同じであっても、稅金を加味すると、最終的に手元に殘るお金は変わってくる可能性があるわけです。
話が少々複雑だったかもしれませんが、最初は細かい數字を追う必要はなく、賃貸住宅経営をする際の獨特なお金の流れや概念を理解してもらえればと思います。
その上で、細かい部分は専門家と相談しながらでもいいのではないでしょうか。
須藤さん:「他にも、シミュレーションをする時にあらかじめ注意しておいた方が良いところはありますか?」
覚えておいていただきたいのは、「収支は毎年一定ではない」ということです。金融商品と比べると、急激な変動はあまりなく比較的安定している傾向にありますが、だからといって全く変化しないということではありません。
変動要素として最低でも以下の視點は持つようにしましょう。
- ?賃料収入:経年とともに減少する想定で考えておく。
- ?修繕費:給湯器やエアコンの交換といった比較的安価なものから、防水や外壁等に関する大規模なものまで築年數によりさまざまあり。あらかじめ収支計算に盛り込んでおく。
- ?入居募集費用:新たなテナントを探す際に手數料等の費用がかさむ場合があるため、心づもりをしておく。
- ?原狀回復費用:退去の際のリフォーム費用は、オーナー様とご入居者の負擔割合が法律等により明確になりつつあるので、それに則った収支計畫を立てる。
【 ポイント 】
- ?賃貸住宅経営を行う上でお金の流れを把握するには、所得稅額?住民稅額を求める「所得計算」の考え方を理解することが大切。
- ?単年度ではなく、中長期に渡る全體の中の「推移」で判斷する。
- ?収支のシミュレーションは、稅金を加味し確定申告後に手元に殘るお金で考える。
- ?減価償卻費や稅率の違い等をどう「有効活用」するかは、個人により異なる。
- ?収支の変動要素を理解して、あらかじめ計算に入れておく。