不動産オーナーの法人活用(1)不動産保有會社設立のメリットと注意點
公開日:2024/03/29
相続対策の最大のメリットは収入移転
相続対策としての會社設立の最大のメリットは、本來不動産所有者に入る収入が、家賃?地代又は管理料等として會社に入ることにより、個人財産の蓄積を防ぐことができることです。
個人名義のまま不動産を所有し続けると、その収益はそのまま個人財産として蓄積され、相続稅の課稅対象となりますが、會社に不動産を移転すると、不動産所有者ではなく會社に財産が蓄積されることになります。
さらに、不動産所有者の子や孫などが最初から出資する、または相続までに會社の株式を子や孫などに移転しておけば、株式は不動産所有者の遺産ではなくなっていますので相続財産にはなりません。もちろん、その子や孫に株式を移転する際には、株式や出資の評価額に対して贈與稅が課稅されますが、時間をかけて行えば、土地や建物などを贈與するより、容易かつ少ない費用で、贈與稅の負擔を軽くすることができます。
よって、十分に時間がある場合には、不動産所有者が出資(場合によっては現物出資)し、その株式等の評価を下げたうえで贈與する方が、相続対策上有利な方法といえるでしょう。
所得稅対策としてのメリット
不動産所有者の場合には、どうしてもファミリーの中の1人に所有不動産が集中し、結果として所得も集中していることが多いようです。所得金額が1800萬円を超えると所得稅?住民稅合計の稅率が50%、4000萬円超は55%になります。
會社を設立して収入を會社に移転し、きちんと役員や従業員として勤務している子や配偶者などに、その會社から給與や役員報酬を支払うと所得が分散され、不動産所有者より低稅率の所得稅?住民稅が適用されることになり、ファミリー全體の稅額の合計額が減少することになります。
會社契約で従業員や役員の生命保険に加入すると、契約內容にもよりますが、少なくとも掛捨て部分の保険料が費用として処理でき、個人では一部費用化できない土地取得の借入金利子についても、會社では全額費用化できます。青色申告をしている個人の場合には欠損金の繰越控除は3年ですが、會社の場合は最長10年間可能です。
さらに、個人の場合には不動産や株式の譲渡損失を他の所得と通算することができませんが、會社の場合は損益通算できます。
所得金額は695萬円超なら効果有
會社を設立するかどうかの判斷の単純な目安は、法人稅の実効稅率と個人の所得稅?住民稅の合計稅率との比較です。課稅所得が695萬円を超えると法人稅率のほうが低くなり、これがひとつの基準です。
會社活用のメリットの1つが個人の所得稅?住民稅の合計の稅率と、法人稅の実効稅率との稅率差です。個人が不動産を所有して賃貸した場合、その賃貸収入から生じる所得は不動産所得として課稅され、他の所得と合算して、15%から55%の超過累進稅率が適用されます。
超過累進稅率のため所得が高ければ高いほど稅負擔が重くなります。そこで高収益の不動産を會社に移転させ、不動産所得を會社に移転させます。會社に移転した所得について、個人にかかる所得稅等と會社にかかる法人稅等との差額が節稅となります。
次の表は個人の実効稅率と法人の実効稅率を比較したものです。一定の規模を超える個人の不動産業の場合には、不動産所得の金額が年間290萬円を超えると、超えた部分に5%の稅率で事業稅がかかりますので、これも考慮しなければなりません。
所得稅?住民稅の稅率が法人稅の実効稅率24.81%(中小企業の800萬円以下の所得)を超えるのが課稅所得金額695萬円を超える場合ですので、課稅所得金額695萬円が會社設立の1つの分岐點ともいえるでしょう。
表:個人と法人の実効稅率の比較(目安)
課稅所得金額 | 個人の実効稅率 | 法人稅の実効稅率(概算) | |
---|---|---|---|
195萬円以下 | 15.0% | 中小企業の800萬円以下 |
24.81% |
195萬円超?330萬円以下 | 17.0% | ||
330萬円超?695萬円以下 | 23.9% | ||
695萬円超?900萬円以下 | 25.9% | ||
中小企業の800萬円超 | 33.58% | ||
900萬円超?1,800萬円以下 | 34.4% | ||
1,800萬円超?4,000萬円以下 | 43.0% | ||
4,000萬円超 | 43%?55% |
(注1)法人の実効稅率は事業稅を含みます。(注2)復興特別所得稅等は考慮していません。
會社設立の留意點(デメリット)
會社設立はメリットだけではなく、デメリットもあります。メリットとデメリットを整理しておきます。
會社設立のメリット | 會社設立のデメリット |
---|---|
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會社であっても株主の共有
子が複數人いる場合に、不動産を共有で相続させると後々もめることを心配して、不動産を會社に移転することで解決できると思っている人がいますが、會社活用はこの悩みを完全に解決できるわけではありません。株主が複數いると會社は株主の共有という形ですから、會社としての意思決定に際しては株主の過半數の賛成、自己株買いや増資等に関しては3分の2以上の賛成が必要であり、意見が異なり簡単にいろいろなことが実行できないのは、不動産の共有と同じです。
例えば、複數の土地をそれぞれの子ごとに単獨に相続させる予定の場合には、1つの會社で実行すると、かえって將來の爭いの種を作ることになりかねません。このような場合には、それぞれの子ごとに會社を設立しておき、將來の意思決定を単獨で行えるようにしておくことが大切です。
會社に財産を蓄積する
何世代にもわたり、不動産所有者の相続を成功させるには、會社に財産を持たせて子孫はその株式を承継していくという方法が良いでしょう。會社に財産がなければ、長期的な相続対策にはなりません。
長期間にわたり様々な手法を活用にすることにより、株式の評価を下げて移転できます。また、相続発生時に被相続人に死亡退職金を支給する、相続人から相続財産を買い取るなど會社を通じた納稅資金の準備もできます。法人稅の節稅のみを考えるより、ぜひ、豊かで頼れる會社に育ててください。