稅理士リレーインタビュー 第12回 「稅理士というのは、皆さんにとってとてもいい相談のチャネルだと思います。」 稅理士?公認會計士 松﨑堅太朗事務所 所長 松﨑堅太様
公開日:2018/01/31
インタビュアー(以下I):長野県駒ヶ根市は「住みよさランキング」でも常に上位に入る地方都市ですが、松﨑先生はずっと駒ヶ根を拠點にされているのですか。
松﨑(以下M):はい。駒ヶ根市の出身で、大學時代と監査法人に勤務していた足かけ8年ほどは東京にいましたが、その後ずっと駒ヶ根を拠點にしています。
駒ヶ根は確かに良いところではあるのですが、きわめて田舎です(笑)。人口約3萬人で、最寄り駅のJR駒ヶ根駅も無人駅になってしまいました。事務所としても資産稅等特定のジャンルに特化することは難しく、基本的に地元でニーズがあることは何でもやっていこうという経営スタイルです。
ロードサイドを一括開発で不動産を有効活用
I:地元企業の経営者の方から不動産や資産についてのご相談はありますか。
M:土地については、資産価値があるというよりは、どちらかというと、皆さん、持て余しているようなところがあるように思います。したがって、相続稅対策が必要になるようなニーズはあまり多くはありません。
相続稅対策として賃貸住宅を建てる方はいますが、採算的に厳しい地域ですから、稅務対策以前に賃貸住宅経営そのものが成り立つのが難しい、というケースもあるように思います。
I:そうした厳しい狀況の中で印象的な成功事例はありますか。
M:大和ハウス工業さんと3年くらいかけてまとめた事例があります。中小企業庁が進めている、認定支援機関による経営改善計畫策定支援事業という施策があるのですが、その事業の過程で、事業再構築の一環として、使用していない工場と土地について売卻をする計畫が持ち上がりました。
地元の不動産會社や建設會社からも、いくつかご提案をいただきましたが、その土地が広大で、いずれもオーナー企業様の売卻方針に合わず、大和ハウス工業さんに相談したところ、良いご提案をいただけました。
結果的には、ロードサイド側は商業施設にし、奧側は分譲住宅として売り出すことになり、「部分的に売ってしまうと資産価値が下がるので一括で売卻してほしい」というオーナー様の最大の要望がかなったかたちです。
建築も大和ハウス工業さんが請け負ってくださることになり、現在、工場の解體を進めているところです。
I:ロードサイドの大きな土地でも難航したわけですね。そこには地方ならではのハードルがあったのでしょうか。
M:オーナー企業様からの「売卻はすべて一括で」というご要望を受けて、他社さんからは全部を分譲住宅に、もしくは全部を商業施設に、というご提案があったのですが、これが価格だけでなく、その他の點も含めてオーナー企業様のご要望に合いませんでした。大和ハウス工業さんからは土地を分けて開発するというご提案をいただき、これがオーナー企業様のご要望とピタリと合致しました。
また、法人が所有する広大な土地ですから、田舎とはいえ億単位のお金が動くため、金融機関との関係も重要です。この物件を地元企業が買うにしても、大きな資本力はありませんから、いったんは買う方も金融機関から融資を受ける必要があるわけです。
大和ハウス工業さんであれば、融資を受けられるかという心配までは必要ありません。
I:オーナー様にも、地元の皆様にも喜んでいただけた提案になったわけですね。
M:商業施設には地元企業のほか、有名な飲食チェーン店が入る予定とのことです。こうしたテナントの入居が前提で大和ハウス工業さんからご提示があったので、オーナー企業様もびっくりしていらっしゃいました。
商業施設の裏には真新しい分譲住宅もできますし、今まで有効活用が進まなかった場所が生まれ変わるので、地元の方々にもきっと喜ばれると思います。
やはり田舎の土地ですから、企畫段階というか、「どう活用するか」というところでは、地元の企業だけでは、有名なチェーン店をテナントに誘致することはできなかったと思います。大和ハウス工業さんには、誘致にも関わっていただけて本當に助かりました。
増加する事業承継
I:企業経営者の高齢化に伴い、事業承継のご相談も増えているのでしょうか。
M:會社の承継は本當に大きな問題です。相続稅ということでいえば、この辺りはあまり地価が高くないので、かなり大きな土地を保有されているオーナー様、あるいは相當裕福な方でもない限り、さほど大きな話にはなりません。むしろ、不動産に関しては相続稅で困るというよりは「この土地を親からもらったけどどうしよう」というご相談のほうが割合としては多いと思います。
しかし、法人の事業承継にはきわめて大きな問題があります。地域で中核的な役割を果たしてきた中小企業でも、単純に「後継者がいない」のです。いろいろな國の施策もあるのですが、誰が継ぐかというところをまず経営者に決めてもらわないことには、周りも手出しができません。今までは次世代の親族が継ぐのが一般的でしたが、誰も継ぎたがらないというケースも多く、それでは継いでくれる第三者を探しましょう、ということになっても、実際にはなかなか決まりません。ずっと黒字でやってきたような、従業員50~100人規模の企業であっても苦労されている中小企業は非常に多いですね。
I:さらに小規模の法人の場合も同様でしょうか。
M:とても苦慮されています。たとえば、不動産をお持ちの小売店等では、古くなったビルの建て替えをしたくても、オーナー様が高齢のために融資が組めないケースも多いですし、若い二代目のオーナー様であっても、商売そのものが厳しい中、受け継いだビルのオーナーとしてこれからの生計を立てていかなくてはならないわけです。
たまたまお目にかかった30代のビルオーナー様に「大和ハウス工業さんにはこうした建て替えの事例がありますよ」というお話をしたところ、「こんな話は誰からも聞いたことがありません。稅理士さんってこういう相談にも乗ってくれるんですか、こういう話が聞きたかったんです」とおっしゃっていました。
相談したくても、どこに相談したらいいのかわからずにいるオーナー様も多いのではないかと思います。
I:事業承継のご相談の中で最近よく見られる特徴はありますか。
M:仮に事業承継を親族內で行えたとしても、考え方はそれぞれです。所有している工場や土地をどうするか、考え方が変われば活用の仕方も変わってきますし、第三者が継ぐとなれば、さらにドラスティックに変わります。
あるいは、M&A等で、製造業同士で合併して事業を続けようという場合、工場等の不動産が重複することになりますから、それをどうしていくかといった話が當然出てきますし、そこをうまく著地させるのはなかなか困難です。こういうケースはこれからますます増えてくるでしょう。
街の再生?活性化への取り組み
I:地元で稅理士と公認會計士を務めていらっしゃると、街の再生や活性化といったテーマにも取り組まれることが多いのではないでしょうか。
M:それは非常に重いテーマです。かつての商業地が、まったく手付かずのまま「シャッター通り」になってしまっているところも少なくありません。
そういう場所については、個人的には、大手と組んで土地活用を進めていく必要があると思いますが、地方の人たちは、どうしても地場の企業、地場の人たちとやりたいという思いが強く、そこがネックになることもあります。
私も地元だけですべてまかなえるのが理想だと思いますが、現実には資金力や企畫力の問題もあり、特に街全體の再生のため、開発をしようと考えても、実際には難しいように思います。
I:街の再生や活性化のポイントはどのあたりにあるとお考えですか。
M:ちょっと視點を変えてみるべきでしょうね。たとえば、私どもの地域は、住みやすさや自然という點ではすごく評価をいただいていますから、そこを上手にアピールする必要があります。
つまり、外から人を呼び込むためには、「都會から來た方にも満足いただけるような土地活用のやり方」を考えていくべきで、その點においても大和ハウス工業さんと一緒にやっていく意味は大きいと思います。
I:これまでに経験したことのないような問題が出てくるわけですから、従來の考え方ではなく、柔軟な発想で対応を考えていかなければ、成果につながりにくくなっているのでしょうか。さまざまなパートナーシップが必要となりそうです。
M:おっしゃるとおり、大切なのは「誰が絵を描くか」であり、たとえば、街の再生プロジェクト等でも、建設會社も含めたトータルプランでやっていく必要があると思います。
「収益物件になる」という前提がないと、やはりどこもお金を出してくれませんし、土地活用においては「成果につなげる」という視點が非常に重要です。
大和ハウス工業さんのように、何もない地方の更地に有名なアパレル企業や飲食店チェーンを誘致して、そこを起點に新たな街づくりを行い、それと同時に地域に仕事をつくる。こういう提案ができないと、現実として地方創生は、なかなかかけ聲だけでは進まないと思います。
I:長野県は農業が盛んな地域ですから、ぜひとも農地を有効活用したいものですね。
M:最近では農業法人化を進めている農家も増えています。私どものお客様にもそういう方がいらして、設立総會に伺ったところ、皆さん、ご高齢の方ばかりでした。設立総會なのに、「5年経ったら誰が殘っているのだろう」という話も出るくらいで、皆さんできれば農地を手放したいのですが、どこも買い手がつかないわけです。市街地農地であればまだ何とかなりますが、純農地だと本當に打つ手がありません。そういったところをどうしていくかというのは今後の大きな課題だと思っています。
そうした狀況でも、農地を潰さず、その上に太陽光パネルを載せて発電し売電するなどによって収入を得るという方法を試されている方もいます。今はまだ試行錯誤ですが、今後はこういった新しい農地の活用法がいろいろ出てくるのではないでしょうか。
I:地域の活性化につながることに対しては、行政や金融機関からのサポートも期待できるのではないでしょうか。
M:施策や一時的な補助金では、現実、かなり難しいと思います。大切なのは、「地元に稼げる場所をどれだけつくってあげられるか」ということです。それがないと長続きはしないと思います。
最近はコンパクトシティ化で、街の中心部に人を集めるような動きも出ていますが、かつて人がたくさん住んでいた地域には建物が多く、実際はかなり狹くてゴミゴミしています。そういった物件をわざわざ取り壊して新たに住むよりも、郊外の土地のほうが広くて安いわけですから、コンパクトシティ化についてはどこも苦労しているのではないでしょうか。
I:行政主導で中心部に新しい施設を建てるなど、求心力を高めるような取り組みはないのでしょうか。
M:もちろん、やっています。そこだけはきれいになるのですが、なかなか周りに波及していきません。行政もお金がないうえに、住民から「街中だけをなぜ優遇するのか」という不満が出たりして、そう簡単に事が進まないわけです。
中心部の風景はポツポツとは変わっていますが、全體としては昭和の建物がいまだ取り壊せずに殘っていて、私からすると30年前とあまり変わらない印象です。しかし、外から來た方は、その昭和レトロな雰囲気が魅力らしく、ひと回りして「古いことが逆にいい」という価値観やニーズがあることもわかってきました。
隣接する市町村では「昭和レトロ」をアピールする路線に切り替えたところ、ときどき映畫のロケに使われたりもしているようです。
I:食べ物、自然、文化など、長野県にはまだまだ多くの資源があるような気がします。今後の地域活性化に向けて、松﨑先生のお考えがあれば、ぜひお聞かせください。
M:田舎なので自助努力だけでは難しいため、大手と組んで開発を進めていくという発想の転換が必要だと思います。田舎ゆえのしがらみを後ろ向きに捉え、自分たちだけで何とかしようというのではなく、「大手のよいところも取り入れながらやっていこう」という発想に変えていかないと、外から人は來てくれません。
稅理士は、地域の方々にとって、いい相談のチャネル
I:松﨑先生はさまざまなご相談を受けるお立場ですが、一つひとつのご相談に対してどのようなことを大切にしていらっしゃいますか。
M:皆さん、會社で赤字だったり資金繰りが苦しかったり、もしくは先ほどの事業承継だったり、「それをどうするか」といったところがご相談の入口になりますが、それに対する明確な答えというのは、実はなかなかありません。
だからこそ、伴走型といいますか、経営者の方にずっと寄り添っていけるかたちづくりが一番大事だと思います。お客様を後悔させないように多様な選択肢を提示していきたいと思いますし、それらを一緒に比較検討することで、お客様に納得いただける結果につなげていけるのではないかと考えています。
何もかもが右肩上がりのまま、ということはあり得ません。ですから、「お客様にとって何が一番いいのか」ということを大切にしながら、いろいろな課題を良いときも悪いときも一緒に考えていく中で、本當に信頼し相談していただける関係をつくることが大事だと思います。
I:最後に、さまざまな課題をお持ちの土地オーナー様に、松﨑先生からアドバイスをお願いします。
M:中小企業庁の調査で、中小企業の経営者の相談先として、圧倒的に多いのが稅理士だと明らかになりました。稅理士はいろいろな相談を受ける窓口であり、土地の活用や稅金のことでお悩みの皆さんにとっては、一番気軽に相談できるところだと思います。
何かお悩みがある方は、とりあえず何でも稅理士に聞いてみたらいかがでしょうか。何でも気軽にご相談いただけるという意味で、稅理士というのは最適なポジションだと思っていますし、地域の方々にとって、とてもいい相談のチャネルだと思います。お気軽にどんどん活用していただけたらと思います。