CASE03面倒だと何もしなかった父が他界。その後、資産を相続した母が認知癥に。
公開日:2023/11/13
亡くなった父は、常々「遺産はみんなで好きなように分ければいい」と言っていましたが、遺言書の作成や家族會議など、面倒だと言って、何もしなかったのです。父の死後、資産の大半は母が相続したのですが、その後、母が認知癥になってしまいました。成年後見人を選任することになったのですが、これからいろいろな面倒なことが起こりそうです。
相続人が認知癥になり、判斷能力が低下してしまうと、明確な意思表示することができなくなるため、遺産分割協議をすることができなくなります。遺産分割協議は、相続人全員の「合意」が必要になるからです。
また、認知癥になってしまうと、相続放棄もできなくなります。家族であっても、本人の意思がないまま相続放棄を申し立てたとしても、それは無効となるなど、判斷能力が必要な法律行為は一切できなくなります。
そこで、これを支援するための「成年後見制度」を利用することになります。成年後見制度とは、認知癥などで判斷能力が低下した相続人の代わりに後見人が財産を管理する制度です。後見人は、財産管理ができなくなった人の代わりとして、資産管理や資産の処理に関する契約などを行います。
成年後見制度は、自由度が低くなる
成年後見人は、依頼人(この場合は母)の権利を守ることを使命としています。よって、父の相続に関する遺産分割において、母は法定相続分(2分の1)を相続することになり、一部不動産も取得することになってしまいました。認知癥の母に後見人をつけることで遺産分割協議をすることはできますが、後見人の使命は「母の財産を守ること」です。後見人として法定相続分を守りますので、ほかの相続人の思ったようになるとは限りません。 「母は十分な財産を持っている」「子どもが母の面倒を見ることになる」などの理由で、子どもの取り分を多くすることは、後見人が認める可能性は低く、難しいでしょう。 つまり、最大の問題は、お父さまが望んでいた「みんなで好きなように」財産分けをすることができなくなったということです。お母さまには判斷能力がないため、取得した不動産を活用できなくなることも、問題といえます。 また、成年後見人制度を利用し、専門家を後見人にすると、費用が発生することも忘れてはいけません。さらに、成年後見人制度は原則として途中で止めることはできません。認知癥の母が亡くなるまで後見人が就くことになり、報酬も発生します。
「自分は大丈夫」と思っても、「ほかの人は大丈夫なのか?」まで考える
この亡くなった父は、妻のことまで深く考えておらず、自分のことだけしか考えていなかったのかもしれません。結果、亡くなった父も望まない結末になってしまいました。 「自分は認知癥にはならないだろう」「面倒だ」と思っていたとしても、妻のことまで考えておくべきであり、妻に認知癥の疑いが出はじめた時點で、何らかの対策をとっておく必要がありました。
二人とも遺言書を作成する
相続の相談を専門家にする場合、夫婦で行くことをおすすめします。 従來のイメージでは、「夫の財産の半分は、自動的に妻へ」となんとなく思われていましたが、じつはどちらが先に亡くなるのかわかりません。ですから最近は、夫の相続稅シミュレーションだけではなく、妻も含めたお二人のシミュレーションをするようおすすめしています。 この事例でも、どちらが先に亡くなっても対応できるように、できれば夫婦二人とも遺言書をつくっておくことをおすすめします。このケースの場合は結果的に父が先に亡くなりましたが、よもや妻が認知癥になるとは思っていなかったのでしょう。「面倒だから」と何もしなかった結果、殘された人たちもどうすればいいかわからなくなります。そして、それぞれが勝手なことを主張しはじめて、遺産分割がまとまらなくなってしまうことが多いのです。「自分のときは何もしないけれども、お母さんのときは頼むね」と言っても、まとまるものではありません。 加えて、母が認知癥の狀態で不動産を相続しても、本人も子どもたちも、どうすることもできません。自分のことだけ考えていては、大切な人たちを幸せにすることはできないのです。少なくともパートナーのことを考えて、しかるベき対策をとっていきましょう。
二次相続まで考える
「うちは相続対策をしっかり行っていますよ」と言う人はたくさんいます。ところがその內容を伺うと、多くの場合、夫が亡くなったときの対策だけをしているケースです。夫よりも妻のほうが先に亡くなってしまう可能性もありますので、逆のケースも考えておくべきです。 また、「一次相続」として夫が先に亡くなったときには、相続稅の配偶者控除(1億6000萬円、もしくは配偶者の法定相続分までは相続稅が課稅されない制度)が使えることに安心しても、次に「二次相続」で妻が亡くなったときには配偶者控除を使うことはできません。結果的に殘された子どもたちが多額の相続稅を負擔しなければならない可能性があります。 つまり、夫の対策だけをしっかりと行っていたとしても不十分であるということです。子どもからしてみれば「こんなはずではなかった…」ということにもなりかねません。
本當の相続対策とは、夫?妻が亡くなったときの相続稅を合算して考えることです。「最終的に、ご夫婦2人がなくなったときのトータルの相続稅がいくらになるのか」ということを前提に対策をしなければ、二次相続のときに相続人である子どもが多大な相続稅を負擔しなければならなくなります。 夫?妻両方の対策をしておきましょう。妻が先に亡くなる、もしくは認知癥になってしまう可能性も多分にあります。そのため、相続の話が出たときには夫婦ご一緒に対策を始めるようにしましょう。