稅理士リレーインタビュー 第七回 「『皆が幸せになるソリューション』を提案するのが稅理士の仕事」 稅理士法人トータルマネジメントブレーン 代表社員稅理士 坪多晶子様
公開日:2017/08/25
インタビュアー(以下I):坪多先生のところは、資産稅と事業承継に特化されていて、弁護士や行政書士など多彩なスタッフを揃えたトータルなサービスを提供されています。設立當初からそのようなお考えで始められたのでしょうか。
坪多晶子(以下T):當初は普通の會計事務所をするつもりでスタートしました。しかし、當時の若い女性稅理士の元にお客様はまったく訪れず、閑古鳥が鳴き、貯蓄が底を突きました。何か人を惹きつける仕事をしなくてはと考えた末、個人資産稅特化型の事務所になろうと思い至ったのです。ちょうど開業した平成3年に生産緑地法の改正があり、何とかスタートダッシュすることができました。その後、平成8年に定期借地権、平成15年度に相続時精算課稅制度、平成18年に會社法の施行などがあって、過去の経験よりもこれからの意欲と勉強が重要視される時流になりました。そこで徐々に稅制改正や法律改正に的を絞り、誰もが初めて経験する分野でオンリーワンになりたいと頑張ってまいりました。
I:會社の事業承継では、どのようなサポートが中心になりますか。
T:法律や稅法との兼ね合いを図りながら、ご本人の思い、ご家族の思い、會社の発展をどうしたら具體的な形にしていけるのか、そこをお手伝いすることになります。
たとえば、創業者の息子さん2人が協力し合って會社を運営してきたとします。しかし、次の三代目ともなると、兄弟どちらの一族が事業を継承するのか、それとも會社を2つに分けるのか、片方が株を買い取るのか、創業家はどうするのかなど、いろいろな悩みが出てきますので、その解決法を皆さんと一緒に考えていくわけです。反対に、特定の相続人に株が集中すると相続稅が高くなりますから、どのように納稅するのか、退職金を活用するのか、自己株を買い取るのか、種類株にして第三者や従業員に持ってもらうのか、などといったことを考えていく必要があります。
I:事業承継と個人資産の相続で、特に異なるのはどのような部分ですか。
T:やはり、事業承継は非常に複雑です。個人で財産をお持ちの場合、いざとなったら全部売ってしまって分配すれば終わりですが、事業承継の場合は、まず「會社を承継するか、しないか」という問題があります。
本當に會社を売ってしまうのか、続けるのか、続けるとしたら誰が続けるのか、従業員はどうするのか。皆さん、「こうしたい」という思いはあるのですが、それを実現するための方法がわからないので、その都度「どうしますか?」と確認しながら、一つひとつ手づくりで対策を考えていくことになります。
I:いっそ會社を売ってしまえば楽ではありますが、そんな単純なものではないわけですね。
T:確かにM&Aで會社を売ってしまうのも選択肢の一つです。この場合は換金するわけですから、その先は個人の資産相続と変わりません。
日本では、親の土地や賃貸住宅、借金を子どもが引き継ぐということを普通に行います。アメリカであれば、遺言がなければその不動産を売って借金を返し、殘ったお金があれば遺族に行くという方式が主流です。もし遺産の中に欲しいものがあれば、遺族が自分で借金をして相続財産法人から買い入れることになります。
I:遺言がない場合、欲しい遺産があれば買い取り、それらを含めた殘金を分ける。アメリカ方式はシンプルですね。
T:「家を引き継ぐ」という感覚は日本獨自のものでしょう。だから、誰が家を引き継ぐのか、誰が借金を引き継ぐのか、という問題になるわけで、そこはアメリカとは全く違いますよね。
ただ、日本人の感覚も昔とはかなり変わってきているので、今の20代、30代の方が相続人となるころには、どうなるでしょうか。個人資産でもそういう危懼があるくらいですから、事業承継の場合はなおさらです。
相続稅のご相談などの折に、「今がチャンスなので、こういうやり方で、思い切って事業を後継者の方に譲ってしまいましょう」などとお話ししますと、「でも、事業を譲るの、大丈夫かな……」と不安を口にされるケースが多く、次の世代にどうやって思いを込めた事業を引き継いだらいいのか、皆さんとても悩んでいらっしゃいます。
I:不動産の観點から考えれば、日本の狹い國土を生かすような土地の活用法を、國としても考えていく必要があるでしょうね。
T:私たちの立場でもそれは同じです。土地活用を単なる相続稅対策としてだけでなく、その土地の本質を生かす方法を考えていかねばなりません。
日本では、昔は稲作に適した水のある広い平野の価値が高く、感覚的に「土地=広さ」と捉えられてきた側面があるのですが、今は広さよりも立地が重要になり、便利な駅前の土地などが高く評価されるようになってきています。
こうした狀況や將來予測なども含めて、それぞれの土地の特性に合わせた有効活用の提案ができるかどうか、そこが一番大事になってくるのではないかと思います。
I:土地オーナー様の多くは、先祖から受け継がれてきた土地に対する思いもひとしおですから、土地を生かした活用法のご提案は本當に大切なことですね。
T:有効活用を通じてお客様の夢を実現するのが私たちの役割です。ただし、その夢は実現可能な夢でなければなりません。土地の特性や環境を踏まえて、どんな人にどんなふうに使ってもらうのか、そこのコンセプトが非常に重要になります。
日本では同じような物件が多くなりがちで、その中での競爭になると、どうしても新しいものが有利になります。そう考えたら、獨自のコンセプトを持つ建物が結局は強い、ということがいえるのではないでしょうか。
同様に、土地オーナー様は土地を殘したいとお考えですから、相続人が「この不動産を引き継ぎたい」と思うようなものを殘すことが大事になるかと思います。
I:おっしゃるとおりですね。その結果、確実に価値が上がるような物件になっていれば、お子さんも喜んで相続されるでしょうし。
T:ただし、「世の中に必要なもの」を建てないと価値は生まれません。仮に借金の積み殘しがある物件でも、「あの建物、かっこいいですね。
一度住んでみたいのです」とか、「あそこのビルの1室を借りて創業するのが夢なんですよ」などと言われるようなものであれば、価値は上がっていくはずです。地方にも人を呼び戻すくらいのパワーがある建物が増えれば、地方活性化につながるのではないでしょうか。
I:そのためには、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。
T:世の中の流れや將來を見據えるうえで、ご自身で現況分析や市場情報などを勉強される必要はあると思います。
病院や介護施設、醫療と住居が一體化したサービス付き高齢者住宅など、その土地の特性に合わせて、人が喜ぶもの、人から必要とされるものを開発していく姿勢が、ハウスメーカーや不動産會社、そして土地オーナー様にも求められているように思います。大和ハウス工業さんも、店舗、醫療などの高度な分野で先端を走っておられ、まさに時代のニーズに応じられていますね。
たとえば、少子化の折、子どもはいなくてもペットがいるという家庭が増えれば、ペット共生型の住居に対するニーズが出てくるでしょう。そうなれば、動物のための環境が重視されますから、立地が駅前である必要はありません。こんなふうに、世の中の流れに応じて、いろいろな活用法が考えられると思います。
I:興味深いですね。坪多先生のほうから、そのようなご提案をされることも多いのですか。
T:土地の有効活用を通じて夢の実現をお手伝いさせていただくといっても、土地にはどうしても向き不向きがありますから、いろいろな面から「この土地をどういうふうに使ったらいいのか」を考えて、最適と思われる提案を行います。
土地を売ってしまって、そのお金で夢の実現を図っていただいたほうがいい場合もありますし、その土地がマンション向きでしたら、まずはマンションを建てていただいて、その家賃収入を貯めてお好きなことをやっていただくという手もあります。
活用法については、かなり柔軟に捉えていただく必要があるでしょうね。
I:お話を伺っていると、納稅対策のお手伝いという枠には収まらない、幅の広いお付き合いをされていますね。
T:極端な言い方をすれば、その方のお葬式に伺ったときに、お約束したことがちゃんとできたかどうか、そして「あとは任せてくださいね」と言えるかどうか。その勝負になるわけですから、その場限りの売り逃げのようなことはできません。
高齢のお客様も多いので、今日が最後だと思って向き合わないと間に合わないこともあり、実際にそれで後悔したことは數知れません。ですから、社員には「今できることをすべてやってきなさい。
おいとまするときは、これで最後だと思って挨拶してきなさい」と言っています。「明日死ぬと思って働け。永遠に生きると思って學べ」というガンジーの言葉がありますが、うちはそれをモットーにやらせていただいています。
I:そういうお気持ちはお客様にも伝わるでしょうし、そうした積み重ねが信頼感や安心感につながるような気がします。
T:その意味では、「法形式の濫用をしない」ことは大切なことです。節稅は合法的ですが、実務的にはあり得ない法形式の濫用により、お客様に肩身の狹い思いをしていただきたくありません。親が子どもに殘せる最高のものは、自分の國で堂々と胸を張って生きていけるようにしておくことだと思うので、相続稅の申告はきっちり行い、その重要性をご子孫にもしっかり伝えていただきたいと思っています。
納稅は國民の義務といわれますが、稅金は日本を良くするためのもので、私たちは「納稅の権利」と捉えています。ですから、お客様の稅金は1円の不足もなく、反対に1円の払い過ぎもなく、最高の節稅対策をしたうえできちんと計算する必要があるのです。
I:少しでも払う稅金を安くしたいと思うのが庶民の本音ではありますが(笑)。
T:節稅はOKです。賃貸物件を建てたり生前贈與を行ったりして節稅することは法的に認められており、世の中に役に立つわけですから、それはどんどんやればいいんです。
たとえば、亡くなる前に家族全員を呼んで500萬円ずつ生前贈與を行えば、皆から直接「ありがとう」と言ってもらうことができて、相続で殘すよりも節稅になります。これが100萬円以內なら無稅ですし、とても合理的な方法ですよね。
稅理士の立場として、こういう合法的な節稅をお勧めしないのは、かえってお客様に失禮にあたるわけです。ですが、ご存命のうちはなかなか決心がつかないらしく、皆さんギリギリまで、現金はご自身で持っていたいと思われるようです(笑)。
I:いろいろな意味で不安もおありでしょうし。
T:そうなんです。節稅になるからといって、先にお金を渡してしまうことが、相続人にとって本當にいいことなのかどうかはわかりません。特に相続人が若い人の場合は注意が必要です。「渡したら無駄遣いをしてしまうかもしれない」と思うなら、とてもお勧めはできませんから、どういう形で渡すのがいいのかを一緒に考えます。
たとえば、その分のお金で不動産の有効活用を行う會社をつくって、その株をあげるという方法もあります。売るわけにも使うわけにもいかない形にして贈與するわけですね。
I:會社にして株を贈與するというケースは多いのですか。
T:この頃は半分以上がそうですね。親御さんはやはりお子さんのことはよくわかっているのだと思います。無駄遣いしてしまうような子だとわかっていても、親御さんが現金をあげてもいいと思うのであれば、そこは私どもがとやかく言うことではありません。結局は、お客様の願いの形によるということです。
また、借金があると必ず法定相続しなければなりませんが、會社が借金している場合には、お子さんは借金を相続しなくて済みます。このように、皆さんが幸せになる方法があるはずなので、その方法を考えていかなければいけないと思っています。
I:皆さんが幸せになるための落としどころというか、バランスのとり方については、なかなか難しいものがありそうです。
T:どうしても後継者の方がうまくいくことだけを考えがちですが、そうするといびつになるような気がしています。
弁護士さんは顧客の代理人として、その方の利益を最大限に図ることを優先します。それが彼らの仕事ですから。しかし、私たち稅理士は第三者的に全體を見ることができる立場にあります。
そこで「皆さんが自分の要望ばかり言ったらこじれてしまいます。それよりもそれぞれが少しずつ引いて、全員が幸せになるほうがいいですよね」ということを、必ずお話しさせていただくようにしています。
土地の有効活用を行うにしても、借金を背負うことに難色を示す方がいれば、土地は長男が継ぎ、賃貸物件を會社で建てることにして、そこから上がる利益を10年間100萬ずつその方に渡す「代償分割」したり、先に相応の現金を渡してしまうなど、それぞれの意向に応じた配分の仕方を考える必要があります。
I:お客様の數だけソリューションがあるわけですね。
T:そして、この「皆が幸せになるソリューション」を提案するにあたって、「皆」の範囲が広ければ広いほどいいわけです。土地の有効活用だったら、土地を提供する人も幸せ、建物を建てる人も幸せ、部屋を借りる人も幸せ、その地域も幸せ、そういうのがいいですよね。そんなふうに、皆が幸せになれる方法を見つけて、それを提案するのが、私たち稅理士の仕事だと思っています。
土地オーナー様も、ご自分の大事な財産を「世の中の役に立ててほしい」と提供されるわけですから、本當にすごいことをされているわけです。そこでお客様に必ずお伝えしているのが、「皆が幸せになるには、皆が少しずつ我慢する必要がある」という考え方、そして、自分の幸せだけを考えるのではなく、人の幸せを自分の幸せだと思ったら何でもOKになるという「自利利他」の考え方です。
それで誰が一番幸せになるかといったら、実は自分自身なんです。會社や土地を動かすというのは、そういうことだと私は思っています。
I:すべての人にそういう気持ちがあれば、相続や承継というものの見方も全く変わってくるでしょうね。
T:自分の都合や押し付けではなく、「その方の思いを形にするために本當に必要なことだ」という信念がないと、とてもこの仕事はやっていられません。「本當にあなたのためなのだ」ということが伝わるかどうか。そこは心を磨かないといけない仕事だとも感じています。
「この人は私のことを思ってくれている」「だから私もこの人の役に立ちたい」というのは、ビジネスの基本でもありますよね。最近よく聞く「Win-Win」ですと、両方ともが勝つという意味になりますが、仏教由來の「自利利他」に勝ち負けという概念はありません。相手の喜びが自分の喜びであるという考え方ですから、ひょっとしたら自分が負けているかもしれない。それでもそれが喜びなのだからいいじゃないか、というとても日本人らしい世界観だと思います。
I:勝ち負けを超えたところにこそ、喜びがあるわけですね。
T:そう、勝ち負けではないんです。勝負の世界では、勝つ人がいれば、必ず負ける人がいます。でも、相続というのは決して勝ちを競って誰かと相対するものではなく、皆がゴールという同じ方向を向いているチームのようなものだと思います。そう考えれば、皆が幸せになるソリューションが必ずあるはずだと、私が信じる理由もご理解いただけるのではないでしょうか。