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コラム vol.285
  • 土地活用稅務コラム

事業承継では、納稅資金対策と「爭続」対策が重要

公開日:2019/06/28

事業承継における5つのポイント

事業承継を行うにあたって、最初に検討するポイントに「後継者の選択」「経営権対策」「株価稅金対策」「納稅資金対策」「『爭続』対策」という5つがあると思います。
その中で強調したいポイントは、「納稅資金対策」と「『爭続』対策」です。非上場會社の経営者の財産構成は、自社株や事業用の不動産の比率が高く、その反面、手元のキャッシュが少ないという傾向があります。相続稅は自社株などの事業用資産にも課稅されますので、手元のキャッシュが少ないと、相続稅の納稅ができないというリスクも懸念されます。非上場會社のため會社の株は簡単には売れませんし、事業用の不動産もこれからのビジネスを考えれば容易には手放せません。ですから、事前の「納稅資金対策」が大切であり、まず、將來の相続稅の納稅に備え、必要なキャッシュの額を知っておくことが事業承継対策をするうえで非常に重要なことです。先に贈與を行ったり、相続稅対策で財産を圧縮したりする方法もありますが、それでも相続稅をゼロにすることはできない場合が多いので、予め必要な納稅資金の手當てをしなければなりません。これは事業承継における自社株の相続に限らず、不動産の相続においても同様です。

「『爭続』対策」でも同じことがいえます。例えば相続人がお子様3人で、長男が會社を継ぐケースを想定しましょう。被相続人となる父親は、長男に事業用財産が引き継がれるよう遺言を準備したとします。父親の財産構成のうち自社株等の事業用財産の割合が非常に高く、仮に相続財産の8割以上が事業用財産だとすると、8割以上を長男が引継ぎ、殘りの2割弱を他の兄弟2人で相続することになります。相続においては民法上相続人が最低限相続することができる遺留分というものがありますから、長男以外の兄弟が少なく相続することで、長男に遺留分減殺請求をすると、相続が「爭続」になってしまうリスクがあります。
このようなケースに備え、長男は納稅資金とは別に、遺留分に満たない他の兄弟に渡す代償財産として資金を確保しておく必要があります。こうした話を経営者の方にすると「うちの家族は仲が良いから大丈夫」というお客様が多いのですが、実際にはリスクとして存在しています。

事業承継のための資金対策

資金対策という面では、死亡保険金の相続稅の非課稅枠は活用すべきでしょう。法定相続人 ×500萬円までは死亡保険金の非課稅枠があります。仮に相続人が3人だと、1500萬円までは非課稅で死亡保険金を受け取ることができますので、納稅資金の調達方法として活用できます。また、死亡退職金についても同様の非課稅枠がありますので、會社で死亡保険に加入して、會社が受け取った保険金を元に遺族に死亡退職金を支給することで非課稅枠を別枠で活用することができます。
最近は、従業員の方が會社を承継するケースも多く見られます。従業員承継の場合でも資金対策をする必要があります。従業員承継の場合は、相続?遺贈ではなく自社株を先代経営者から生前に贈與してもらったり、買い取ったりするケースが多いかと思います。引き継ぐ従業員承継者に、贈與稅の納稅資金、あるいは自社株の買い取り資金が必要となりますので、どのような資金がいくら必要なのか予め準備しておく必要があります。また従業員承継では、會社の借入金の個人保証を親族外の後継者が引き受けなければならない場合もあり、親子間承継よりも心理的なハードルが高い場面もあります。この點、最近は経営者保証ガイドラインというものができ、金融機関も一定の條件を満たす會社については経営者保証を外してくれることがありますので、金融機関に相談してみるとよいと思います。

事業承継稅制の特例を活用する

平成30年の稅制改正で、事業承継稅制に特例が設けられました。非上場會社の贈與稅?相続稅の納稅猶予及び免除制度、いわゆる事業承継稅制は平成21年にスタートした制度ですが、これまで利用実績が少なかったため、平成30年の稅制改正で10年間の特例が設けられました。具體的には、2023年3月までに事業承継計畫を都道府県に提出した會社で、2027年12月までに贈與、相続により株式を承継した後継者については、その株式にかかる贈與稅?相続稅の納稅を猶予してもらえるという制度です。これまでも事業承継稅制はありましたが、この10年間の特例期間については納稅猶予の範囲が拡大され、適用要件を緩和するなどして使い勝手がよい制度になりました。一定の場合は猶予されていた納稅が免除されるのですが、逆に要件を満たせない場合は猶予取り消しになるリスクもあります。また、2代目、3代目……と承継が進んでいくと、承継のタイミングで納稅猶予を継続するか判斷することになりますので、長期間にわたり、會社が適用要件を満たしているかチェックする必要があります。制度が大変複雑ですので、私ども稅理士にも、納稅者に制度のメリットやリスクを明確に説明する技量が必要となります。

贈與と相続

贈與稅や相続稅は累進稅率ですので、承継する財産額が多額になる程、稅負擔が大きくなります。したがって、できるだけ贈與稅の低い金額に分割しながら贈與することで、全體の贈與稅は大きく変わってきます。例えば2000萬円の贈與を行う場合、40%~ 45%の稅率で贈與稅がかかります。2000萬円を一括で贈與すると約600萬円の贈與稅がかかります。連年贈與や定期贈與の問題は置いておいて、200萬円ずつ10年間で分割贈與する場合、1年間の稅額が9萬円なので、約90萬円で2000萬円を贈與することができます。生前贈與の対策は早めに始めるとよいというのは、財産をできるだけ分割して長い期間で贈與していくほうが、贈與稅の負擔が少なくて済むからなのです。

別の視點で考えてみます。例えば、將來、このまま相続稅対策をしなかったら、相続稅が50%の稅率でかかってしまうという方がいるとします。そうであれば、贈與稅が20%~ 30%の稅率で贈與できる財産を事前に少しずつ分割して贈與していけば、將來かかる相続稅と贈與稅の稅率の差分が將來の相続稅を節稅できます。これも早めに生前贈與による対策をするメリットといえます。これは株だけでなく現金等、他の財産の贈與でも同様です。

相続や贈與を行うにあたっては、稅金だけ安ければよいというものではありません。これからの生活スタイル、ご家族の関係に大きく影響を及ぼします。ですから、やはり現狀を知ることが大切です。多くの資産家の方は、頭の中で大體の財産を計算し、概ね相続稅はこのくらいかかるのではないかと把握されている方も多くいらっしゃいます。しかし、頭の中だけで計算されていると、本當はどうなのだろうと不安な點が多く殘ります。相続稅の試算を行い、財産の內容や相続稅額を紙に落とすことで、可視化され、問題點がクリアになり、ご家族の間での話し合いもスムーズに行うことができます。
自分に將來相続が発生したとき、どれくらいのお金がかかって、今どれくらいキャッシュがあり、將來足りるのか、足りないのかということを明らかにする。そのうえで、資産分割による効果やリスクなど、あらかじめ考えられる対策の中でシミュレーションしておき、その內容をご家族間で十分に話をし、お互い理解しておくことが重要です。

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