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空家法施行5年 國交省が調査研究を発表
公開日:2020/03/31
國土交通省のシンクタンクである國土交通政策研究所は2020年2月、「空き家問題における土地?建物の所有者不明化に関する調査研究」(以下、「調査研究」)を発表しました。景観を損なうだけなく、衛生?防災上もリスクがある空き家の適切な管理?運用を定めたいわゆる「空家 法」が2015年に施行されて5年目。社會問題化する空き家対策の一環として、所有者不明の不動産の実態把握と今後の課題について幅広い調査が行われました。
2011年の大震災契機に「空き家法」施行
調査研究は、2011年の東日本大震災以降に顕在化した所有者不明土地問題と、周辺の住環境などに直接的な影響を與える空き家に対して、実態把握と各自治體の取り組み狀況を整理し、問題解決に向けた知見を得る狙いで実施されました。(調査期間は2017年10月2日~ 20日、全市町村の1,741団體を対象に回収率67.3%)
自治體は公共事業などで用地取得のために買収や収用を行うことから、所有者不明土地に対峙する立場ですが、こうした場合の土地買収は例外的な措置と位置付けられていたために、法整備が後手に回っていました。
1991年の地方自治法改正や2009年の農地法改正で、所有地の把握狀況の明確化や不明な共有林の使用権の設定などが可能になりましたが、所有者不明の土地にスポットが當たる契機になったのは、2011年に発生した東日本大震災でした。復興過程において被災地域の集団移転や市街地の區畫整理の事業で、所有者不明の土地が障害になり、被災した自治體は迅速な震災復興事業ができなかったのです。
所有者不明の土地問題が行政上の課題になると、同時に出てきたのが空き家問題です。空き家が発生し増加した時期については特定が困難といわれていますが、家主が長年にわたり不在で、その間建物は朽ち果て雑草が生い茂るなど景観だけでなく倒壊などの危険が生じており、周辺住民への悪影響の點では所有者不明土地以上に問題な深刻になっています。
こうした狀況から2014年に議員立法で成立したのが「空家等対策の推進に関する特別措置法」、いわゆる「空家法」です。空き家に対する立ち入り調査や、所有者の固定資産稅課稅情報を利用して、管理狀態の悪い建物に対する助言?指導や、勧告?命令、それに従わない場合の代執行を盛り込んだ法律です。特に課稅情報の利用が明記されたことで自治體が所有者情報を入手しやすくして効率的な所有者探索ができるようにした點で畫期的といわれました。
固定資産稅臺帳で所有者確認 戸籍謄本は探索困難も
所有者の確認では、95%の自治體は不動産情報が豊富に記載されている「固定資産稅臺帳の確認」で行っており、不動産登記簿や近隣への聞き取り、戸籍謄本?住民票の確認を上回っています。逆に戸籍謄本での探索で苦労が多いことも調査で明らかになっています。その理由は、他の市町村への請求の手間や負擔が大きく、転籍や除籍もあり所有者の本籍を把握する必要があるとの回答が寄せられています。
近隣への聞き取りも、時間が経過しているために有益な情報があまり得られないケースや、個人情報やプライバシーへの配慮とトラブルに巻き込まれるリスクを恐れて進まない場合もあるようです。
図1:負擔や苦労が多い探索手法
出典:國土交通省 國土交通政策研究所
地域住民の相談?苦情が契機保安?生活面で不安
所有者調査に至るきっかけは、住民などからの個別相談や苦情が約85%と突出しており、空家法や條例などに基づいた自治體の自発的な取り組みの占める比率は16%と低く、住民からの問題提起が契機になっている実態が明らかになっています。
また相談や苦情で寄せられる周辺環境の影響に関して、「建物の破損」(63.6%)、「建物の倒壊」(36.4%)など保安上の危険に関するものが最も多く、「庭木?雑草の繁茂」(53.7%)、「害蟲?害獣の発生?増殖」(28.6%)など生活環境保全上の問題がこれに次いでいます。こうした結果、「景観阻害」(35.6%)、「火災?犯罪などの危険」(29.5%)といった指摘も少なくありません。
図2:周辺環境への影響
出典:國土交通省 國土交通政策研究所
全市區町村の7割で空き家対策を策定
國交省では取り組み事例やノウハウを共有して所有者探索を円滑にする交流會を2019年9月に発足し、研究會を開催しました。調査研究では、今回のアンケート調査で得られた知見をまとめ整理しています。所有者の特定に関しては、(1)建物の登記情報の確認(2)固定資産稅課稅情報の確認(3)近隣への聞き取り―の3つが自治體による所有者の確認手法として有力視されています。
ただ、こうした手法を用いても、所有者が確認できないことがあります。その主な要因として、登記に関しては建物がそもそも未登記で、移転登記されていないなどの登記手続き上の問題があるほか、登記名義がすでに解散した法人であることなどが挙げられています。
國土交通省の調べによると、空家法に基づく空き家対策計畫を実施した自治體は、2018年度末で全市區町村の約6割となる1,051団體が策定し、2019 年度には7 割を超える見通しです。
計畫の適切な実施のためには,所有者不明の土地を解決するには、所有者の特定が不可欠です。今回の「調査研究」の成果を各自治體が共有し、問題解決に向けた対策計畫の実行が求められます。