CREコラム?トレンド
高まる「東京一極集中」への関心
公開日:2020/07/30
世界中で新型コロナウイルス感染が拡大している中、テレワークやWeb會議など働き方の変化や地方移住への関心が高まっていることで、將來の國土や社會のあり方についての長期的展望の議論に変化が起きています。これまで重要課題とされながらも進まなかった「東京一極集中」への関心も、コロナ禍を契機に再び注目を集めています。こうした社會生活の変化はオフィスや住居を供給している不動産業界に対し、かつてない対応を迫る可能性があります。
働き方の変化と地方移住への関心が増す
これまで國は有識者懇談會などを開いて30年後の國土の姿を展望し、議論を重ねてきました。
議論の背景には、(1)人口減少?少子高齢化2)AI?IoTなどの技術革新(3)ライフスタイルの多様化(4)國際環境の変化(5)自然災害の激甚化、といった國土を取り巻く環境の変化がありました。ところが2019年から2020年にかけて世界中で大流行し、感染拡大が長期化している新型コロナウイルスにより、今までの議論の前提を修正せざるを得ない狀況が生まれています。
そのひとつが働き方の変化です。ある民間団體が2020年6月に公表した調査によると、自宅でPC、攜帯電話などを利用して業務にあたるテ
レワークの利用率が1月から上昇し、緊急事態宣言下の4月から5月にかけて全國で25%、東京圏で40%と急上昇しました。緊急事態宣言解
除後の6月にはやや低下したものの、東京圏では引き続き高い利用率となっています。また、テレワークを利用している人の6割以上が新型コロナの終息後も週の半分以上をテレワークで勤務することを希望しているとの結果が出ています。
図1:全國?東京圏の平均テレワーク利用率
WEB會議をよく利用するようになった時期
出典:國土交通省「企業等の東京一極集中に関する懇談會 第2回資料」(2020年7月10日)
2020年2月以降Web會議システムも利用も増加しています。今後社內會議はWebでの開催で問題ないと考える人が63%と高い比率を示しており、新型コロナウイルスが終息した後でもテレワークやWeb會議を利用した在宅勤務が定著する可能性が高まっています。
在宅勤務が普及すると、都心部のオフィス需要が低下し、代わって近郊や地方へ移住を希望する人が増加するとの指摘が出ています。都心
への通勤回數が減少したり不要になったりすることで自宅に仕事用のスペースを確保したいとの欲求が高まっています。
地方への回帰を求める人も増えているようです。ある就職情報會社の調査によれば、20歳代のU?Iターンや地方での転職希望について2020年
4月と同年2月を比較すると14ポイント増加していることがわかりました。新型コロナウイルス感染者が増加している都市部で働くことにリスクを感じ、今後テレワークでの業務遂行が続くならば地方に住むたいと考えているのです。在宅勤務は、仕事が少なく収入が確保しにくい地方在住のデメリットを解消してくれるとの見方が広がっているのではないでしょうか。
物流の変化と輸出規制
新型コロナウイルス感染癥は、世界中のモノの流れを一変させました。「世界の工場」といわれてきた中國で感染が広がったことで、グローバル?サプライチェーンが世界各地で寸斷され、さまざまな物資の供給が途絶えました。人材の移動も制限されるなど、物流リスクが顕在化しました。WTO事務局によれば、80か國で新型コロナウイルスに関連した一部品目の輸出禁止または制限措置が取られています。こうした製品供給のグローバル化は、ウイルスや自然災害などが世界で同時に勃発すると一気に崩壊の危機に直面することから、地産地消モデルを再評価し狹域でのサプライチェーンを目指すべきとの意見も出ています。
ロンドンVS東京 一極集中比較
新型コロナウイルスによって働き方やヒト?モノの流れに変化が生まれ、國土や社會の長期的な展望は根本的な見直しを迫られています。とりわけ東京への一極集中に対しては従來の都市偏在から地方創生という枠組みの中での議論をさらに進めていく必要があります。國土交通省では、先進國の大都市と比較して、東京の一極集中の背景を分析しています。
2020年7月に開催された「企業等の一極集中に関する懇談會」では、わが國では主要な大學が東京に集中しているため毎年の新規採用者が東京に集積されていること、大企業の東京本社比率が長期間にわたって高止まりしていること、あるいはまた、地方の企業の生産性や給與水準が低く、起業率も低いままであることなどを指摘しています。
図2:國內地域との超過転出入人口(2018年)
出典:國土交通省「企業等の東京一極集中に関する懇談會 第2回資料」(2020年7月10日)
イギリスでは地方に大學が多く、ロンドンでは大學進學の世代が都市を離れる「転出超過」が起きており、その數は約10萬人。これを東京と比べると、地方から主要大學の入學を目指す人が6.5萬人で「転入超過」になっています。またロンドンでは30歳代、40歳代のファミリー世代も転出超過になっています。同懇談會では、大學の立地が東京一極集中の特殊性の一つといえるのではないかと指摘しています。
東京―ロンドンの比較では、開発規制の厳しさにもスポットを當てています。わが國では、市街化區域內では一定の基準を満たせば開発は認められ、特に都心部では容積率緩和制度も広く活用されています。これに対してイギリスは原則として全ての開発行為に計畫許可が必要
で、自治體の裁量によって厳しく運用されています。ロンドンをはじめ都市の郊外には原則開発が認められないグリーンベルト地帯が指定されており、都市の外縁が規定されています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、わが國の國土を今後どのように発展させていくべきかの議論の過程で、大きなインパクトを與えています。