建設工事費の上昇はいつまで続くのか?なぜ、上昇は止まらないのか?
公開日:2023/11/30
さまざまな物の値段が上がり続けている中で、建設工事費関連も同様に価格上昇が続いています。
「土地活用ラボ」の中で、建築工事費の分析と解説(前回は2022年10月までのデータを使用)を行った後も工事費は下がる気配がなく、まだまだ上昇する見通しです。本稿では、今後の建設工事費の見通しについて解説します。
消費者物価指數
物価の変動を示す消費者物価指數をみれば、執筆時最新の2023年9月分(生鮮食料品を除いたコア指數)は前年同月比プラス2.8%となり13カ月ぶりに3%を下回りました。しかし、生鮮食料品とエネルギー価格を除いた通稱「コアコア指數」はプラス4.2%と依然高い伸びを示しています。この先、伸び率は多少下がるもののコア指數の上昇が続くものと予想されています。
物価の上昇と同じように工事費の上昇も、再び顕著になってきました。
建設工事費上昇の現狀
最新分(2023年8月分:2023年10月末國土交通省発表)の建設工事費デフレーターの狀況を見てみましょう。建設工事費デフレーターとは、建設工事に係る「名目工事費額」を基準年度の「実質額」に変換する指標です。建設工事に係る費用の相場を示す指標で、経済の変動を知るうえで重要な指標のひとつといわれています。
図:建設工事費デフレーター工法別前年同月比の推移(2020年1月~)
國土交通省「建設工事費デフレーター」:2015年基準より
グラフは、2020年1月からの工法別の建設工事費デフレーターの推移です。
住宅建設工事費は、2013年頃からジワジワと上昇が続いていました。新型コロナウイルス感染拡大の影響が広まった2020年頃に一時的に僅かに下がったものの、2021年から上昇が顕著になりました。特に、「ウッドショック」と呼ばれた木材の需要の急激な高まりから、木造住宅の工事費は2021年後半から2022年前半にかけて2ケタの上昇率が続きました。
木材価格の高騰に加えて、建築資材の多くを輸入に頼っている我が國においては、原材料生産國でのインフレの影響を受けたこと、また円安が進行していることなども要因でした。
その後上昇率は徐々に低くなり、価格は高止まりながらも落ち著く様相でした。しかし、2023年5月に前年同月比は再び上昇に転じ、以降上下を繰り返しています。2015年の年間平均を100とすれば、どの工法の工事費も2割以上の上昇となっています。
工事費上昇の背景
今後も工事費はさらに上昇する可能性が高そうです。その要因としては、以下のことが挙げられます。
1)輸入建築資材の価格高騰
多くの建築資材を輸入に頼る現狀では、輸入相手國の物価上昇の影響を強く受けます。また、円安が続いており、執筆時のドル円相場は1ドル=151円臺で推移しています。2021年年始は103~4円臺でしたので、この時期と比較すれば1.5倍程度になっています。
2)輸送コストの上昇
原材料を運ぶ船、トラック、重機の燃料として石油を使うため、原油価格の高騰は輸送コストの上昇に直結します。2023年11月頃から多少原油価格は落ち著いてきたものの、依然 高値が続いており、建築現場まで建築資材を運ぶ費用の上昇は続くと思われます。また、物流に攜わる方々(ドライバーなど)の人件費が大きく上昇しており、2024年4月からはドライバーの労働時間(殘業時間)の上限が決められ、人手不足が深刻になることも確実視されており、人件費?輸送コストの上昇は避けられないでしょう。
3)建設業界の2024年問題
建設工事費の上昇に拍車をかけることになりそうなのが、「建設業界の2024年問題」といわれる、働き方改革による殘業上限規制が施行されることです。建築業界ではドライバーに加え、建設業労働者も5年猶予されていた働き方改革が2024年4月から適用されます。これによって深刻な人手不足が起こり、労働人件費が上昇し、殘業が抑制され工期が伸びることが予測され、結果、工事費の上昇は確実と思われます。すでに、これから受注する工事においては、このように人件費上昇を見越した見積りが提示されているようです。
建設業従事者の人手不足解消のための企業買収が増加?
建築現場の従事者、現場管理者など建設現場に関わる方々の人手不足は深刻さを増しています。先日、ある大手ゼネコンが中堅ゼネコンの買収を発表しました。買収の主な目的として、「建設業界の人出不足の解消」とされており、「建設業界の2024年問題解消」のための、M&Aが今後増えそうです。
今後の見通し
ここまで見てきたように、建設工事費の上昇は、まだまだ続くことになりそうです。その要因を鑑みれば、よほど需要が低迷しない限り、「しばらくは、建設工事費が下がりそうな気配はない」と言っていいでしょう。そうだとすれば、ここしばらくの間では「今が、工事費の安値圏」という可能性は高いと思われます。