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コラム vol.290
  • 土地活用稅務コラム

「話し合い」が事業承継の第一歩

公開日:2019/07/31

墨田區で推進するも、進まない事業承継

弊社のメインの地域である墨田區は、ニット、金屬、革物、印刷関係などの下請け製造業、いわゆる町工場が多い地域ですが、その數は全盛期だった1980年代に比べ、現在は3分の1ほどになっています。今でも経済狀況は厳しく、後継者不在などで會社の數も減っており、事業承継は大きな問題となっています。
そうした中、東京商工會議所(墨田支部等)と、墨田區內に本?支店を有する金融機関、墨田區により設立された「墨田區地域金融機関ネットワーク」が主體となり、「オールすみだ」で區內中小企業に早期の事業承継対策を促すことを目的として「社長60歳企業健康診斷®」を実施しています。
この取り組みは、事業承継に向けての課題を診斷するスキームとなっており、まず金融機関などの取引先や関係先の中から事業承継の問題を抱えながら進んでいない會社をピックアップし、東京商工會議所へ紹介します。その後、私たちのような稅理士などを派遣して、事業承継についてヒアリングを行います。そして、今後の進め方などの指針をフィードバックシートとしてまとめ、その會社にお渡しします。
これは金融機関と地元の経済団體が一體になって行っている珍しい取り組みで、メディアの取材や全國の地方自治體からの問い合わせもあると伺っています。2016年から始まったこの取り組みは墨田區にとどまらず徐々にエリアを広げ、現在では、東京商工會議所は管轄する23區內全域で本事業を実施しており、私も月に2 ~ 3件ほど依頼をいただいています。また墨田區では、事業承継にかかる資金融資について利子補給の制度を設けています。一定の要件を満たす場合、事業承継をした企業、これから事業承継をする企業については、実質的に利子の負擔をせず資金調達を行うことができます。使途についても、運転資金、設備資金、いずれも可能です。

事業承継は、まず話し合うことから

事業承継問題は喫緊の課題であるにもかかわらず、個人の感覚としては、あまり進んでいないように感じています。経営者の多くの方が必要だとは理解してはいらっしゃるものの、すでに対策を始め、いつでも承継ができる狀態にされている経営者はごく一部でしょう。今すぐにやらなければいけないということでもありませんので、どうしても現在の業績や目の前のことに意識が向いてしまい、後回しにされているようです。
事業承継には、贈與にかかる稅金など稅務対策もありますが、まずは家族間で話合うことが大切です。多くの場合は、父親が現在のオーナーでお子様が引き継ぐという形ですが、親子間というのは話しづらいのでしょう。特に父親のほうが話したがらないケースが多いようです。
相続稅は、相続人が心配されることのほうが圧倒的に多いのですが、まずはオーナーである父親が話の席に座らないことには始まりません。話をしてみると、意外なほど早く解決することもありますから、私たち稅理士がそのきっかけ作りをすることは非常に意味があることだと思っています。

  1. 事例1:レポートで父親の會社の歴史を知る
    オーナーである父親が突然亡くなり、息子さんがどうしたらいいのかわからない狀況になってしまった會社がありました。その會社は、私が依頼を受け、ヒアリングを行い、レポートを提出した會社でした。そのとき社長はまだ現役で、経営の意思決定など重要なことは、ひとりで決めており、事業承継についても「まだまだ先のこと」と、あまり真剣に考えていませんでしたが、社長が會社を起業した経緯やこれまで歩んできた歴史、強み、弱み、これからの會社の方向性など、財務的な內容だけでなく非財務的な內容も含めてフィードバックシートを作成しました。
    ところが、その父親が急に亡くなってしまい、息子さんが突然會社を継ぐことになりました。後継者である息子さんにご自身の考えや會社のことなどほとんど話すことなく、亡くなってしまったので、息子さんは會社の狀況がまったくわからないまま、大きな不安を抱えながら會社経営を始めることになりました。
    そこで、ご紹介いただいた金融機関の方が、當時私どもが作ったレポートを息子さんに渡しました。そこで初めて息子さんは、父親がどういうつもりで會社をやっていたのか、會社の持つ強みや弱みは何かなどを知ったそうです。
    私はそのとき、話し合うことの重要さに気がつきました。事業承継が進まない大きな理由は、オーナーである父親がその気にならないことです。父親がその気にならない限り、私たちがいくら提案しても絵に描いた餅になってしまいます。
    自分の財産をどう分けるかといったことは、父親にとって面白くないかもしれません。しかし、父親がどのような思いで仕事をしてきたか、どうやって家族を守ってきたか、現狀はどうなっているのか、これからどうしたいのかなど、予め後継者に伝えておかないと、萬が一の事が起こったときに困ってしまうことがあると思います。いろいろと試行錯誤していくこともでてきますが、まずは話をすることが、大きな意味を持つと感じています。
  1. 事例2:思いがけない後継者
    社長が約20年前に借金を殘して亡くなった後、奧様が會社を引き継ぎ、借金も返済し、會社の業績もよくなっていた會社がありました。そこに金融機関からの紹介がありお話をうかがうと、継ぐ人がいないということでした。従業員の中にも引き継ぐ人がおらず、M&Aを検討することになりました。しかし、その會社は社長の人脈や営業力で業績を保ってきた會社で、會社の強みを數値で評価することが難しく、決算書どおりの買収金額にならない可能性がありました。同時に、社長個人の相続稅対策もご相談をいただき、會社と個人の資産內容を調べ、お子様(息子1人、娘2人)にお話していたところ、個人で別のビジネスをされていた次女が、せっかくお母さんが守ってきた會社だからと、事業を承継すると決心されました。當初、後継者がいないと思い込み、M&Aによる引継ぎを模索していましたが、思いがけず次女が會社を引き継ぐことになったのです。
    このときも、話し合いをするべきだと思いました。このように、何か考えたり、行動を起したりすると、活路が見出せることもあります。

墨田區では、贈與稅や相続稅の問題よりも、継いだ後、先代の社長がやっていたビジネスモデルを変革し、後継者が今の時代に合った、収益性の高いビジネスモデルへ展開できるかのほうが大きな問題だと思います。この點、私ども稅理士には経営指導、経営コンサルティングの技量が求められており、稅務以外の分野でも顧問先からの期待に応えていかなければなりません。
どうしても後継者が見つからない、今後の事業発展が難しいという場合は、違う事業展開を考えることもあります。どういう資産があるか、活用できるものがあるのか、リソースはどうなっているかなど、もっと広い目で見ることも必要です。その中に不動産があるのであれば、どのように活用できるかを考える必要も出てきます。

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