世界最古の木造建築「法隆寺」、日本最古の茶室「待庵」――あの日本建築が長持ちする理由
―― たくさんの資材を使う建築において、資源の循環性という観點も重要です。建材のリサイクルの現狀はいかがでしょうか。
藤森 : 建物に使われる材料の中で、リサイクルされているものとしては、紙と鉄などがあります。紙はリサイクルのシステムが確立していて、最近では奪い合いになっているくらい。鉄も有史以來、リサイクルされてきました。鉄筋コンクリートの塊を解體現場で潰しているのは、運びやすくするのに加えて、中に入っている鉄筋を取り出すためです。一方で、コンクリートやプラスチックなど、たくさんの廃棄物をどうするかは、今後の大きな課題です。
―― 日本の伝統的な建材である木材は、資源の循環性という観點からはどのように評価できますか。
藤森 : 木は伐採してもまた生えてくるので、木材は循環性に優れている材料と言えるのではないでしょうか。ただ、木がこれほど身近なのは日本だけ。日本は巖盤が少なく、地震の褶曲(しゅうきょく)※を受けて土壌が緩み、雨が年間を通してよく降るので、木が自然と生えてきます。
巖盤が多い地域では、そうはいきません。ロンドンでは大火の後に建物をすべて煉瓦造りにしましたが、煉瓦の生産で都市周辺の木を伐採し盡くして燃やしたために、森林が荒廃してしまった歴史があります。
※ 地層などが大きな力によって、波を打ったような形狀に変形すること
―― そういった背景から、木造建築は日本らしいスタイルなんですね。建築の長壽命化を考えるとき、日本で長い間建っている木造建築も參考になりそうです。
藤森 : 木造建築として世界最古の法隆寺があるように、メンテナンスし続けて、長く使うという意味ではサステナブルでしょう。ただ、法隆寺は特殊ですから、現代の持続可能性とは単純に比較できません。
―― どのような點が特殊だったのでしょう。
藤森 : 法隆寺は、まさに法隆寺のためだけに技術も材料も結集してつくられた一點物。例えば、柱を切り出す際、通常であれば一本の木から一つの柱を得ます。その場合、強度の低い芯を含まざるを得ません。
一方、法隆寺では太い木から芯を避けて、4本の柱が取られるという贅沢な使い方がされました。樹齢を重ねた太い木だからできたことです。だから柱が強固なんです。建立當時の飛鳥時代には、まだ周辺に良質なヒノキの大木が豊富にあったのでしょう。
ちなみに、縄文時代では、クリのような広葉樹しか使っていなかったのですよ。石の斧では、針葉樹のスギやヒノキは切れないからです。ヒノキなど建物に使いやすい針葉樹が伐採できるようになったのは、彌生時代に鉄が扱えるようになってからでした。
中世以降は、木材を流通させて使うマーケットができて、現代にも通じる木材の寸法體系が定まっていきました。
木造建築を語るときには、こうした歴史的背景も念頭に置かなければなりません。
上質な大木が豊富にあった時代ゆえの、ぜいたくな柱の取り方を描いてみせる藤森さん。
日本が世界に誇る建築?法隆寺。その耐久性だけでなく、回廊の配置の美しさなど、デザインとしての完成度も極めて高い。
(c)YOSHIO TOMII/SHASHIN KOUBOU /amanaimages
―― 材料だけでなく、デザイン性も建物の長壽命化には関係がありますか?
藤森 : おおいにありますね。見た目が美しいから、みんな大切にして長持ちするんです。何が美しいかの感性は、國によって異なります。例えば、日本には木の表面に塗裝を施さない白木を良しとする美學があります。海外では、だいたいニスやベンガラなどの塗料を木の表面に塗ります。法隆寺にも一部では塗られていたようですが、中世から安土?桃山時代の千利休の茶道で、白木の美が確立されました。以降、日本の伝統的な建物には白木が多く使われています。
利休による現存する日本最古の茶室「待庵」は、長持ちしている建物の中では個人的に好きなものです。待庵は、言ってしまえば、人力で持ち上げられるような小さなボロ屋ですよ(笑)。でも何百年もの間、地域の人々から愛され重要な建築物としてあり続けています。使う方に愛され大切にされるということも、建物が長持ちする條件としては欠かせないのでしょう。