稅理士リレーインタビュー 第九回 「資産を減らしたくない、十分なものを殘したいと望むのであれば、新たな投資が不可欠です」 稅理士法人 YFPクレア代表 柳田幸紀様
公開日:2017/10/17
インタビュアー(以下I):YFPクレア様は東京の四谷と埼玉の浦和に事務所をお持ちですが、土地柄によってお客様の傾向も異なるものなのでしょうか。
柳田(以下Y):元々は「クレア池袋會計」として獨立開業したのがスタートです。しばらくして獨立前に勤めていた浦和の事務所の先生が急に亡くなられて、そこには先輩や同僚がたくさんいることから、「稅理士法人YFPクレア」として、池袋と浦和の2カ所で新たなスタートを切ることになりました。その後、池袋の事務所を四谷に移し、今に至ります。
四谷には40人弱、浦和には15人ほどのスタッフがいますが、お客様の傾向はかなり違います。浦和のほうは農家出身の土地オーナー様が不動産賃貸業をされているケースが多いですね。
四谷のほうは広い土地を持っている方はあまりいらっしゃらず、お醫者さんや元から土地をお持ちのいわゆる富裕層のお客様が中心です。不動産投資をされている方も多いですね。土地オーナー様だけでなくサラリーマンの方もいらっしゃいますし、さらに海外投資をされている方など、東京らしい特徴があるように思います。
I:Webサイトを拝見すると、メニューや料金體系がとてもわかりやすく掲出されていて、初めてのお客様にとっては大きな安心材料だと感じました。
Y:業種を問わず、あらゆるニーズに対応しようという考えでやっています。その中でも財産形成、いわゆる不動産相続がらみの資産稅関連が全體の取り扱いの半分弱にあたります。
以前は不動産所有會社とは別に管理會社もお持ちになる法人のお客様が多かったのですが、最近は不動産所有會社だけ、というケースがほとんどです。土地は個人所有のままで、建物を法人所有にされるお客様が多いですね。そういう意味では、純粋に法人だけというケースはにあたっては、3分の1もないと思います。それ以外のお客様は、法人と個人の両方で資産稅の申告をされています。夫、妻、そして會社、この3パターンで対応されていることが多いのではないでしょうか。
I:「遺産に係る基礎控除額」が5,000萬円から3,000萬円に引き下げられたことで、相続の対象者もかなり増えていますが、どのような影響がありますか。
Y:相続の申告は確かに増えていると思います。うちの資産稅課に聞いたら、去年は13年ぶりに忙しい年だったそうです。どなたかが亡くなった場合、國全體で5~6%、東京で10%、四谷周辺では20%近くの方が相続稅の申告対象になるといわれています。
今年も新規案件を含めてかなり依頼が來ていますが、既存のお客様については、その方が亡くなって初めて相続が発生するわけですから、私どもとしては喜べません。
新規の場合、「資産を増やしたい」というお客様がほとんどです。土地をお持ちの方であれば、相続に際して「土地を減らしたくない」ということになりますが、普通にやったらそれは無理な話なので、資産を減らさないために、新たに土地を購入したり、建物を建てたりして、土地の有効活用を行います。そうすると収益が生まれますから、余剰資金でまた他の不動産を買って、さらに資産を増やしていくわけです。
3年くらい前まではこのパターンが多かったのですが、ここ數年、不動産相場がかなり上がっているため、最近は少し下火になってきています。建築費も高くなっていますので、少なくとも東京に関しては、今は買ったり建てたりするのは控えようと考える方が多いようです。
I:こういう時期の資産形成や相続のご相談に対しては、どのようなプランをご提案されるのですか。
Y:新たに買わない場合は、土地をいかに有効利用するかを考えるしかありません。現狀の資産をキャッシュベースでどうやって活かすのかが一番のテーマになります。
ただ、買えないといっても、特殊な土地、たとえば隣接地が買えるとなれば、道路付けなどの問題で建物が建てやすくなり、持っている土地の価値が1.5倍くらいに上がることもあります。こういうケースなら、今買うのもいいと思います。
また、いくら節稅対策しても、やはり増やさない限りは減ってしまいます。おじいちゃんが80歳で10億円の資産を持っていても、お孫さんに渡るのはせいぜい1人につき1億円くらいのものでしょう。お子さんの數が多ければ多いほど、資産家一族という立ち位置の維持が難しくなりますので、「資産家」として継続していきたいのであれば、ご自身が生きている間に最低でも倍にしておく必要があると思います。
相続が生じるまでの期間を20~30年と仮定して、その間に資産価値を倍にするには、今ある土地を最大限に収益化しなければなりません。
賃貸物件や商業用など用途はさまざまですが、土地が空いていれば買い換えや組み換えを行うなど、新たな投資は不可欠です。資産を減らしたくない、十分なものを殘したいと望むのであれば、タイミングを見極めつつ、とにかく攻め続けるしかないのです。
I:都市農地が話題になっていますが、生産緑地の問題について、柳田先生はどのようにお考えですか。
Y:生産緑地を解除するかどうかということは、相続において大きなテーマだと思います。農家の土地オーナー様の場合、大きな母屋があって、農地があって、部分的に賃貸物件を建てて、今に至るというケースが多く、まずは農家を継ぐ人がいるかどうか、農地を継続するかどうかが大きな問題となります。さらに自宅周りの空いた土地をどうやって収益化するのかも考えなければなりません。
たとえば、浦和に広大な土地を所有されているケースですと、それが宅地並みの場所ならば、農家を承継することで何とか土地をそのまま継げますが、そうでない土地を使える土地にしようとすると、その時點で驚くほど稅金がかかってしまいます。
I:土地のある場所によっても事情が異なるわけですね。少しでもリスクを小さく抑えるにはどのような手立てが考えられますか。
Y:理想的には、今の母屋がある場所に収益物件を建てるのがベストです。敷地の中心部さえ更地にできれば、かなりいい建物を建てられますから、その後の収益もまったく変わってきます。ただ、そのような提案をすると、おじいちゃんたちはあまりいい顔をされません。息子さんやお孫さんのほうに「駅近のマンションなどに移られてはいかがですか?」と地道な提案を続けていきます。
やはり、手元に現金がないと、相続の際に結局は土地を切り売りするしかなくなってしまいます。それでも相続はできるのですが、私どもの仕事においては「土地を売らずに相続ができた」というのが1つの成果であり、「いい相続だったな」と思えるかどうかもそこにかかる比重が大きいように思います。
I:今、農地をお持ちの方々がちょうど世代交代の時期に差しかかっていて、農家を継ぐ方はかなり少なくなっています。
Y:浦和の場合は形式だけの農家が多く、農地を継いだとしてもご自身は農業に一切ノータッチということがほとんどです。生産緑地は貸してしまえば、プラスにはなりませんがマイナスにもなりません。しかし、それを収益物件にすればキャッシュが入ってプラスとなり、新たな選択肢も生まれてくるわけです。
つまり、使えない土地をただ持っているよりも、一部を売卻したり、そこに収益化できる施設を建てたりすれば、一族が豊かになるのではないか、という「次のところ」を考えているのは、いわゆる団塊の世代以降の方々に多い印象です。
その上の世代は「いかに土地面積を減らさず門をしっかりと守るか」ということを大事にされている方々ですから、その意味ではちょうど今、この二者間における承継が鍵になってくるのではないでしょうか。
I:最近、失敗例の報道も散見される賃貸住宅経営ですが、土地の有効活用という意味で、まだまだ有効な手段だといえるのでしょうか。
Y:私は有効だと思います。ただ、賃貸住宅がいいのか、一戸建てがいいのか、商業施設がいいのかは、ケースによって違ってきます。失敗例があるのも今に始まったことではなく、皆さん、その都度成功したり失敗したりしているわけですから。
ただし、土地オーナー様が土地活用をされるにあたっては、「プロの不動産賃貸業」になっていただく必要があります。プロとして賃貸業にしっかりと向き合い、収益を上げるためのシミュレーションをご自身で考えること。それが最初の重要なステップになるかと思います。
本當のプロの投資家は、基本的に土地から購入して、ゼロベースでスタートします。4~5年前ですが、あるお客様はゼロベースで始めて、3年で8億円くらいの物件を手掛けるまでになりました。
そういったケースと比べると、土地オーナー様の場合はすでに土地自體をお持ちですから、土地の場所によって多少の差はありますが、とにかくリスクは少ないですし、結果を出せるはずだと思います。
また、次のステップも重要です。通常は借り入れをして建物を建てて収益を上げますから、その流れをしっかりと見ること。すなわち、投資と回収に対する意識を持つことが大切です。
「物件を貸す」「何に使えば賃料が発生するか」という點から見ると、醫療施設は20年くらい安定して借りてもらえることが多く、滯納も家賃の交渉もほとんどないので、メリットの大きい用途だと思います。
普通なら商業用途には向かない場所でも、クリニックなら地域の診療圏と重なっていない限り、あまり関係ありません。不便な立地でも、數件のクリニックが集まったメディカルビルのような形で誘致できれば、かなり有望だと思います。
また、間に立つ業者も含めて、組む相手をしっかり見極めることが重要になってきます。私どもからもアドバイスはさせていただきますが、そういう意味でも、ご自身の力でプロの不動産投資業者として成長していただく必要があるということです。
I:土地オーナー様、稅理士様にとってパートナー選びは重要です。柳田先生からご覧になって、大和ハウス工業はどのような特徴を持っていますか。
Y:大和ハウス工業さんは、特に商業施設に強いという印象があります。少し前になりますが、東浦和の宅地造成の際には、スーパーやチェーン店、アパレルショップやコンビニなど、ロード沿いにけっこう大きな店舗が建ちましたが、大和ハウス工業さんのお仕事が多かったような気がします。やはり大規模な商業施設については本當に強いですし、長期に渡る大きな案件ですから、大手の大和ハウス工業さんと組めたことで、地主さんや地元の建設業者さんも本當に安心できたと思います。
I:コンパクトシティ化で人口分布や都市機能がどんどん中心部に移ってきていますから、都市周辺部や地方はなかなか厳しい時代になりつつありますね。
Y:地方は厳しいところが増えています。私自身、前橋で生まれ育って稅理士になりましたが、埼玉で就職→足立區の事務所に転職→池袋で開業→四谷に移転というふうに、どんどん収益性が高いところに移ってきました。
しかし、東京の人が地方の土地を買う例は多いです。北海道、沖縄が定番で、金沢も新幹線が通った影響で2年くらい前から地価が上がりました。かなり田舎のほうでもインターに近い道路沿いであれば、ガソリンスタンドに貸したりできますし、そういう目利きさえあれば、地方の土地を買うという手もありだと思います。
また、貸別荘やシェアハウス、民泊などにも使えるレジデンス風の一軒屋など、一般的な賃貸物件から「ちょっとずらす」ということを投資家の方たちはやっていますね。そうした建物はなかなか都心部では買えませんから、あえて地方で展開するわけです。そういうふうに何かしら変化をつけ、個性を出すことで、賃料を生みやすい形にするというのは、一つの考え方だと思います。
ただし、これらは厳密にいえば不動産賃貸業ではなく、備品を揃えたり清掃したりという、別の事業要素が入ってきます。従來は、建てておけばあとは管理會社に任せてノータッチでいられましたが、それでは収益を上げにくくなってきているのが現狀です。プロの賃貸住宅経営者としては、こうした要素に攜わることも考えに入れて収益化を目指す必要があるのかもしれません。
I:相続問題や資産形成について初めて相談されるお客様には、どのような共通の課題や傾向がありますか。
Y:今まで稅理士さんがついていない方の場合、プロから見て「もったいない感じ」になっているケースが大きく二つあります。一つは、稅金を無駄に払っているパターンです。経費などで落とせるものもそうですが、法人でなく個人でずっと確定申告をやっていると、相続稅も大変なことになります。いろいろな対策があるのに、まったく手付かずなので本當にもったいないですね。
もう一つは、所有されている土地についてそもそも真剣に考えたことがなく、「前からそこにあるから今もある」的な、古くからの地主さんに多いパターンです。特に所得稅や相続稅については、土地の活用をしないことでかなり大きな損をされているように思います。お金に困っていないので多額の所得稅も払えてしまうのでしょうが、あまりにもったいないですし、相続が生じた際には大変なことになります。
I:ご自身の財産をきちんと整理した狀態で相談に伺う必要がありそうですね。
Y:うちでは、最初に來ていただいた段階で、必ず「財産診斷」というものを行います。所得稅、法人稅、相続稅のシミュレーションによって財産診斷を行ったうえで、最も資産の手殘りがいい方法を探っていくわけです。
土地活用に関しては、大和ハウス工業さんなど提攜パートナーの皆さんにいろいろなプランを出していただき、お客様にご提案します。このプランの選択によってその先のシミュレーションも変わっていきます。
お客様のお話を伺いながら、どんな「もったいない狀態」なのかをきちんと洗い出し、できる限りのサポートをさせていただきますので、どうか安心してご相談にいらしてください。