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インタビュー 019
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稅理士リレーインタビュー 第19回 「父が遺してくれた考え方、方向性を受け継いで、子どもたちにも遺していきたい」 土金稅理士事務所 土金浩之様

公開日:2019/02/28

中小企業の総務部長代理として、かかりつけ醫になりたい

インタビュアー(以下I):土金先生は生まれも育ちも川越だとお聞きしています。

土金(以下T):生まれも育ちも川越です。実家が自営業で建材屋をしていて、父はいわゆる町の中小企業のおやじでした。父親が二代目、私の兄が営業を行っており、私は大學で経理の勉強をしていたので、経理の擔當として家業の建材屋に入りました。 ところが2年くらい経って、親戚の建設會社が倒産してしまったのです。そして最終的には、うちの會社も廃業することになり、経理をやっていた私は、當時お世話になっていた稅理士事務所に勤務することになりました。それがこの業界に入るきっかけです。 結局、その事務所には約20年いました。その後獨立しましたが、在職中は稅理士資格を持っていませんでしたので、稅理士登録をしたのは平成21年です。この業界は30年になりますが、稅理士業としてはまだ10年です。それが本當のスタートでした。

私の父は、いろいろな役職をこなす、まさに中小企業のおやじでした。その尊敬する父が、何かあるごとに「稅理士さんに相談してみよう」といっていました。そんな父を見ていたので、自分が経理の仕事に入ったのだと思います。建材屋を閉めることになったとき、倒産ではなく店を閉めることの大変さを父は感じていたようです。それを私にいろいろ話してくれました。稅理士の先生が、「今閉めたら自宅は殘ります。事業をこのままもう一踏ん張りしたら、次は自宅擔保です。息子さんもいて、これからも川越に住み続けるわけですから、今辭めざるを得ないでしょう」という判斷をしてくれたそうです。父は稅理士の先生のおかげだといっていました。この業界に入ったときも、父にそういう稅理士になれといわれました。「関與が打ち切りになっても、お前がこれはだめだと思ったら、はっきりだめといえるような稅理士になりなさい」というのが父のメッセージでした。
しかし、私が稅理士になり登録するその前に父は亡くなってしまいました。それが殘念でなりません。ですから、私はほかの稅理士さんとは稅理士としての気持ちが違うと思っています。お金儲けのために稅理士をやろうとは思っていません。私にとって稅理士という仕事は、父親が遺してくれた大切なものなのです。

I:これまでお仕事をされてきた中で、稅理士としてどのようなことを心がけてこられましたか。

T:私どもの事務所は、「中小企業の総務部長代理」をモットーとしています。総合病院の外科部長ではなく、「町のかかりつけ醫」になりたいのです。かかりつけ醫に行くと、子どもの頃から知っていますし、お父さんにこういう癥狀があったからあなたも気をつけてくださいといった話をしてくれます。難しいことがあれば大病院へ紹介してくれますから不安はありません。稅理士も同じです。「何かあったら私に相談してください。お父様の代から見ていてわかっていますからアドバイスします。わからないことがあったら大手の稅理士事務所を紹介しますから何でもいってください」と。総務部長代理として中小企業に寄り添っていきたいという強い思いが自分の中にあります。中小企業で育った私は中小企業の空気がわかるということを、お客様も感じてくれるようです。私が意識したことではなく、中小企業で育った生い立ちそのものが今の稅理士業の支えになっています。これは親が遺してくれたもので、非常にありがたいですね。
たとえば、大和ハウス工業さんのお客様で賃貸住宅を持つことになった方は、賃貸住宅を建てることが次の世代にどう影響するのかが気になります。賃貸住宅を建てることによってどうやって財産が遺せるのか。相続も含めて子どもたちにどうやって遺せばいいのか。私はそれが一番大事だと思っています。
今のお客様の中で一番長い方とは30年の付き合いです。前の事務所に入ったとき最初に先輩に連れられて行ったお客様で、それ以來ずっと私が擔當しています。すでに代替わりされて、若社長からお願いされました。また、20年前に30周年パーティに擔當として出席させていただいたお客様がいるのですが、先日50周年のパーティでは乾杯の挨拶をさせていただきました。嬉しかったですね。お客様に寄り添って一緒に歩んでこられたことは、稅理士として非常に喜ばしいことです。

中小企業の事業承継は相続

I:団塊世代で承継の時期に入る方も増えてきています。川越市は伝統があり、古くからいらっしゃる方も多いと思いますが、何か特徴的なことはありますか。

T:金融機関では非常にポピュラーな経済法令研究會の銀行員検定というものがあり、財務、稅務、年金、法務などいくつかの科目があるのですが、私は稅務の講師をしています。その関係で金融機関のセミナー講師も行うことがあります。そこでもお話しするのですが、中小企業の事業承継は、一般でいわれるような事業承継とは少し違います。
町の中小企業の事業承継は相続であって、親族にどう事業承継させるかが大事です。外部承継のM&Aなどは企業売卻ですから、それを事業承継の中に入れ込んではいけないと思っています。二代目、三代目、四代目が次の代に継ぐとき、代を継いできた企業をM&Aとの天秤にするなどもってのほかです。まずは親族に継げるものがあるのか、継ぐ方法があるのかを議論するべきです。そのためは、兄弟の相続も含めて、どう相続できるのかが大事なのです。
例えば、大企業のトップが変わるのであれば、社長交代というだけで、先代の社長の相続の問題や兄弟の問題は関係ありません。しかし、町の中小企業はそうではありません。先代が持っている財産の約7割が事業財産ということも多くあります。この事業財産を誰が継いでいくのか、他の人にはどうするのか。まさに相続なのです。ですから、まずは相続ありきで事業承継をしなければなりません。會社の借金も、大企業であれば會社の借金で次の世代に引き継いでいくわけですが、中小企業の事業承継では、子どもに事業承継をするのであれば、借金を子に引き継がせるわけですから、親心としてはなるべく少なくしたいと思うでしょう。
私は自分の経験があるので、目線が少し違います。父が二代目で、先代から土地の多くを相続しました。ほかにも兄弟がいましたが、父が事業を継ぎ、財産のほとんどを継ぎました。昔はそれが事業承継の常識でした。最近は時代が違いますから、なかなかそうはいきません。昔のように、事業を継ぐ長男が7割相続し、他の兄弟は黙って判子を押すというようなことはないといっていいほどです。ひと言、ふた言は必ずあります。それにもきちんと対応したうえで、先代が決めていただけるように、サポートしなければならないと思っています。

I:最近の具體的な事例などはございますか。

T:先日、ちょうど1件終わりました。昔から相談があったところで、やはり社長がなかなかいいにくいということでした。そこで私が入って計畫を立てて、相続稅の予想を作って、全員に集まってもらいました。私からはいわずに、社長が自分の言葉で考えていることを話し、「話したことで、もし不満があるのだったら今のうちにいってほしい。解決するように稅理士とも相談しておくから」といいました。社長の息子さんは會社にいるのでよくわかっていますが、ほかの兄弟の方々は會社のことは知りませんから、「相続とはこういうものなのですか。會社があるとこういうふうに考えないといけないのでしょうか」という質問がありました。そこで、「考え方はいろいろです。正直、どこかの弁護士さんに相談したら、そんなことは権利なのだから3分の1を請求しろという方もいらっしゃると思います。法律上それも正しいです。遺言がある中で遺留分の請求をしてくる方もいらっしゃいます。それも正しいです。ただ大事なのは、お父様が先代から受け継いだ會社、もしくはお父様が作った會社を次の代に継ぐといっているわけですから、継がせるということが第一條件です。継がせるためには、申し訳ないのですが、ほかのご兄弟にはご協力してもらわないといけません。そうしないと本家はなかなか継いでいけません」というお話をさせてもらいました。

大和ハウス工業さんの個別相談でも最初にいうことなのですが、一番大事なのは、社長や賃貸住宅オーナーである父親が、生前元気なうちに、子どもたち一人ずつではなく全員を集めて、自分の意思を語っておくことです。タイミングは年に何回かあります。わざわざ呼ぶのではなく、お正月、お盆など、必然的にみんなが集まったときに、「今日はみんなが集まっているから、ちょっといっておきたいことがある」とスタートします。事前に電話で集めてしまうとハードルが高くなったり、「相続の話かな?」と構えられたりしますから。例えば不動産を持っているのであれば、「俺は不動産に関しては長男に継がせたい。ただ、おまえたちにも何もないというわけにはいかないから、長女はここの土地、次男はここの土地で我慢してくれないか。殘りの7割、この賃貸住宅とマンションは長男にやりたいんだ」ということを、父親からいってもらわないといけません。そのようにすればだいたいの兄弟は納得してくれます。それでも揉めるとなると、弁護士を呼んで裁判になってしまいます。ですから、揉めないように導くことが必要です。われわれ稅理士は、兄弟にも親戚にも見せられない財布の中を見せられる唯一の存在なのですから。

I:そのためには、信頼関係の下、財産のすべてを開示いただく必要がありますね。

T:財産の開示では、開示していいものはすべて確認を取ります。保険に入っていることを次女と三男は知らない、ということもあります。そんなときには、「これを機會にいっておいたほうがいいのではないですか。ふたを開けてみて、何だよということになってしまいますよ。こういう思いがあったからこうしていたのだけど、稅理士さんに言われて、これからはおまえたちにも掛けるから、といってください」と答えます。話に出てきたことと実際が違っていたとなると、やはりトラブルになります。開示してもらうことが大事だと思います。
ただ、お客様でもそこまでできない方もいらっしゃいます。企業の稅理士として見ていて、企業経営については一生懸命話すけれども、プライベートの財産まではすべて出したくないという方もいらっしゃるので、それはそれでいいと思っています。私は企業の稅理士なので、そこをきちんとやっていけばいいことです。しかし、企業を事業承継するということになれば、やはり相続は外すことはできません。相続をしたときのデメリットもきちんと説明しなければなりませんので、やはり時間がかかります。

私の経歴に土地活用と生命保険の知識が加わり、お客様の事業承継に繋がる

I:不動産の相続に関してのご相談も多いと思いますが、どのようなご提案をされることが多いのでしょうか。

T:実は、前の事務所では土地活用の相談はやっていませんでした。獨立したときにもそれほど意識しておらず、稅理士がお客様の不動産の売買に入り込んでアドバイスをするという発想がなかったのです。ところが大和ハウス工業さんから熱心にいろいろなご提案をされ、土地活用のアドバイスすることが必要だと教えていただきました。それから大和ハウス工業さんとは親しくさせていただいています。
相続稅ということを考えれば、建てることにはメリットもデメリットもあります。さらに、仮にメリットがあったとしても、収支で成り立たなければいけません。不動産が収支として成り立つかどうかはまた別の話であって、私どもではなかなかわかりにくいところです。そこはやはり専門家である大和ハウス工業さんに相談します。私が大和ハウス工業さんと組んだ一番の理由は、大和ハウス工業さんは建てられない土地には建てないし、薦めないということです。平気で田んぼの真ん中に建てる會社もありますが、大和ハウス工業さんは、お客様から話があっても、そこは厳しいといってくれます。お客様のところでほかの建築會社からの話を聞いて、あれ?と思うことがあります。大和ハウス工業さんに聞くと、調べてくれて、「あそこは厳しいですよ」と教えてくれます。そんなところが一番の安心感ですね。ここ5年のことだけ考えて賃貸住宅を建てたり、目先の利益だけを考えて建物のボリュームを決めてはいけません。

これは失禮かもしれませんが、建てた後、支店長も擔當者も替わってしまって、20年後には知っている人が誰もいなくなるかもしれません。しかし、私とお客様とのお付き合いは20年後も30年後も続きます。やはりそこは大事なところです。もし私が見て収支がだめだと思ったときには、大和ハウス工業さんの紹介でも、営業の方を目の前にしていても「だめだ」といいます。大和ハウス工業さんはそれでいいといってくださるのでありがたいですね。すぐに営業の方が反応してくれますし、私もやりやすいです。

I:賃貸住宅以外のご提案も増えていますか。

T:実際にやっている方はまだいらっしゃらないのですが、介護施設や保育園などの提案を受けている方もいらっしゃいます。「介護施設を建てていただければ運営はやります」とオーナー様に提案されているということでした。その話を聞いて、オーナー様には、解約條項だけはよく確認してくださいといいました。當初の契約は、5年くらいで解約できてしまうようなものでした。やってうまくいかなかったら撤退してしまうこともあると思うので、確認が必要です。そういった危なさはあるような気がします。不動産オーナー様がそれを始めたとき、ある程度継続的にやれるようなところでないと困りますよね。建物を作ってしまうとなかなか転用できませんから。ホテルの話もあります。川越はまだまだホテルが少ないですから、これからも話があるのではないでしょうか。
不動産に力を入れるようになってよかったことがあります。中小企業の社長さんの中には賃貸住宅を持っている方が多いのですが、相続をお手伝いする際、今までの私の経歴の中ではそこはグレーでした。そこをできるようになり、オーナー様個人の相続も含めて話を進めることができるようになりました。
もうひとつ、私は保険もやっていなかったのですが、大同生命とTKCの先輩方から教えていただきやるようになりました。土地活用のことがわかり、生命保険のこともある程度わかるようになり、そこに中小企業をずっと見てきた私の経歴が合わさったおかげで、それらが本當にうまくマッチして、今のお客様の事業承継のお手伝いに繋がっているのだと思います。金融機関のセミナーで評判がいいのもその部分です。「ほかの先生だと事業承継の話は形だけになってしまうけど、土金先生は経験に基づいたリアルな話をしてくれる」と、特に信用金庫系の方に喜んでいただいています。

I:これからも川越に根ざしてやっていかれるのでしょうね。

T:地元でやっていこうと思っています。その覚悟で事務所も新しくしました。ある方に、半分冗談で、その歳でそこまでやることなかったのではないかといわれたことがあります。おっしゃるとおりです。しかし、苦労をしてでもこの土地?建物を買ったのは、次の世代へ託すものがあるからです。私には息子たちがいます。先代が多少苦労しながらも次の代へコツコツと遺していく。それが事業をやっていくうえで大事なのだと、父が教えてくれました。店を閉めてしまったので財産は受け継げませんでしたが、父が遺してくれた考え方、方向性はしっかり受け継いで、子どもたちにも遺していきたいと思っています。將來、子どもたちが「父が殘してくれた土地があったから、次の代どうにかなったよ」といってくれたらそれでいいのです。私の根本にはその想いがあるので、お客様に対してもそのようなアドバイスをします。稅理士とはそういうものではないかと思っているのです。皆さんが納得して付いてきてくださり、こうして10年、20年、30年のお客様がたくさんいることは非常にありがたいですね。
私の稅理士業に対する想いというものは、少し異質なのかもしれませんが、自分でもわかっているので、それを自分の売りにしています。周りの稅理士に負けたくないのは、知識、経験、裏付けです。私は古い人間なので、その裏付けに必要なものは効率ではなく量だと思っています。私は埼玉県で一番の稅理士になりたいわけではありません。「埼玉西部地區には土金という良い稅理士がいるよ。うちはあの先生に20年頼んでいるけど、良い先生だよ」と、自分のことを知っているお客様に言ってもらいたいだけなのです。そしてそうなるための努力を惜しむつもりはありません。お客様は自分の家族、従業員を背負って命をかけてやっていて、われわれはそこにアドバイスさせてもらっているわけです。私らは努力を絶やしてはいけません。努力は欠かさず、量では負けない。仕事は量です。私が現役でいる間は、誰よりも仕事をしたいと思っています。お客様にもそんな姿を見せたいですし、そういう稅理士でありたい。父親から引き継いだ中小企業の町で育ち、その血を脈々と引き継ぎ、その教えを一つひとつ実踐していることに対して、お客様からも評価していただいているのだと思います。

I:お客様との確固たる信頼関係を築かれていることがよくわかります。そこにこそ、町のかかりつけ醫であり「中小企業の総務部長代理」としての稅理士の存在価値があると思いました。ありがとうございました。

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