コラム vol.072
地代?賃料の滯納と賃貸借契約の終了
執筆:弁護士 吉山晉市
公開日:2015/05/12
借地契約について
【借地契約の終了】
まず、借地契約が終了するのは以下の(1)~(3)の場合です。
- (1)賃貸人と賃借人との合意で解約した場合
- (2)賃貸期間が満了し更新されなかった場合
- (3)借地人が地代を払わない、土地の使用方法に違反があったなど債務不履行があったことを理由に賃貸人が解除した場合
【地代滯納に対する対処方法】
(1)のように、合意で解約した場合にはあまり問題が生じることはないでしょう。
そこで、まず、(3)のように地代に滯納が発生したケースにおいて、賃貸人はどのように手続を進めていくべきか検討しましょう。
地代の滯納が相當期間継続する場合には、一般的に、借地人の債務不履行に背信性が認められますので地主は賃貸借契約を解除することができます。
まず、地主が借地人に対して相當の期間を定めて地代支払いの催告をします。催告期間內に支払いがなければ解除をします。なお、解除の効力は解除通知が借地人に到達することによって発生しますので、解除通知は內容証明郵便で行う必要があります。
【建物収去土地明渡請求】
ところが、地代を滯納しているケースでは、そもそも建物を収去して土地を明け渡すだけの資力が借地人にないことが多いのが実情です。
そうすると、土地賃貸借契約を解除しても借地人が自主的に建物を収去して土地を明け渡さない場合には、訴訟をしていくことが必要になります。
ただし、訴訟を提起する前に、建物の占有移転を禁止する仮処分を申し立てておくことが必要です。判決の効力は當事者にしか及びませんので、明渡訴訟が継続している間に地主が知らないところで建物の占有を勝手に第三者に移転されないようにするためです。そのうえで、建物収去土地明渡と滯納している地代を請求する訴訟を提起していきます。請求を認容する判決が出て確定したら強制執行も可能です。
【建物買取請求権】
(2)のような期間満了による契約終了の場合には、借地人は地主に対して借地上の建物の買い取りを請求できます(借地借家法13條1項)。もっとも、借地人の債務不履行によって賃貸借契約が解除された場合には建物買取請求権は認められません(最判昭和35年2月9日民集14巻1號108頁)。
借地人が建物買取請求権を行使すると、借地人と地主との間に建物の売買契約が成立したものと同じ効果が生じます。これを形成権といいます。借地人は、建物買取請求権を行使すれば、地主から建物売買代金の支払いがあるまで土地の明け渡しを拒むことができます。
では、建物買取請求権が行使されたら、いくらで建物を買い取る必要があるのか、地主さんにとっては非常に大きな問題です。
一般的には、売買代金は、買取請求権が行使されたときの時価であり、その內容は建物が現存するままの狀態での価額とされています(最判昭和35年12月20日民集14巻14號3130頁)。
借家契約について
【無催告解除】
借家契約においても、契約が終了するのは借地契約の(1)~(3)と同じです。
では、借家契約において、家賃の滯納が1回だけでも催告もなしに解除ができるとの條項がある場合、この條項は有効といえるでしょうか。
賃貸借契約のような継続的契約関係は當事者間の信頼関係を基礎にしているといわれます。そのため、賃貸人による解除が認められるためには、背信性が認められることが必要となります(最判昭和27年4月27日民集6巻4號451頁)。したがって、家賃1回の滯納だけでは一般的には背信性は認められないと思われます。では、何カ月滯納すれば背信性が認められるのでしょうか。この點については明確な基準があるわけでなく、事案により區々ではありますが、3カ月~半年程度が目安となります。
【滯納賃料に対する対処方法】
家賃の滯納に対する対処方法としては、地代の場合と同様ですが滯納が始まった時の初動が肝心です。とはいえ、勝手に鍵を替える、悪質な取り立てをすることは不法行為となり損害賠償責任を負うことになりますのでご注意ください。家主としては、滯納賃料が大きくなる前に賃借人の自主的な退去に向けた話し合いをすることなども大切です。
【更新拒絶と立退料】
契約期間が満了すれば契約は終了するのが原則ですが、借地借家法では賃借人保護のため、契約期間の満了により契約の終了する、つまり賃貸人が更新を拒絶するためには、「期間満了前1年前から6カ月前までに更新拒絶の意思を表示する」ことに加えて、「正當事由が必要」とされています(借地借家法26條1項、同28條)。
これらの規定は當事者間の合意でも排除できない強行規定ですので、期間満了で契約更新しないという特約は無効になるので注意が必要です。
これらの規定は當事者間の合意でも排除できない強行規定ですので、期間満了で契約更新しないという特約は無効になるので注意が必要です。
ここでいう「正當事由」は、賃貸人または賃借人が建物を使用する必要性、賃貸借に関するこれまでの経過、建物の利用狀況、建物の現況(損傷の有無、老朽化の程度)、立退料の有無?金額によって個別に判斷されます。
したがって、立退料さえ払えば賃借人を追い出せるわけではありませんし、立退きのためには必ず立退料が不可欠というわけでもありません。
ここでいう「正當事由」は、賃貸人または賃借人が建物を使用する必要性、賃貸借に関するこれまでの経過、建物の利用狀況、建物の現況(損傷の有無、老朽化の程度)、立退料の有無?金額によって個別に判斷されます。 したがって、立退料さえ払えば賃借人を追い出せるわけではありませんし、立退きのためには必ず立退料が不可欠というわけでもありません。
オーナー様や家主様にとっては、本稿ではお伝えしきれなかった問題も多々あるかと思いますが、問題を抱え込むと解決は一層難しくなりますのでいち早く弁護士などの専門家に相談されることが早期解決への第一歩になるかと思います。