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コラム vol.446
  • 土地活用稅務コラム

令和5年度稅制改正 
資産課稅に関する改正について

公開日:2023/03/29

POINT!

?令和5年度の稅制改正により、暦年課稅制度の生前贈與加算が死亡前3年から7年に延長される

?相続時精算課稅制度に新たに「年110萬円の基礎控除」の枠が加わり、2024年1月1以降、相続時精算課稅制度を選択した人への贈與でも、年110萬円までなら贈與稅が課稅されない

?相続は人によって異なるため、専門家に相談するのが良い

令和4年12月23日に令和5年度の稅制改正大綱が閣議決定されました。その中でも、不動産オーナーの方々にも大きくかかわる、相続稅や贈與稅といった資産稅関係の改正內容についてご紹介します。
元來、贈與稅は、相続稅の累進回避を防止する観點から、相続稅よりも高い稅率構造となっていました。そのため、相続稅がかからない方、相続稅がかかる方であっても多くの方にとっては、相続稅の稅率よりも贈與稅の稅率の方が高いため、若年層への資産移転が進みにくくなっていました。
ただし、相続稅がかかる方の中でも相続財産の多いごく一部の方にとっては、相続稅の稅率よりも贈與稅の稅率の方が低いため、財産を分割して贈與する場合、相続稅よりも低い稅率が適用されていました。つまり、相続稅がかからない方々にとっては、贈與稅を支払ってまで贈與することを選択する人は少ないため、資産家の方に有利な稅制になっていたともいえます。 國としては、ご高齢の方々が所有する財産を早期に若い層に渡していくために、相続稅がかからない方々にとっても、贈與がしやすいように改正をする必要がありました。

図1:相続稅と贈與稅の関係

令和5年2月財務省資料より

暦年課稅制度の生前贈與加算が死亡前3年から7年に延長

資産の大きさによる不公平さや生前贈與しにくい狀況を改善するために、令和5年度稅制改正では、暦年課稅制度における生前贈與の相続財産への加算期間が、3年から7年に変更されました。
暦年課稅制度では、死亡日以前3年間に贈與した財産は、相続の際、相続財産に持ち戻すこととなっていました。贈與した金額が年110萬円以下の基礎控除の範囲內でも、贈與者の死亡日以前3年間であれば、相続稅の対象になるというものです。

暦年課稅とは

贈與稅額は、年ごとに贈與を受けた財産の合計額を基に計算されますが、110萬円の基礎控除を超える部分が贈與稅の対象となり、110萬円までの贈與は課稅されません。生前贈與により、相続時の財産を減らすことができますが、贈與者の死亡前3年以內の贈與財産は相続稅の計算に含まれます。これが生前贈與加算です。贈與財産110萬円の基礎控除以下の贈與についても、死亡前3年以內であれば加算対象となりますが、加算の対象となるのは相続人と遺言などで財産を取得した人だけです。

この「3年」という期間は、諸外國と比較すると非常に短いため、諸外國にならって3年から7年に延長されました。適用時期は、2024年(令和6年)の1月1日以降に贈與した取得財産に関する相続稅から適用されます。
亡くなる前の3年間に贈與された財産の扱いはこれまでと同じです。しかし、それより前の4年間に贈與された分については、全體から100萬円を差し引いた金額を相続財産に含めて計算する必要があります。

2027年(令和9年)の1月1日以降、加算される年數が伸びる

2024年1月31日に亡くなった場合、生前贈與加算の対象となる贈與は、2021年1月31日~2024年1月31日の3年間の贈與です。ですから、2017年1月31日~2021年1月30日の贈與は稅制改正前の贈與ですので、対象になりません。2027年以降から、加算される年數が3年より長くなります。
ただし、2027年(令和9年)の1月1日以降、いきなり7年間に延ばしてしまうと、法律と実態が合わなくなることから、2027年(令和9年)から2031年(令和13年)まで持ち戻しの期間が、3年から4年5年6年7年と1年ずつ増やす形で計算されます。年が進むにつれて徐々に加算される年月が長くなり、2031年1月以降の相続から、まるまる7年加算されるようになります。
たとえば、相続人である子ども2人に毎年110萬円贈與を行ってきた人が亡くなり、相続開始日が2027年(令和9年)6月1日になったとします。

その場合は持ち戻しの期間が4年になります。
現行では3年間の持ち戻し期間として660萬円が持ち戻しとなりますが、加えて令和6年の1月1日の金額も持ち戻しの対象となります。

図2:生前贈與加算の金額 具體例

ただし、相続開始前3年から7年の贈與については、贈與の相手1人100萬円は控除できることになっていますので、この220萬円から100萬円×子ども2人分、計200萬円を差し引いた20萬円をプラスして生前贈與の加算額を決定します。つまりこの場合、660萬円プラス20萬円の680萬円が生前贈與の加算となります。

相続時精算課稅制度の改正

もう1つ、「相続時精算課稅制度」が大きく変わるのも、令和5年度稅制改正の大きな點です。
相続時精算課稅とは、2,500萬円の特別控除額までは贈與稅がかからず(特別控除額を超えた場合は一律20%の稅率で贈與稅がかかります)、贈與を受けることができるものの、贈與者が亡くなったときに贈與でもらったものもすべて相続財産に加えて計算されるという制度です。そのため、生前贈與により相続時の財産を減らすことはできません。
多くの方は暦年贈與を使って贈與を行われますが、この相続時精算課稅制度を選択することも可能です。

2024年の贈與から年110萬円までなら贈與稅が課稅されない

今回の改正で相続時精算課稅制度に新たに「年110萬円の基礎控除」の枠が加わります。 2024年1月1以降、相続時精算課稅制度を選択した人への贈與でも、年110萬円までなら贈與稅が課稅されません。

図3:相続時精算課稅制度の見直し 改正內容

これまでも、暦年贈與については、毎年110萬円までは贈與稅の控除として基礎控除がありましたが、相続時精算課稅制度を選択すると、その110萬円の基礎控除というのが適用できませんでした。
今回の改正によって、110萬円の基礎控除ができるようになりました。またこれまでは、相続時精算課稅制度を使うと、すべての贈與が相続稅の対象になっていましたが、年間110萬円のこの基礎控除の金額は相続稅の対象から外すことができるようになりました。つまり、金額が安い贈與であれば相続時精算課稅を使った方が、稅額が安くなるわけです。

図4:相続時精算課稅制度の見直し 改正前後の比較表

改正前と改正後の計算方法を比較してみます。 改正前の內容ですと、贈與額から2500萬円を差し引き、20%の贈與稅を申告納稅する必要がありました。2500萬円までは贈與稅がかからず、贈與することができます。
2500萬円を超えた部分についても、相続時に精算課稅をしますので、相続時にその贈與した金額を合わせて相続稅の計算をします。支払った贈與稅はその相続稅から差し引くことができますので、結論として贈與稅というのはかかっていない形になります。これが相続時精算課稅制度です。

この相続時精算課稅制度は、すべての財産が相続稅の対象になりますので、一度、相続時精算課稅制度を使うと、それ以降の贈與はすべて相続稅の対象になってしまいます。

通常、贈與というのは相続稅が減ることを前提に使うことが多いため、この相続時精算課稅制度を選択してしまうと、すべて相続稅の対象になってしまいますので、あまり使われることはありませんでした。使われるケースとしては、相続財産に加算する贈與財産の評価額は、贈與時の評価額で行う必要がありますので、現在の評価額で相続稅の評価をしておく必要があります。例えば將來値上がりが期待されているような資産であれば、今100の評価で贈與できて、將來1000になることが予測されるのであれば、評価額が低いうちに相続時精算課稅制度を選択し、贈與をしておくことによって、相続稅の対象の評価額を低く抑えることができます。將來収益をもたらすもの、あとは値上がりするもの、そういったものはこの相続時精算課稅制度を使うことが今でも行われております。
また、將來、資産価値が上がることを予測した相続という意味では、これまで、相続時精算課稅制度は、事業承継対策として使われるケースがありました。オーナー経営者が自社株を時価の低いときに贈與すれば、相続時に株価が上昇していたとしても、贈與時の価値で計算されるため、將來かかる予定の相続稅を抑えることができます。

これまでは少額の贈與であっても申告が必要であり、手続き面での負擔がありましたので、相続時精算課稅制度の利用件數はそれほど多くありませんでした。しかし、110萬円までであれば贈與稅も相続稅もかからず、申告も不要となれば、利用者側のメリットは大きくなります。
高齢者から若年層への早期の資産移転は、日本の経済にとっても大きな課題です。高齢化が進むなか、日本銀行の「資金循環統計」によれば、家計金融資産は60歳以上が約6割を所有しているとされており、高齢者が持つ資産を若年層へ移転させることで、消費や投資を促し、ひいては日本経済を活性化させることにつながることが期待されます。

暦年贈與と相続時精算課稅の使い分けをどうするか

ここまで紹介した、暦年課稅制度と相続時精算課稅制度ですが、どのような方がどちらを選択すれば稅制上、有利に働くのでしょうか。
まだまだお元気で、相続まで生前贈與の持ち戻し期間7年よりもまだ時間があるという方は、これまで通り年110萬円までなら非課稅になる暦年贈與の基礎控除を活用して、時間をかけて次世代に資産を移転させるのが良いでしょう。
また、相続人や受遺者ではない人は、生前贈與加算は適用されない點を活用すれば、孫や甥(姪)のために、暦年課稅制度を活用するのが良いかもしれません。
一方、余命わずかなご高齢の方が『子に生活資金を少しでも前渡ししたい』とお考えの場合は、相続時精算課稅制度が良いかもしれません。
亡くなる直前であっても年110萬円までなら、贈與稅が課稅されません。
前述の事業承継においても、株価の低い時點で贈與したうえで、110萬円の控除枠を活用しながら、事業資金の贈與を行うケースが考えられます。
いずれにおいても、相続は人によってすべて異なり、同じケースは2つとしてありません。複雑な計算が必要なケースもありますので、公認會計士や稅理士などの専門家へ相談されることをお勧めします。

監修:稅理士法人朝日中央綜合事務所 公認會計士?稅理士 小平康弘

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