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稅理士リレーインタビュー 第二回(前編) 「一番大切なのは『円満に相続をする』ということ」 稅理士法人 押田會計事務所 押田吉真様 宮野正美様

公開日:2016/12/22

土地活用と稅金の問題は、切っても切り離せない問題にもかかわらず、個人の土地オーナー様にとって毎年のように改正される稅制は、かなりハードルの高い問題でもあります。
難しい稅金の話はもちろんのこと、対応すべき様々な問題は、稅理士の先生に相談するのが一番です。少し敷居が高いと感じている方は多いかもしれませんが、気軽に相談ができるうえに、土地活用も含めた様々なアドバイスや提案を得ることができます。
このコーナーでは、そうした気軽な相談ができるように、リレー方式で稅理士インタビューをお屆けします。

インタビュアー(以下I):土地オーナー様がもっと気軽に稅理士の先生にご相談いただけるような事例を中心にお話を伺っていきたいと思います。押田會計事務所様には、相続稅対策をはじめとして、どのような相談が寄せられているのでしょうか。

押田(以下O):平成27年から相続稅の基礎控除が減額されましたよね。それにより相続稅の対象者が増えてきて、これまでなら相続稅がかからないような方からのご相談も非常に増えてきている狀況です。
従來、相続稅については申告書をつくるお手伝いをする作業、つまり「出口」の仕事が中心でした。今は反対に「入口」の仕事、相続稅対策ではなく相続対策の案件が非常に増えてきています。
現在、新聞や経済誌、不動産會社などが主催する各種セミナーも増えてきました。そうしたセミナーの中には、相続問題を抱える方々の不安な気持ちを煽るような內容のものも少なくありません。自分たちの商品を売らんがためのセミナーになっていることもあります。私どもが主催するセミナーではきちんとした情報を提供するとともに、「きちんとした情報を取ろう」ということをお伝えしています。

I:押田先生は、平成26年に『「やりすぎ」相続稅対策が子を貧乏にする』(幻冬舎)という本を出されています。タイトルが印象的ですね。

O:相続稅について稅理士が書く本というと、どうしても「相続稅をいかに安くするか」という視點になりがちなのですが、「それは違いますよ」ということを、この本を通じて皆さんにお伝えしたかったのです。
「借金してアパートを建てれば節稅できる」など、事実ではありません。実際、過剰な相続稅対策によって失敗している方、お子さんにまで負の遺産を引き継がせてしまう方が少なくありません。ですから、この本では「業者に騙されるな」というアドバイスをさせていただいています。
相続対策というと、ついつい相続稅対策に目が奪われがちですが、一番大切なことは「円満に相続をする」ということです。これを「爭族対策」といいます。そして二番目が「納稅資金対策」、最後に「相続稅対策」です。
稅対策ばかりに気を取られて肝心の爭族対策を行っていなかったために、失敗した事例をたくさん見てきました。早い段階で稅理士にご相談いただけていたらよかったのですが、ご自身で情報を集めて稅金を安くすることに奔走した結果、失敗した事例というのは本當にたくさんあります。

I:「爭族」については、稅対策において関係者間で意見が対立するというケースが多いのでしょうか。

O:いいえ、稅対策に走りすぎて爭いが起こり、肝心の相続ができなかった、というケースが多いのです。要するに、円満な相続というものがベースにあって、次に稅があるわけですが、その順番を間違えたがために本末転倒な結果になってしまうわけです。相続においては、まず「爭いが起きる」前提で手當てをしておくべきなのです。
それがわかっていないと、売りっぱなし建てっぱなしの悪質なアパート業者、いわゆる「相続ビジネス」に引っかかってしまいかねません。利回りなど目先のことばかり強調し、長いスパンで考えたら採算性や事業性のない賃貸不動産を建てさせてしまう會社もあるくらいです。その結果、相続がうまくできず、家族間で揉めて10年以上裁判をしているケースもあります。

I:建築會社であるパートナー企業は、どのよう見極めればよいのでしょうか。

O:幾代にもわたるおつきあいになりますから、アフターケアをきちんと行ってくれるパートナー企業を選択する必要があります。見分けるポイントとしては、大和ハウス工業さんのように業歴が長く、社會的な責任も大きい會社ならば、信頼できると思います。目先の価格や損得にとらわれず、建てる前よりもむしろ建ち上がってからの関係を大事にしてくれる、そういう業者としっかり手を組むことが大切です。
たとえば、資金を借り入れて賃貸住宅を建築した場合、稅額は確かに少なくなりますが、相続人には借入金と利息の負擔が殘ります。
特に返済期間については建物の耐用年數に合わせて計畫しないと、古くなれば當然修繕費もかさみますから、そこでも出費があるわけです。相続稅とのダブルパンチにならないよう十分に配慮する必要があります。
賃貸による収益が前提である以上、十分な収益が上がらなければ後の資金繰りに困るのは自明のことです。借入金によって確かに相続稅は安くなったものの、その借金を返せなくなってしまい、結果的に不動産を手放さなければならなくなったり、かなり安い金額で処分せざるを得なかったりするケースは少なくありません。

I:そうならないために、どういうことに気をつけるべきしょうか。

O:現狀の把握および分析が何よりも重要です。そのために、まずは「財産の棚卸し」を行って、円満に相続できる手立てを考えていきます。
相続稅が増大するか、新たに発生するとわかれば、相続稅対策を行います。ここで押さえておきたいのは、円満な相続ができて初めて相続稅対策が有効になるということです。
もし、手持ち資金で相続稅が支払えるのであれば、あえて相続稅対策はお勧めしません。なぜなら、実は「稅金で払うのが一番コストは安い」からです。

I:それは意外ですね。では、相続稅対策が必要となった場合、具體的にはどうすればよいのでしょうか。

O:まずは、所有する全財産の把握です。特にご家族名義の不動産、預貯金、有価証券、生命保険などをしっかり整理してください。ご家族の狀況確認も必要です。子どもの數や構成、孫の就學狀況、離婚や再婚をされているケースもありますから、家族全員の狀況をしっかり確認した上で、財産評価を行い、現狀の相続稅を試算します。
それらを踏まえて相続稅対策に進みますが、実行のポイントは、(1)現狀を分析する、(2)爭わないために遺言書を作成する、(3)相続対策をバランス良く組み立てられる専門家に依頼する、以上の三點です。そして、対策の切り口としては、(1)確実な生前贈與を行う。(2)生命保険を効果的に活用する。(3)土地を有効活用する、という三點から考えていきます。
生前贈與は時間がかかりますが、一番確実で著実な相続対策です。生命保険というのは、遺産分割対策、納稅資金対策、相続稅対策、すべての面において有益なスペシャリストだということを知っておいてください。
そして、土地の有効活用。賃貸住宅を建築して相続稅対策を行う場合、「不動産経営も事業である」という視點を持つ必要があります。事業である以上、採算を考えて実行する必要がありますから、先ほどもお話ししましたが、「組む相手」、特に建築會社の選択は重要です。この選択を誤ると、そのツケを次世代のお子さんたちが負うことにもなりかねません。
これは20年30年と続く事業であり。業者任せではなく、ご自身でしっかり計畫を組んでいく必要があります。そのためのアドバイザーとして、稅理士を使っていただければと思います。

I:一般の方はほとんど専門知識がありません。建築會社任せにしてはいけない、自分で計畫を立てなければ、となると、そこが不安でもあり、ネックになりますよね。

O:正しい認識は必要です。たとえば、賃貸住宅による相続対策というのは、結局、土地の評価が「貸家建付地」となって評価額が下がるということです。建物も購入した瞬間に6掛け5掛けの評価になり、そうした評価差を相続稅軽減策として利用するものですから、「借入金で賃貸住宅を建てれば相続稅が安くなる」という単純な考え方は危険です。
仮に現金が1億円あるのであれば、その現金を使って建てるのと、借入金で建てるのと、結果的に相続稅は変わりません。

I:一般の方の場合、どんなシーンで稅理士を活用するのがおすすめですか。

O:相続対策や事業承継の折はもちろんですが、毎年の所得稅、不動産所得の確定申告は、財産の棚卸しの最適なチャンスです。このとき、私どもに不動産申告のお手伝いをご依頼いただくと、きちんと整理してお返しすることができます。
それが現狀分析の資料になるわけですが、會計事務所にはいろいろな土地情報が集まってきますから、より正確な分析が可能です。まずは現狀分析、そこから円満な相続をベースにした相続稅対策へ。ぜひ、そういうご相談をいただきたいと思います。

I:先生の下に不動産情報が蓄積されることによって、ネットワークとしての機能も期待できるわけですよね。

O:そのとおりです。不動産の有効活用については、やはり稅理士の視點が非常に大事になってきますから、私どもでは「現狀分析しませんか」と広く皆さんにお勧めしています。ぜひ活用していただきたいですね。
それと、たとえば建設業者とオーナー様、これは1対1の関係になりがちで、そのために両者が不幸になるというケースもままあるわけです。そこに稅理士という通訳が介在していれば、業者の言っていることを正しく解釈してオーナー様に伝え、またオーナー様の気持ちもきちんと業者に伝えることができます。
たとえば「大和ハウス工業がこんな提案をしてきました」とオーナー様からお聞きして、「それは大和ハウス工業さんサイドのものの見方で、無理に受け入れる必要はないのですよ」と、アドバイスを行うことも中にはあるわけです。
私は「橋渡し」とよく言っていますが、格好よく言えばコーディネーターでしょうか。そういう役割として稅理士を大いに活用していただければ、両者が満足し、長いおつきあいのできる関係につながっていくのではないでしょうか。

(後編へ続く)

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