注目される「社會的インパクト不動産」とは?
公開日:2024/03/29
人々の暮らしや企業の経済活動に欠かせない不動産ですが、時間の経過とともにその価値は低減していく傾向にあります。不動産の永続的な価値の向上を目指し、社會に対して一定の効果や変化をもたらす「社會的インパクト不動産」がいま、注目を集めています。
社會的効果を生む不動産
國土交通省によると、わが國で金融を除く法人が保有する総資産の約4分の1は不動産で、その価値は約624兆円といわれています。不動産は私たちの暮らしや仕事、地域社會さらには地球環境と密接な関わりを持っており、現代社會が抱える広範で多様な課題の解決に貢獻することができると見られています。E(地球環境)やS(社會的諸課題)、G(企業統治)の3要素は、いまやさまざまな社會活動の中で重要視すべきものと捉えられ、不動産も例外ではありません。
それどころか、ESGを無視した不動産開発は競爭からの離脫を意味します。そうした狀況の中、人や地域、地球における諸問題への解決に取り組み、不動産の価値向上と企業の持続的な成長に資する不動産を「社會的インパクト不動産」と呼んでいます。この場合の「インパクト」は、社會に対して一定の成果や効果、または変化をもたらすことと解釈することができるでしょう。
たとえば、最新鋭の防災?耐震機能を有するオフィスビルや、創業間もないスタートアップ企業の支援のためのスペースを設けたテナント、人材育成や食育のために使用される設備がある事業所など、その対象は広範囲にわたっています。ただ、多くの事例があるにもかかわらず、広く普及して言えるとはいえない現狀があります。その背景には、不動産が社會的価値の向上に役立つとの認識が広がっていないこと、またその価値が不動産の価値として必ずしも認知されていないことなどが挙げられています。
普及しない背景にはまた、評価軸の問題がある、との指摘があります。日常生活において、わたしたちは不動産に対してことさら意識することはありません。文字どおり「インパクトが強い不動産だ」と感じるのは、建物が外面的に奇抜だったり、珍しかったりする場合に限られているのではないでしょうか。近年は認証制度なども出てきていますが、「グッドデザイン賞に輝いた商品だ」といわれるような、人々に広く知られた不動産の社會的な評価基準が認知されていないことも、普及を妨げている要因のひとつかもしれません。
2つの対話、「資金対話」と「事業対話」
社會的インパクト不動産を普及させるには、企業と投資家および金融機関、企業と利用者?地域社會という構図の中で「対話」が生まれるべきである、と國交省の「不動産分野の社會的課題に対応するESG投資促進検討會」は指摘しています。不動産の価値を高めるには相応の資金が必要です。資金を出す側は、ESGの貢獻度が高い不動産への投融資は自らの評価も高めることから、資金の使い方を巡って不動産の開発主體との間で意見交換することが欠かせません(資金対話)。
一方、不動産開発の主體は、地域社會や住民などの利活用者や地域の行政を擔う自治體などからの要望?要請を吸い上げて社會的インパクトを具現化するための話し合いが不可欠です(事業會話)。
図:「社會的インパクト不動産」に係る2つの対話
出典:國土交通省「『社會的インパクト不動産』の実踐ガイダンス」(ダイジェスト版 2023年3月24日)
ちなみにこの「資金対話」はESG投資における「インパクト投融資」に該當するもので、特定の社會問題や環境問題などの解決を目指す事業に投資する手法です。日本國內では減少傾向にあるといわれ、ESG評価と財務評価を組み合わせて総合的に評価する「ESGインテグレーション」がわが國や米國、EUで近年のトレンドになっています。
社會的インパクト不動産の評価軸には、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)などの認証制度があります。テナントオフィスなどの居住性や快適性は、不動産とその賃料に相関関係があるといわれ、CASBEEにもそうしたデータが蓄積されているといわれています。しかし社會的な課題に対する評価は一部の視點にとどまっており、今後の評価項目に組み込むことが期待されています。
今に生きる「三方良し」の教え
わが國では、近江商人による「三方よし」に代表される、伝統的な経営理念、事業哲學があります?!笁婴晔证摔瑜贰①Iい手によし、世間によし」は、売り手も買い手もともに満足することができ、社會にも役に立つのが良い商売道であるとの心得を説いたものです。わが國では、企業の成長と地域社會を両立させる考え方が古くから浸透しています。
政府は2022年、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計畫」の中で、官民ともに主體的に課題解決に取り組み、経済成長や國民の持続的な幸福を実現することを示しました。社會的インパクト不動産は、こうした動きにも合致するものです。ただ、不動産は一つとして同じものはなく、地域性や用途などの観點から定義付や一般化が難しいものが少なくありません。前述した「資金対話」「事業対話」を深掘りしていく過程で、対話の「共通言語」となる社會的インパクト評価の枠組みが求められます。