稅理士リレーインタビュー 第27回 白石隆志稅理士事務所 白石 隆志自分で経験したからこそ、お客様に自信を持って提案することができます。
公開日:2020/01/28
今治では賃貸住宅投資が増加の傾向
I(以下I):開業以來、愛媛県今治市で稅理士業務を行われていらっしゃいます。地域の特性などはございますか。
白石(以下S):今治エリアは比較的相続稅申請の件數が多く、今治稅務署管轄で年間150件くらいの申告があります。変動はありますが、そのうちのおよそ20~ 30件が私のお客様です。相続稅の改正で控除額が4割減ったことで皆さんの意識が変化したことが大きな理由です。
農協の顧問稅理士をしていた関係で私が月に1回開催している個別相談會に來る方も増えています。以前は1回の相談會につき2 ~ 3件でしたが、コンスタントに10件くらいいらっしゃるようになりました。高齢化は今後も進んで2040年ぐらいまで亡くなる方が増加するという予測も出ています。しばらくは相続の申告業務は増え続けると考えています。
今治はタオルと造船による産業基盤がしっかりしていますので、裕福な方が多い地域です。ですから、他のエリアに比べると、資産內容に占める現金のウエイトが大きいと思います。不動産もお持ちですが、評価自體がそれほど高くはないので、ほかの地域とは少し形態が違うかもしれません。ただし、不動産投資は増えています。消費稅増稅の駆け込み需要も多少はあったと思いますが、未活用で保有している土地を活用しようという動きが増えています。今治に大學ができると、年間200 ~ 300人の學生が住み、人口増となる予想もあります。賃貸住宅のニーズが増え、その周辺は賃貸住宅も建ってきていますし、これからもニーズはまだまだ増えていくと思います。
賃貸住宅経営を自ら実施
I:ご自身でも不動産投資をされているとお聞きしました。
S:私も小さめの賃貸住宅を1棟所有しています。賃貸住宅経営をやりたいという気持ちは昔からありました。関與先が大和ハウス工業の賃貸住宅を建てられたオーナー様で、確定申告をしながらいつも魅力を感じていました。
大和ハウス工業さんや、ほかのハウスメーカーさんにも、良い中古物件があったら教えてほしいとお願いしていたところ、今回、大和ハウス工業さんが中古ではなく新築の提案をしてくださいました。このエリアでこれくらいの価格なら問題ないと判斷し、最初の一歩を踏み出すことができました。また、融資の面でも大和ハウス工業さんが動いてくださったので、スムーズに進めることができました。
収支に関しては、最初のシミュレーションから見えていました。契約するときは勇気が要りましたが、あとはまったく問題も不安もなく、完成を待つのみでした。
I:完成された物件をご覧になっていかがでしたか。
S:完成した物件や改めてシミュレーションを見ると、大和ハウス工業さんで良かったと実感します。
特に、最初から最後まで説明が丁寧で、資料がわかりやすかったことが一番のポイントでした。そのおかげで最初の一歩を踏み出しやすかったのでしょう。まだ1年しか経っていませんが、これから先その気持ちは大きくなると思います。
また、完成した賃貸住宅を見ると、もう1棟欲しいという気持ちが高まりました。2棟目、3棟目を建てる方の気持ちも、今ではわかります。自分でプロセスを実感したことで、賃貸住宅経営をお考えのお客様に説得力を感じていただけると思います。今までは自分の経験がないので、関與先様の數字を見て説明をしていました。これからはこの経験を活かして、自信を持って提案することができます。
I:通常の相続で賃貸住宅をご提案される場合、メリットはどこにあるとご説明されていますか。
S:亡くなってからの相続の場合、ご子息に売る、活用するなど、いろいろな選択肢をご提案します。選択肢それぞれに稅務上のメリット?デメリットがあります。活用できていない良い土地もある場合は、土地を持ったまま相続稅を支払うほかに、売って身軽になる方法もあれば、賃貸住宅を建てて活用する方法もあるとお話しします。選択肢を持ってもらうことが必要なのです。
個別相談會でそのような話をすると、反応は分かれます。売りたいという方もいれば、絶対に売りたくないという方もいて、何もしないという方もいます。賃貸住宅を建てたいという方は、すでにご経験がある方です。やはりゼロから1にするのが難しく、數千萬円、1億円という借入をしますから、今まで賃貸住宅を持った経験のない方は不安なのだと思います。そういった方には相続稅のシミュレーションを提示して、どのような金額になるのかを見ていただきます。
一方、亡くなった後に取れる対策はほとんどないので、「こうしておいたらよかったのに」ということがどうしても出てきてしまいます。できれば生前に提案したいのですが、亡くなってからご相談に來られる方のほうが多いのが現狀です。そこでJAさんと組んで個別相談會を開催して、相続稅のシミュレーションを先にさせていただくなど、亡くなる前に対策してもらえるように取り組んでいます。
民法改正による相続の変化
I:民法改正による相続の変化を感じますか。
S:民法で大きな改正のポイントとなっている遺言は、地方部にはまだ浸透していません。東京、大阪、名古屋など、都市圏の資産が大きい方は遺言を作りますが、私が見る限りでは、今治は50件に1件くらいです。ただ、今までは敷居が高かった遺言書がパソコンで作成できるようになり、だいぶ楽になりました。地方でも皆さんが遺言書を作るように変わっていくのではないでしょうか。
また、亡くなった後の整理の仕方、名義変更など、稅理士ではできないことがあります。登記関係は司法書士の先生、行政書士の先生、爭いがあれば弁護士先生など、これからはいろいろな先生方と提攜しながら進めていかなければなりません。
私どもの事務所では幸い爭いになるケースはほとんどなく、弁護士さんのお世話になることもないのですが、これからは増えると考えています。全員が100%納得して相続できたケースはゼロに近く、6割から7割の満足度で遺産分割が終わるケースがほとんどなのが実情なのではないでしょうか。そうなると、今後は満足していない方がもっとほしいと言い出して長引いたり、爭いになったりして、弁護士さんにお願いする場面も増えるかもしれません。基本的に、爭いになると、稅理士は遺産分割に立ち會ったり、仲介をしてはいけません。弁護士の領域になるからです。
しかし、相続には法律の部分と感情の部分があり、感情の部分はどうしようもありません。法律が少しずつ整備されていますが、感情論になるとどうもできないのが現狀です。そこは相続のやり方や分割を工夫して、前に進んでいかなければならないと思っています。
I:家族以外の方の介入で難しい狀況になるとお聞きしたことがあります。
S:例えば、娘さんのご主人や息子さんの奧様、さらに近所の方など、昔に相続を経験したという方が入れ知恵をすることもあります。過去に相続を経験されていたりすると、ついアドバイスしたくなってしまうようです。今はインターネットなどで簡単に情報を得られるようになったため、皆さん、豊富な知識をお持ちです。昔は一般には全然知られていなかった遺留分のことを、最近はお客様から聞かれることも増えました。
一方で、親の財産を知らない方が多いのも事実です。JAで開催している相続のセミナーの內容は、どちらかというと相続を受ける方向けですが、來てくださるのは70代、80代の被相続人の方です。親の財産について知っているお子様はとても少なく、どこの銀行に口座があるかさえ知らない方がほとんどです。親の金融口座の存在を知らずにそのままにしておいたところ、約1年後に金融機関から「名義変更をしませんか」「このお金で保険に入りませんか」などと言われて初めて親の財産を知ったという方もいます。
私が経験したケースでは、6000萬円~ 7000萬円の預金をそのままにしておいて、相続稅の申告の提出も期限後になったことがありました。期限後申告をすると無申告加算稅として5%を支払わなければなりません。さらに稅務署から連絡があると、2割~ 3割が加算されます。遺言より手軽なエンディングノートでもいいので、財産について事前に書いておいてもらえれば、相続の際にスムーズに事が進められます。
I:先生のご経験から、相続で気をつけるべきポイントを教えてください。
S:相続では、お子様に生前贈與したつもりが、実は贈與できていないということが多く見られます。親御さんがお子様の通帳を作って、親が管理しているという狀態では、贈與はできていません。お子様のために入っている保険を親が払っている、という場合も同様です。ところがこうしたケースは非常に多く、稅務署が修正する場合、十中八九こうした勘違いが原因です。稅務署はここを重點的に見ますから、最終的には必ずわかります。
先日も、関與先様のところに稅務署が相続稅の調査に來ました。親御さんの通帳から100萬円が減った理由を聞かれ、何に使ったかわからないという答えでした。その後、お子様の定期預金が同じ日付で100萬円増えていることがわかりました。ご高齢の方に、通帳に移動先を書いておいてもらうのも難しいです。そういったことを生前に教えていただけると、何か対策できます。さらにいえば、少しずつ渡しておくなど、きちんと対策をしてきれいな流れでやれば問題ありません。ところが、間違ったテクニックを使って問題が起きてしまうことが多いですね。相続はこれからまだまだ増えますので、正しい知識の啓蒙が重要だと思っています。
中小企業の事業承継
I:全國的に、世代交代が増加し、事業承継のケースが増加しているようです。今治市ではいかがですか。
S:法人の事業承継のニーズは確実に高まってきています。私どものお客様に多くいらっしゃる、社長が70代で、息子さんが40代という世代の方々には、いつ世代交代するかという話は逐一するようにしています。社長が例えば認知癥になって事業承継ができなくなってしまう前に、早めに息子さんにバトンタッチするのも一つの手です。社長は會長になり、息子さんに社長を譲る會社は年々増えています。
事業承継では、事業と資産の両方を承継するため、先代社長の資産についてはシミュレーションしながら進めます。今、金融機関が貸し出しで収益を上げられないこともあり、事業承継のビジネスに乗り出してきました。ときにタッグを組むこともありますが、競合となることもあります。
いずれにせよ事業承継はこれからも増えていくでしょう。金融機関は頻繁にセミナーを開催していますが、私は関與先様の事業承継をしっかりフォローすることに留まっているのが現狀です。
関與先様も含め、一人の稅理士にすべてのことを相談できていると思っている社長さんは少ないと思います。一方で、セカンドオピニオンのように、他の稅理士に相談したいと思われたときに対応できる體制を作っておきたいですね。
I:現在、事業を承継せず、どのように畳むかを考えるケースも多いと聞きます。そのあたりの実感はございますか。
S:今治でも廃業したい方は増えています。後継者のご子息に辛い思いをさせたくないという親御さんもいらっしゃいます。今治市の場合、お子様が東京や大阪で仕事をしていて戻ってこないため、親御さんの代で終わるというケースが多く、企業數も減ってきています。その場合、ソフトランディングで、周囲に迷惑がかからないように借入を整理して、取引先にも迷惑がかからないように、ゆっくり廃業できる準備をしていきましょうとご提案します。ただ、黒字で経営していれば問題ないのですが、借入が殘ってしまうことも現実にはあります。その場合、弁護士さんと話し合って自己破産になることもあります。すべての人が良い狀況ではありませんので、すべては狀況次第です。
I:事業承継を含め、相続の相談をする場合、どのような準備から始めればよいでしょうか。
S:まずはご自分の財産を把握してください。預貯金、株、保険、不動産等をすべて並べて、財産目録を作ることからスタートします。通帳、固定資産稅の納付書等、簡単のものでよいので集めていただきます。その際、円単位まで計算する必要はなく、百萬円単位くらいで大まかに作っていくことを心掛けています。通帳がなければ、いくら殘っているかを聞いて進めます。固定資産稅の納付書だけはきっちり見ます。さらに、會社で入っている保険、退職金をいくらもらう予定なのかも忘れずに聞きながら進めなければなりません。人によって財産の狀況はさまざまですから、早めにシミュレーションすることが大事です。時間をかけすぎると興味も薄れていってしまいます。相続稅がどれくらいになるのか皆さんが興味を持っているうちに、まずは説明をして、そこからいろいろな提案をしていきます。
I:首都圏では、オリンピック後はどうなるかという話をよく聞きますが、今治では今後どうなっていくとお考えですか。
S:昨年は今治市で災害があったため、その修繕、高速道路の建設、大手の日本食研さんが工場を作っているなど、今治の建設業は順調です。タオル會社も収益を上げています。ある程度ブランディングができているので、良い意味で企業が淘汰されて、良いところだけが殘りました。造船でも、今治造船さんが頑張っています。、製造業が充実している今治市は、愛媛県の中でも良いほうだと思います。
また、今治市は、石を投げたら社長に當たるといわれているくらい、経営者が多いところです。それだけ商売人が多く、お金のことを常に考えているのです。住むのにも良い町です。最近、しまなみ海道の影響で大勢のサイクリストが來るようになりました。サイクリストには外國人も日本人も多く、駅前にはサイクリストが集まれる場所やホテルも建つ予定です。人が集まればそれだけ地域が活気づき、ビジネスも繁栄していくと思っています。