コラム vol.060
(最終回)司法書士が語る
「不動産相続稅対策としての信託の活用方法」
執筆:司法書士 星野大記
公開日:2014/12/24
最終回は、新しい中間省略登記とその活用方法をご紹介いたします。
明治32年に制定されてから抜本的な改正がずっとなされなかった不動産登記法が改正され、平成17年3月に施行されて、もうすぐ10年になります。
この改正により、不動産登記実務で一般的に利用されていた、舊?中間省略登記は利用できなくなりました。
ここで、舊?中間省略登記とは、A→B→C と不動産が売買されるとした場合に、原則として、A→B と B→C の2回の登記をしなければならないところ、A→C と登記してしまうことをいいます。
これは改正前の不動産登記制度の間隙をついた実務的な技術で、B の不動産登記の登録免許稅を節稅するためのものでした(従前の売買による所有権移転登記の登録免許稅は50/1000と高い率でした)。
ところが、新法改正により、登記申請書類の中に、「登記原因証明情報」の添付が必須となったため、舊?中間省略登記は利用できなくなったのです(仮にこれを利用すると、公正証書等原本不実記載罪に該當します)。
しかし、新法施行後、不動産実務業界からの強い要望と法曹界?司法書士會が新しい法理論を提唱し、これを法務省に容認され、內閣府、國道交通省が宅地建物取引業者法に関連する省令を一部改正し、新しい中間省略登記ができるようになりました。
新しい法理論とは、
- 1. A→B 売買 ただし所有権は A に留保(第三者のための契約)
- 2. B→C 売買 A→C へ所有権を直接移転させる(他人物売買)
という特殊な契約になります(したがって、契約書の作成にも特約など注意が必要です)。
ここで、新しい中間省略登記のメリットですが、
- 1. B の登録免許稅(20/1000)が課稅されない(所有権を取得していないから)
- 2. A に B→C 間の売買価格を知られずにできる
ここまでは、舊?中間省略登記と同じですが、
- 3. B に不動産取得稅(3~4/100)が課稅されない(所有権を取得していないから)
という3つ目の新しいメリットが付け加えられる結果となりました。
新しい中間省略登記は、平成19年7月10日から可能となりましたが、1. 舊?中間省略登記が違法行為とされたこと、2. 法理論の理解が難しいこと、3. 契約書に特約を付す必要があることなどの理由で、當初は普及が進みませんでしたが、最近になって利用が進んできました。
実務的な利用としては、不動産の売主 A から B が買い受け、Bが売買決済前に新しい買主 C を見つけ、A から C へ直接移転させることで、B が利ザヤを抜く+流通稅(登録免許稅及び不動産取得稅)が課稅されないというメリットを得る目的で、主に不動産のプロによる利用が一般的ではあります。
しかし、今後は下記のような事案での実例が考えられます。
甲土地所有者で地主 A
乙建物所有者で借地権者 B
丙土地所有者 C
- ?A は甲土地を相続し、B とは先代からの付き合いがあるが、條件が合えば甲土地を売りたい
- ?B は乙建物が古く、建て替えするにも新居を購入するにも資金もない
- ?C は、道路付けが悪く、甲土地と一體となれば価値が上がる丙土地を條件が合えば売卻したいと思っている
- ?ABC 3名が一緒に売卻すれば価値を最大化できる
このようなケース、これからの大相続時代には多數散見されることになると思われます。
AもBもCも自らは動けないけれど、條件が合えば売卻したいと思っています。
ここで、新しい中間省略登記を応用できます。
LLP(有限責任事業組合)をABC 3名で設立(LLPエービーシー)
この時、それぞれの不動産評価に応じて配分比率を決めます
- 甲土地を A ? LLP
- 乙建物を B ? LLP
- 丙土地を C ? LLP
それぞれがLLPへ売卻します。ただしこの時LLPが売卻する先へ所有権が直接移転させることができる、新しい中間省略登記の特約を付しておきます。
そして、LLPが第三者のデベロッパー D へ売卻し、ABC それぞれから D へ甲乙丙の所有権が直接移転させることができます。
LLPには流通稅が課稅されず、利益は配分比率に応じてABC に直接帰屬することになります。
これにより、ABC それぞれが不動産の価値を最大化して売卻することができます。
新しい中間省略登記は、他にも実踐的な利用法がありますが、それはまた次の機會があればご紹介したいと思います。
さて、今回が最後となりました本コラムですが、少しでも多くの皆様に、便利な法制度を知っていただくことができたら幸いです。
ありがとうございました。