最新キャップレートの狀況に見る今後の不動産市況
公開日:2024/06/28
キャップレートの推移で分かる投資家の投資意欲
キャップレート(Capitalization Rate)とは、「不動産投資における利回りの指標」のひとつで、投資家の「期待利回り」(投資によって期待する利回り)のことを指します。當然ながら、キャップレートは、エリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって変わります。
不動産投資における投資対象不動産の価格算定(あるいは目安価格の算定)は、収益還元法に基づいて行われます。具體的には、「年間収益÷還元利回り=不動産価格」を計算したうえで、周辺地域での取引事例や、個別要因を加味して価格を計算します。個別性の強い不動産は、それぞれの還元利回りを算出することは難しいため、目安としてキャップレートが用いられることが一般的です。
計算式に當てはめれば、収益が一定として、利回りが下がれば価格は上昇局面(投資意欲旺盛)ということができ、逆に利回りが上がれば、価格は下落局面(投資意欲減退)にあるといえます。つまり、「キャップレートの推移をみれば、投資意欲がうかがえる」のです。
キャップレートは不動産投資における利回りの目安として、土地活用を含むさまざまな不動産投資において、多くの投資家や不動産オーナーが、その動向に注目しています。また、収益不動産の価格査定に用いられる収益還元法での割戻しの値の目安としても利用されています。
このように不動産投資家が注目するキャップレートを、いくつかのシンクタンクが公表しています。一般財団法人 日本不動産研究所が調査している「不動産投資家調査」のキャップレートデータは、収益還元での不動産価格算定がまだ広まっていない1999年から年2回(半年ごと)公表されており、業界では最も歴史あるキャップレートデータといえるでしょう。
その調査の最新版「第50回不動産投資家調査」が2024年5月29日公表されました。この調査はアセットクラスごとに投資家の「期待利回り」=キャップレートや投資環境についてアンケート調査を行い集計したものです。アンケートの対象は、アセットマネジメント會社?デベロッパー?商業銀行?投資銀行?生命保険會社?不動産賃貸業などで、いわば不動産投資の最前線で業務を行っている方々です。投資家の「期待利回り」を示すキャップレートの動向からは、不動産投資への意欲、また不動産価格動向がうかがえます。
今回は、第50回「不動産投資家調査」(調査時點:2024年4月)のデータをもとに、現狀のキャップレート動向を解説します。
最新のキャップレートのアセットごとの狀況
2024年4月時點のキャップレートの動向は、アセットごとに異なりますが、概ね「橫ばい」と「低下」が混在する結果となっています。
東京都心のオフィスや賃貸住宅は、過去を振り返っても最も低い(東京丸の內?大手町では3.2%)歴史的な低水準が続いているという狀況といえます。全體的に見れば、東京など大都市部は「橫ばい」で、札幌?仙臺?名古屋?京都では「低下」という狀況となっています。
土地活用でも多くの不動産オーナーが取り組む郊外商業店舗は、郊外型ショッピングセンターのキャップレートをみれば、全國主要10都市すべてでキャップレートは低下しました。特に札幌では前回から0.3ポイント低下し、6.0%となりました。東京は5.1%、大阪は5.4%という史上最低水準で、こちらも投資熱の高さがうかがえます。
また、コロナ禍で苦戦したビジネスホテルは全國的に低下しており、東京は4.3%とコロナ禍前の最低値(4.4%)を更新しました。
最後に、供給過剰といわれていた物流施設でも投資熱は依然として高く、多くのエリアで低下しました(一部では橫ばい)。
賃貸住宅ワンルームタイプのキャップレート
賃貸住宅の期待利回りは、全國的に史上最低水準が続いている狀況です。
全國で最も低いエリアとされる東京(城南エリア)では、前回調査(調査史上最低)から橫ばいの3.8%でした。ここでのワンルームタイプは、専用面積25~30m2、築5年未満、駅徒歩10分以內、総戸數50戸程度の1棟物件の想定です。1年前の前々回調査では史上最低を更新し、半年前の前回、そして今回は橫ばいという結果でした。賃貸住宅投資の期待利回りは引き続き最低水準となり、賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛で、賃貸用住宅の価格も変わらず上昇基調にあるということになります。
全國主要10都市では、前回調査と同數の6都市が橫ばいとなりましたが、大阪?神戸?広島?福岡の西日本の4都市では0.1ポイント低下しました。このところ開発が進む広島市では5.1%、人口流入が続いている福岡市では4.5%となっています。
期待利回りが全國で最も低い地域のひとつで、立地プレミアムのベースとされる東京城南地區(目黒區?世田谷區、渋谷?恵比壽駅へ電車で15分圏內想定)では、キャップレートは3.8%で前回と同じ、想定物件の取引利回りも3.5%で前回と同じです。また、東京城東地區(墨田區?江東區、東京?大手町駅まで電車で15分圏內想定)の期待利回りは3.9%、取引利回りは3.6%で、こちらも前回と同値となりました。
この數字だけみれば、都市部における賃貸住宅需要は安定が続く見通しのため投資意欲は高いものの、価格上昇には天井感があるようです。
また、東京?城東地區も東京?城南地區も「期待利回り」のほうが「取引利回り」より未だに0.3%高いことから、「投資家の投資意欲の旺盛さ」がうかがえます。
*注:利回りはケースにより異なりますので、あくまでも目安として、トレンドを見てください。
全國主要6都市のワンルームタイプのキャップレートを2004年からの推移をみれば、図1のようになります。
図1:全國主要都市における賃貸住宅の期待利回り(CAPレート)の推移(ワンルームタイプ)
一般財団法人 日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
ファミリータイプの狀況
一方で、賃貸住宅(1棟)のファミリータイプ(想定は専用面積50m2~80m2、それ以外はワンルームタイプと同じ)のキャップレートは、調査10都市のうち半分の5都市(仙臺?京都?大阪?神戸?福岡)で0.1ポイント低下しました。こちらも、西日本での低下が目立っています。
ベースとなる東京?城南地區は、2022年10月4.0%→2023年4月3.9%→2023年10月3.8%→2024年4月3.8%と推移しており、過去最低が続き、前回調査と同様にワンルームタイプと同じ値となっています。また、想定物件の実際の取引における利回りは3.5%でこちらもワンルームタイプと同じとなっています。
全國主要6都市のファミリータイプのキャップレートを2004年からの推移をみれば、図2のようになります。
このところの動向をみれば、ワンルームタイプとファミリータイプのキャップレートが近づいている都市が多くなっています。
図2:全國主要都市における賃貸住宅の期待利回り(CAPレート)の推移(ファミリータイプ)
一般財団法人 日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
まだまだ投資意欲は高い
キャップレート以外の質問項目を見てみると、「今後1年間の不動産投資に対する考え方」についてでは、「新規投資を積極的に行う」という回答が95%(前回も95%)で大きな変化なく積極姿勢が続いています。一方「新規投資を控える」という回答は5%(前回も5%)で、こちらも橫ばいでした。
また、「マーケットサイクル(市況感)」についての質問では、東京?大阪とも今がピークという回答が最も多くなりました。「半年後」についても、「ピーク」という回答が最も多く、高値で好調な狀況がまだしばらく続きそうと見ている投資家が多いようです。
ご承知のとおり、長期金利を中心に金利上昇がみられます。今後の金利動向を心配しつつも、不動産市況はまだしばらく活況が続くのではないかと思われます。